爆弾発言の行方
ずっと黙って聞いていた矢那さんが、サラリと爆弾発言を噛ましてくれました。
『……その手があったか!!』
朱里様が矢那さんの案に食い付く。紺もだ。蒼と陸も賛同する。っていうか、話聞いてたの。
反対に私は焦る。黙っていたら、どんどん話が進んで行きそうな勢いだった。
「それこそ、無理!! だって、死神様の仕事は、とても大変で忙しの。迷惑に決まってるじゃない」
『一応、有給があるのでは?』
(はぁ〜何言ってるの、朱里様は。落ち着け、私。っていうか、神様が有給って)
「私事で、貴重な有給を使わせる訳にはいかないでしょ。それに、そもそも、あの補佐官様が認める訳ないわ」
地獄に本を卸しているから、何度か話した事がある。話し方はとても柔和だけど、中身は全く違うの。出来れば会いたくない。避けるべき人の代表格の様な人だ。
(仕事は超ホワイト、精神は超ブラックだよ、あの職場環境は。それに、白さんも休日は休みたい筈。やりたい事もあると思う。迷惑を掛ける訳にはいかないわ)
『『試しに相談してみれば?』』
蒼と陸にそこまで言われたら、「駄目」とは言えない。私より遥かに歳がいってるのに、見た目が子供のせいか、強く出れないのよね。
項垂れていると、紺が私のスマホを持って来た。受け取ってから顔を上げると、付喪神様達は頷く。
渋々、皆に促されるままスマホを操作する。番号は以前から知っていた。電話ではなく、メールにしたわ。それなら迷惑は掛からないでしょ。
白さんが来てくれたのは、夜の十時を少し過ぎた頃だった。今回は死神バージョンだ。まだ、仕事中なんだって。
(本当に、ごめんなさい)
心の中で必死で謝ったよ。ほんとは口にしたかったけど、目下、当事者である私を無視して、朱里様達がサクサクと説明し話を進めているから、口を挟めないの。
『なるほど…………で、俺に護衛を頼みたいと』
低い声で白さんは確認する。
(呆れてるよね)
不機嫌そうな顔で真っ直ぐ見詰められると、萎縮して顔をそむけたくなる。
(あ〜怒ってますね。忙しいのに、こんな事を頼んだ私達が悪いのは分かってます。言い出したのは、付喪神様達だけど)
「……いや……そこまで大袈裟にしなくていいです。パトロールしている時に、頭の隅に入れておいてくれるだけでいいので」
慌てて訂正する。
『別に怒ってはいない。寧ろ……』
(寧ろ……? 何?)
『有給は取れるのか?』
埒があかんとばかりに、朱里様が詰め寄る。
『いきなり、取れるわけないだろ? それに、いつまで続くか分かんない状態なのにか?』
確かに、白さんの仰る通りです。
『まぁ……佑樹が言ったとおら、暫くはパトロールの際、この上空を通るように皆には言っておく。後は、時間が許す限り、俺が一緒にいてやろう』
「それじゃ、白さんが休めないんじゃ……」
『俺は何処でも寝れるタイプだ。既婚者でもない。その点は自由だ。だから、安心していい』
(ん? どういう意味かな? ……まさか!?)
「もしかして――」
【ここに泊まる気ですか?】
ずっと黙って聞いていた見えない同居人さんが、私の台詞に被せてきた。
『その方が安全だろうが』
【ここは、私がいるので安全です】
『確かに、家神のお前が居れば安心だ。だが、外に出られないお前は佑樹を護れないだろう。佑樹は仕事を休みたくない。いつ、外に出る用事があるか分からないなら、一緒に住んでいた方がいいだろうが』
【それを言うなら、貴方が仕事に行っている間はどうするのですか?】
とっちも引かない。
片方は紙、片方は口。静かな応酬だけど、見えない同居人さんと白さんの間に、とてつもなく険悪な空気が漂っている気がするのは、私だけかな。
そんな二人を見て、付喪神の皆はやれやれと溜め息を吐いている。だけど、矢那さんだけは、目をキラキラ輝かせていた。どうしてかな。
「……あの〜お忙しい白さんに、そこまでして頂く訳には……」
やんわりとお断りする。当たり前でしょ.。
【そうです】
折角、穏便にお断りしようとしているに、見えない同居人さんは畳み掛けるように言い放つ。
(ヒエッ!! 白さんの顔、超怖い。眉間の皺が今まで見た中で一番増えてるよ)
白さんが、そこまで私の事を心配してくれてるのは嬉しい。嬉しいけど、そこまで甘えるのはちょっとね……仕事上の知り合い程度なのに。だから正直に、仕事に影響が出ないよう、やんわりと伝えようと思う。
「白さんが心配してくれるのが、とても嬉しいです。私が死神様達から距離を取られているのに、気付いていましたから……こんな、個人的な頼みを真摯に考えてくれて、本当にありがとうございます。だからこそ、白さんには無理をしてほしくないんです。必要以上に甘える訳にはいきません。なので、出来る範囲で、しんどくない範囲でお願い出来ますか?」
話終えた後も、白さんは黙って私を見詰めている。
(白さん?)
首を傾げる。そんな私を暫く見詰めた後、白さんは大きな溜め息を吐いた。
『…………分かった。出勤前に寄ることにする。報酬はそうだな、飯を頼む』
(そんな事でよかったら、いくらでも)
「分かりました。ありがとうございます。好き嫌いはありませんか?」
にっこりと微笑みながら尋ねる。
『特にない』
短くそう答えると、白さんは仕事に戻って行った。




