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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第二冊 絵本

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28/50

手紙(1)



 満開だった桜も散り、ゴールデンウィークも終わった。初夏にはまだ早いのに、時折半袖で過ごせるようになった時期に、その手紙は届いたの。


 驚いた事に、差出人は高橋様からだった。


「……何で、今になって?」


 差出人の名前を見ながら呟く。


(……あれだけの決意をした人が、あっさりと反故にするなんて考えられないわ)


 疑問に思うのも無理なかった。


 私は、神楽書店を出て歩く後ろ姿を思い出す。


 高橋様は一度も振り返る事も、立ち止まる事もしなかった。背筋をピンッと伸ばし、一歩、一歩、ゆっくりと歩いて行く。


 あの時、私は確かに感じたの。強い覚悟と決別の意志を、その背中から感じ受け取った。だからもう、二度と連絡を取ることはないと思っていた。


 その高橋様が、まさか、再び私に連絡を取ってくるなんて、意志が揺らいだとは考えにくい。


(なら。紺に関わる問題が高橋様の元で起きたとか――)


 どっちにせよ、開けないと話にならない。取り敢えず、読んでからよね。話はそれから。


 私は手紙の封を切った。そして、読んだ。


 書かれていた内容は三点。


 要約すると、高橋様の命があと僅かだという事。


(それは、薄々感じていたわ。高橋様の命のエネルギーが減っていたから)


 二点目は紺の事。


 紺が高橋家で、どういう存在として認められ、暮らしてていたか。事細かく記してあった。


 問題は、最後の三点目。


 紺を護ろうとした結果、生まれた弊害(へいがい)に対する心配。


 最後まで読んで、溜め息が出たわ。


(あなが)ち、間違いじゃないから、余計に問題なのよね)


 高橋様は、紺の事を福の神のように扱ったの。


 その気持ちは理解出来るわ。壊れ易い上に、安定していない状態で連れて来たんだから、必要以上に、本体である絵本を護らなければならないと考えた。


 元々、高橋家はその辺に関して、造詣が深かったのも功を奏したようね。


 結果、紺は高橋家で護るべき〈守り神〉になった。


 事実、高橋家は彼の活躍で飛躍的に事業を伸ばし、裕福になった。その手腕は神がかっていたらしい。それが、より、信憑性を高めた。


 高橋家の〈守り神〉を害してはならない。


 掟のように徹底したと、手紙に書いてあった。


 問題は、高橋様が倒れた後だ――


 倒れれば、それだけで力は失墜する。ワンマンなら特にね。ましてや、今〈守り神〉は彼の傍にはない。


 抑止力がなくなった親戚や家族は、必死で、紺の居場所を探しているらしい、絵本を手に入れるために。そのためなら何でもする。高橋様の心配は、まさにそこだった。


 もし紺の居場所がバレれば、間違いなく彼らは動く。最悪、神楽書店を襲うかもしれない。その事を心配して、高橋様は知らせてくれた。


(結構、過激な一族よね)


 でも、ある意味納得出来る自分が悲しい。


 大袈裟ではなく、それこそ裏から手を回して、社会的に制裁に出る可能性も十分考えられる。


 ステータスが高い人程よく、そういうスピリチュアルな方面に肩入れするの。意外だけどね。(かつ)て、私がいた教団の、顧客の三分の一は裕福層だったわ。


(あっでも、高橋様が何も手を打たない事は到底考えられないわね)


 現に、出来る限りの手は打っていると言っているので、取り敢えず安心かな。容赦なさそうだし、手紙にも、安心してくれと書かれていたしね。


 それでも絶対とは言えないから、最後は「外出の際は特に用心してほしい」という旨で締め括られていた。


 高橋様が手紙を送って来た気持ちは理解出来る。私が同じ立場だったら、同じように手紙を送っていた。それに、出来る限り、迷惑が掛からないよう手を打った筈。


「注意はするけど……」


 外出しない訳にはいかない。生活もあるし、仕事もある。神楽書店から出ないなんて無理。


【取り敢えず、暫く仕事は休みましょう。日々の買い物は護国神社の者にさせればいいのでは】


 見えない同居人さんの発言に、パシリ扱いに怒り狂う慶介の顔を想像して、また溜め息を吐いた。




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