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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第二冊 絵本

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26/50

観桜会(2)



『専門医には診せたのか?』


 心配した白さんが訊いてきた。


「勿論、速攻、翁の所に診せに行きましたよ」


 とてもとても心配だったからね。私が気付かない傷があったら困るし、補強方法が間違っていたら大変だから。それこそ、取り返しの付かない事になるわ。


 幸い、絵本には問題になるような深い傷はなかったよ。私が補強した箇所も特に問題なくて、一気に身体の力が抜けたわ。


『翁はなんて言っていた?』


「……結論から言えば、退化したせいだと、翁は言っていたわ。あくまで仮説だけど」


『退化?』


 物騒な単語が出て来て、白さんの声が厳しくなる。


「実は……高橋様の所では話せなかったらしいの」


 私がそう答えると、更に白さんの眉間に(しわ)が寄った。


『どういう事だ? 普通に話せていたぞ』


「神楽書店ではね。翁が言うには、神楽書店を出た瞬間に紺の成長が止まり、退化したと」


『詳しく話せ』


 詰問してくる。口調はとてもキツイけど、それだけ心配しているのだと分かっているから平気。


『白殿、佑殿は貴方様の部下ではありませんよ』


 私は平気だったけど、皆には違ったみたい。矢那さんが(たしな)める。


『……確かにそうだな、済まなかった』


 謝られて困ったよ。相手、神様だからね。


「いえ、お気になさらず。紺を心配してくれたからですし。翁が言うには、不安定なうちに、安全な場所から外に出た事が原因だと」 


『なら、神楽の判断は間違っていたと言う事か?』


 そう訊かれても、おかしくない状況だわ。でも、それは違う。そこだけは、はっきりと否定しなければいけない。


「それは違います。正直、二分する選択だと思いますが、決して間違いではありません。……店主として述べるなら、決断した最大の理由は、紺が神格化する際に、高橋様という存在が大きく関わっていたからです。絵本は子供が読む物。その子供の声を聞いて、紺は付喪神様になり、人形(ひとがた)に変化した後も一緒に遊んだ。ましてや、一度離したのに、なんのつてもなくここを訪れた。とても強い縁に結ばれています。それを無視する事は出来なかったと思います」


(それで、納得してくれるか分からないけど)


『仕事柄。縁については詳しいが……』


(まぁ、そうだよね。死神様に縁の話は無謀すぎたわ)


 それでも、話さないといけない。


「翁が言うには、今も高橋様と離されて、精神負荷が掛かっている状態だと。幸いな事に本体は無事だから、これ以上悪くはならないそうです」


『それは、どうなんだ?』


 白さんは微妙な表情になる。


「神楽書店に戻って来た時点で、ゆっくりだけど、紺は成長するそうです。焦らず、見守っていればいいと」


『そうか……なら、ひとまず安心だな』


 紺は一人じゃない。心配してくれる蒼や陸、それに皆がいる。温かい家もある。長い時間もある。焦らず、ゆっくり成長すればいいの。

 

「はい、皆が一緒なので……」


『そうか、俺もいるしな』


「そうですね、頼りにしてます。ところで白さん、桜を見に来たの?」


『今日は観桜会だろ。一緒に桜を見に行かないか?』


 考えてもいなかった白さんの台詞に、矢那さんは歓喜の悲鳴を上げ、見えない同居人さんは、何故か突然掃除をし出した。他の付喪神様達は傍観者。


 私は完全に固まっていた。


(……ん? 桜見に行く? 誰と?)


「…………はい?」


 かなり間が空いてから、やっと声を出す。


『じゃあ、早速行こうか』


 然りげ無く、手を握られた。いきなりの展開に、気が動転していると、はたきが白さんを襲った。おかげで、我に返ったわ。


「ちょっと待って!! 承諾したつもりはないから!! さっきの「はい」は疑問形の「はい」。それに今日、翁が来るかもしれないから無理!!」


 はっきり断ると、白さんは不愉快そうに眉を(しか)めた。


『……翁が?』


 その声はとても低く、険しい。


(私、何か悪い事した? 絶対、怒っているよね)


「観桜会の事を知って、花見に来るって言っていたから。まぁさすがに、大勢の人間と混じって飲んだりはしないと思うけど。翁、桜好きだからね。後、付喪神様達も」


 紺を診せに行った時、然りげ無く、観桜会の日程訊かれたの。そして、紺の往診がてら遊びに来るって。


 何時に来るか分からないから、いつ来てもいいように、クローズにしていたのだけど、白さん気付かなかったみたいね。



白さん気付いていました。

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