手紙(2)
只今、家族会議の真っ最中です。
会議に参加しているのは、神楽書店のいつものメンバー。
当然、議題は高橋様からの手紙です。
「……まぁ、考えられない事態じゃないよね。福をまくし、紺、見た目子供だし」
蒼と陸と一緒にオヤツを食べている紺を見ながら答える。
【確かにそうですね。実際、それで有名になった旅館がありましたね】
「あったね〜〜夏になると有名人が泊まりに行って、会えるかどうかレポートするやつだよね」
そう……高橋様の屋敷で、紺の立ち位置はまさに〈座敷わらし〉的なものだった。
それよりも、効果は紺の方が高い。あやかしと神様なら、神様の方が圧倒的に力を持つわ。だから、理由を訊かずに、護国神社の宮司長は、パシリを進んで引き受けてくれた。若干一名は拒否してるけどね。
【でも、効果は家ではなく、高橋さん本人にある事を誰も知らないのが、一番の問題ですね】
「ほんと、それ。それが一番のネックだわ」
確かに、高橋様は成功した。紺の加護があったとしても、彼の成功は、高橋様自身が努力した結果だ。
会社が大きくなったのも、繁栄したのも、全部高橋様と彼に付いて来た人、そして、会社で働いて来た人の頑張りなのに。努力を蔑ろにされた感じがして、悲しくなる。でも、一番悲しいのは、高橋様達だと思う。
現在、高橋様は完全に会社の経営から手を引き、療養している。
その高橋様の所に、次代を引き継いだ社長が、父親の所に訪れては、絵本の在処を訊いているそうだ。特に、療養に入ってからは酷くなる一方だとか。
【それだけ、高橋さんが優秀だっただけの事】
(現社長さん、自信なくすわね。同情はしないけど)
「そう言ったら、身も蓋もないわ」
(時々、見えない同居人さん、辛辣になるわね)
【神楽書店に、裏からプレッシャーを掛けて来るかもしれません】
「それは大丈夫だと思うよ」
【どうしてです?】
『何故、断言出来る?』
見えない同居人さんて朱里様が同時に詰め寄る。
「高橋様が、打てる手は全て打ったと言ってるのよ、あそこまで会社を大きくした人が。かなり徹底的に封じてるに決まってるわ」
(おそらく、えげつないくらいにね)
『だが、絶対はないぞ』
【朱里様の言うとおりですよ】
どうやら、見えない同居人さんと朱里様は手を汲んだみたい。
「確かに、そう言われたら何も言えないけど……可能性は低いでしょ。だったら、可能性が高い方を重点的に対処すべきじゃない?」
『…………だが……』
【…………】
私が一番気になるのは、追い詰められた馬鹿が起こす行動なの。
(高橋様が手を打った分だけ、社長さんは紺に執着するんじゃないかな。だとしたら……)
周囲が騒がしくなるだけでは済まなさそう。
『……暫く用心した方がよいな』
【ここも危ないのでは? 高橋さんのように万が一もあります。地獄にいた方が……】
皆が心配してくれる気持ちは嬉しい。嬉しいけど、見えない同居人さんは遂に、地獄を勧めて来た。
「……地獄に居れば安全だけど。絶対に追い掛けて来れないし、襲われない。でも……そもそも、地獄って亡者が逝く所でしょ。だから、地獄はなし」
【どうしてもですか?】
(食い下がるわね)
「どうしても、なし」
【……ならば、外出は控えて下さい】
「それも難しいわね」
仕事を、これ以上休む訳にはいかない。付き合いがある古本屋に足を運ぶ事もあるし、日常的な買い物もある。いつまでも、護国神社の宮司さん達に迷惑掛けられないわ。ネットで買えばいいけど、あまり使いたくない。場所が場所だからね。
だから、引き篭もるのは正直難しいわ。出来ればしたくない。それが本音かな。
(彼の心配も分かるけどね……)
【地獄に行くのも嫌。ここに居るのも嫌ですか】
かなり苛々した様子だった。こんな見えない同居人さんは初めてだ。でも、ここで折れる訳にはいかない。
グッと息を飲み込んでから答えた。
「じゃあ、訊くけど、いつまで? 言っとくけど、そっち方面に依存している人はなかなか惹かないわよ。その間、ここを閉めろって。そんな事出来ると思う? 私はね、神楽さんが築いてきた信用を失うような事はしたくないの。それに私自身、この仕事が気に入ってる。これぐらいの事で休むのは、絶対嫌。誰に何を言われても休むつもりはないわ」
真っ向から否定した。一気に言い切ったから、息が上がった。
【…………】
キツイ言い方だったけど、言った事に後悔はない。
嫌な空気が漂う。
沈黙が続く中、誰かが私の袖口を引っ張った。引っ張っていたのは、紺だった。その表情は、今にも泣きそうだった。
(紺が悪い訳じゃないのに……)
私は椅子から下りると両膝を床に付き、紺を力一杯抱き締めた。
「ごめんね、紺。紺は悪くない。だから、心配しなくていいから。大丈夫だよ」
必死で紺に謝る。
『とは言ってもだ。念のために、手を打っておいた方がいいのではないか? 本屋内は安全だ。社会的な圧力に関しては、高橋が手を打っておるなら大丈夫だ。問題は外だな。……祐よ、護衛を付けた方がよくないか? といって、我らはそういう能力は低いからの……』
朱里様が唸っている。
『だったら、白殿に頼めばよいのでは?』
(…………はい?)
ずっと黙って聞いていた矢那さんが、爆弾発言をかましてくれたよ。




