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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第三冊 夏衣

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33/50

厄介事



 子供の姿をした高橋さんとの期限付きの同居生活が始まって、二週間程経った頃だった。


 さっきまで楽しく遊んでいた紺が、急に立ち上がった。初めて見せる険しい表情。鋭い視線をドアに向けたまま、紺は高橋さんの腕を強く掴み、力一杯引っ張る。そのまま、戸惑う高橋さんを店内の隅に連れて行く。


 紺が反応したとほぼ同時に、ゾワッと、何かが背中を撫でる感触がした。


(気持ち悪い!!)


 その直ぐ後に、強い吐き気と頭痛が襲ってきた。


(嫌な予感がする)


 口元を押さえながら、必死に吐き気と頭痛に耐え、皆に向かって大声で指示を出す。


「紺、高橋さんを連れて二階に。皆も一緒に上がってて。私が良いと言うまで降りて来たら駄目。分かったわね。さぁ、行って!!」


 眉を顰め、険しい表情のまま、店内にいる付喪神様全員と高橋さんに指示すると、彼らは急いで二階へと避難した。二階はどんなものが来ても安全だからね、


 全員避難出来たのを確認すると、ホッとしたのも束の間、慶介が一人の少年を連れて神楽書店を訪れた。


「佑樹いるか?」


 ドアを僅かに開けて尋ねてくる。


 途端に、ドアの隙間から、黒い(もや)の様なものが店内に入らうとして来た。


 だけど、家神様である見えない同居人さんが、侵入を阻んだ。弾かれたように靄は消える。


 しかし、ドアの外には黒い靄の塊と慶介。


 視界に黒い靄が入るだけで、吐き気と頭痛が襲う。居続ければ居続ける程、症状が酷くなる。


 気持ち悪さの原因は、間違いなく、この黒い靄に違いない。


(服の上でリバースしてやろうか)


 そんなものを、この神聖な場所に連れて来た慶介に向かって、本気でそう思ったが、何とか思い留まる。その代わり、かなり低い声で答えた。


「……慶介、あんたがここに来るなんて珍しいわね。一体、何を連れて来たの?」


 滅多に来ないけど、用事があって来た時は勝手に入って来るのに、今日に限っては何処か遠慮気味な様子に、私は慶介が厄介事を持ち込んだと確信した。それは、紺達、付喪神様の様子を見ても明らかだった。


 それも、かなり(たち)の悪い厄介事――


 本心は、入店拒否したかったけど、そういう訳にはいかないよね。慶介が一緒にいなければ、即入店拒否して、死神様に通報するわ。


(……仕方ないわね)


 内心、大きな溜め息を吐きながら、慶介に入るよう促す。ついでに、彼の後ろに隠れている厄介事にも声を掛けた。


(マジか……とんでもないものを連れて来たわね。それにしても、ここまで酷いのは……)


 一度しか見た事がない。あれは、悪夢そのものだった。


 慶介の後ろに隠れている少年の姿を見た瞬間、私は盛大に顔を歪めた。


 私の表情を見て、慶介が不愉快そうに眉を(しか)める。文句を言いたそうだが、何とか押し止めている感じね。


(かなり、侵食されてるみたいね)


 胸の中で派手にボヤく。


 少年の見た目は、蒼と陸と同じくらいか少し上ぐらい。いって、小学一、二年生ぐらいかな。


 まだ五月なのに、青色の浴衣を着ていた。容姿はかなり可愛い。サラサラの黒髪に大きな目。


 見知らぬ場所に連れて来られて、少し怯えている様子がかなり庇護欲をくすぐる。


(慶介はそう感じたのね。口は悪いけど優しいから)


 簡単に想像出来た。


 しかし、私の目には、全くそんな風には映らなかった。


(庇護欲? ないない)


 代々護国神社で宮司をしているからか、慶介は祭神様の加護を受けている。本人は知らないけどね。だから、平気で少年と手を繋げているのね。


(普通の人間なら、軽く呪われているわよ)


 そう思ってしまう程、少年の全身を黒い(もや)(おお)っていた。


 横井春を覆っていた靄よりも、遥かに濃く、密集された重い重い靄。


(これはもう、悪霊のレベルじゃない)


 思わず息を呑む。


 吐き気と頭痛、そして、極度の緊張のせいで、冷や汗がどっと溢れ出て来た。頬を大粒の汗が伝い落ちる。正直ら今にも倒れそうだった。


 だけど、倒れる訳にはいかない。絶対に――


 あの時は神楽さんがいたけど、今は私しかいない。直接、私が対峙するしかない。


 皆を、そして、私と神楽さんの居場所を護らないと。倒れるのは、その後だ。


 そう――慶介が連れて来たのは、まさしく〈魔物〉そのものだった。




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