観桜会(3)
結局、白さんは帰らず、一緒に準備を手伝ってくれた。
お花見は庭でする事にしたの。庭に植えられている桜が、ちょうど満開だからね。後二日経てば、散り始めると思う、一番良い時だよね。一応寒いから、店内も開放してるわ。今は誰もお預かりしてないから大丈夫。
さすがに、姫路城の夜桜の下では無理だからね。まぁでも、雰囲気だけでも味わう事は出来るでしょ。
あらかたの準備を終えて店内に戻ると、蒼と陸がヤンチャしていたよ。白さんのセーターを引っ張って遊んでいた。紺はそんな白さんをニコニコ笑いながら見上げている。
白さんには災難だけど、微笑ましい様子に、自然と口元が緩む。紺の無邪気な笑顔を見ていると、心配しなくて大丈夫だと思えてくるよ。
(うん、絶対、大丈夫)
更に口元を緩めた私とは反対に、子供達に囲まれた白さんは、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。絶対、子供にしたらいけない表情だ。そんな白さんを見て、まだまだ口元が緩む。
(だらしない顔になってるよね。でも、どうしても緩んじゃうんだから、しょうがないよね。あ〜限界そう。そろそろ、救出してあげないと)
「白さん、何か呑みますか? 一応、お酒もありますよ? つまみも出しましょうか?」
白さんに尋ねる。
その声に、蒼と陸はパッと掴んでいた手を放した。白さんのセーターは悲惨な事になってたよ。開放された白さんは、軽く溜め息を吐いた。
双子と紺は庭にいる。お酒と聞いて待機中。
元々、底なしの翁と朱里様のためにお酒を用意しておいたの。勿論、私は未成年だから、買ったのは慶介だ。お金は全部私が出したけどね。二十歳になって一週間でも、未成年じゃないからね。
結構、高い日本酒を十本以上買ったわ。神様に安いお酒は出せないでしょ。おかげで、店員さんから不審な目で見られたよ。お店でも始めると思ったのかな。
後、ビールも三ケース買った。発泡酒じゃない方を。ウィスキーとワインも数本用意した。
急な出費だけど、常日頃からお世話になっているし、こういう所で、お返ししておかないとね。
『佑樹の手作りか?』
「全部じゃないけどね」
『なら、貰おう』
少し、白さんの機嫌が直る。口角が少し上がっているからね。
「分かりました。少し待ってて下さい』
そう声を掛けてから奥に消えると、大皿に適当に盛り付ける。
つまみといっても、和食のおばんざいに近いかな。唐揚げに、だし巻き玉子、里芋の煮っころがし、かぼちゃと小豆を煮た物にほうれん草のお浸し。蓮根のきんぴらなど。
包丁が持てるようになってからは、父の手伝いをしていたので、そこそこは出来るつもり。まぁ、不味くはないと思うけど。
戻って来ると、見えない同居人さんがよういしていたのか、白さんはビールを美味しそうに呑んでいた。
「どうぞ」
テーブルに料理を盛った皿を置く。
『……これ、全部作ったのか?』
驚く白さん。
「はい。口に合えばいいけど。……皆も食べるでしょ。庭に持って行こうか?」
さっきまで庭にいた矢那さんと朱里様が、いつの間にか傍にいる。
(食べ物とお酒の匂いに、ほんと敏感なんだから)
少し呆れて苦笑する。基本、神様やあやかしはお酒好きが多いからね。
また奥に戻って大皿に料理を盛ると、庭に持って行く。既に始まってたよ。
(……これって、完全にアウトだわ)
見た目、幼稚園児達を入れての酒盛りだからね。知らない間に、見た事がない付喪神様も紛れてるし。
今警察が来たら、間違いなく私と白さんが捕まるわ。もし来たとしても、見えないから大丈夫だけど。
(だからって、この光景はどうなの)
もう、深く考えるのは止めよ。皆、楽しんでるしね。一応、蒼と陸、紺は二十歳をとうに越えているから大丈夫。
「呑んでもいいけど、翁達の分は残しといてよ」
(一応、皆に念をおしておかなきゃ。絶対、際限なく呑むよね)
『無くなったら、買いに行けばいいだけではないか』
(呑み潰す気満々だね、朱里様)
『そうよ、白殿が居るのだから、一緒に買いに行けばいいのよ』
(確かにそうだけど……)
色っぽい姿で、矢那さんは日本酒を呑んでいる。呑兵衛がもう一人いたわ。言いたい事が色々あるけど、この空気を壊したくない。
(でも、まぁいいかな。紺も楽しそうに笑ってるし)
苦笑しながら皆を見ていると、翁とその友人達が遊びに来た。
作っていた料理とお酒はあっという間になくなったよ。仕方ないので、白さんとお酒の買い出しに走ったわ。その間に、見えない同居人さんが必死でおつまみを作っていたよ。
すっごく大変だったけど、楽しい一日だった。お酒の買い出し中、白さんと出店回り出来て嬉しかったよ。純粋に、出店巡りが楽しかっただけだから。
皆の笑い声を聞くだけで、幸せな気持ちになれるって、本当なんだね。
――ありがとう、お父さん。




