観桜会(1)
今日から観桜会だ。
今年は三月下旬の二日間開催している。姫路城が一番賑わう二日間だね。特に、海外や国内の観光客が一気に増えるよ。
姫路城の三の丸広場や王手前公園で色んな出店が出るの。イベントも色々するみたい。和太鼓の音が聞こえてきたよ。それだけじゃなくて、とっても美味しそうな匂いが、風向きによっては神楽書店まで漂ってくるのよね。
この時期は、夜桜も出来るから、夜になっても姫路城周辺は騒がしい。まぁでも、神楽書店はいつもと同じで静かだけどね。
基本、人相手に商売をしていないから。
神楽書店は神様やあやかし達に、俗世の情報を提供しているの。本というツールでね。結構、ニーズが高いのよね。実際、地獄に本を卸しているし。そもそも、ここで古本屋を営んでいる事を知っている人間は、ごく一部しかいない。
それに、ここに来る人間は、ある種の手筈は踏んでいるからね。殆どが、他の古本屋からの紹介か、護国神社を通してしか、ここに辿り着けない。高橋様は例外中の例外だよ。それも、〈永久貸出〉の後押しした理由の一つだと思う。
まぁそれはさておき、桜は人だけでなく、付喪神様達やあやかしまでもを浮足立たせるわ。彼らの目的は宴会だけどね。何かと理由付けては、酒盛りしてるから。
(今日は仕事ないし、宴会の準備しとかないと)
そんな事を考えていると、珍しく客が来た。来たのは、白さんだった。
「いらっしゃい、白さん」
横井春の件以来、白さんはしばしば神楽書店に遊びに来るようになったの。この日は、人間バージョンで遊びに来たみたいね。薄手のセーターにデニムという、ラフな格好。似合ってはいるけど、すっごく違和感がある。
(観桜会を見に来たのかな?)
結構な数の神様やあやかし達が、人に紛れて観桜会に参加しているって聞いていたからね。
『ああ』
「今日は非番ですか?」
『そうだ、……おい、そこに居るのは紺なのか!?』
本棚からひょっこり顔を出した紺を見て、白さんは軽く目を見開き驚いた。
(そうだよね、驚くよね)
やっぱり、白さんは紺の事をよく知っていみたいい。
紺も白さんの事は覚えていたようで、ニコニコと可愛く笑いながら頷く。直ぐに、白さんは紺の異変に気気付いた。
『……話せないのか?』
白さんの問い掛けに、紺は幸せそうな表情で小さく頷く。
「本体に異常はないから、たぶん………」
事情を目で問う白さんに、私は言葉を濁す。紺達に聞かれたくないからだ。その意図を正解に読み取った白さんは、『そうか……』と呟くと、大きな手で、紺の頭をクシャクシャとやや乱暴に撫で回した。
白さんなりの慰め方のようだ。
紺は嫌々そうに腕を振っているが、内心はとても嬉しそう。顔は破顔しているし、尻尾も凄いからね。
少し離れて見ていた蒼と陸が参戦してきた。猫のように白さんにしがみ付く。紺も負けじと、白さんにしがみ付く。白さんしか出来ない接し方だよね、
(微笑ましいな。でも、ちょっと意外。白さんって、見た目と違って子供好きよね)
白さんの意外な一面を知った。でも、これ以上はさすがに駄目よね。
「皆、そろそろ止めてあげようか。目が覚めて間もないんだから。無理させないの。ほら、三人共白さんから離れて」
『『え〜〜』』と文句を言いながらも、渋々、三人共白さんから離れる。
そう。私が目を覚まさない紺に一方的に話し掛けた翌朝、紺は目を覚ましたの。
目を覚ましてくれて、とても嬉しかったし、人形にも変化出来てホッと胸を撫で下ろした。だけど、その代わりと言っていいのかな、紺は言葉を失っていたの。
でも、私達が何を話している事は、ちゃんと聞こえているし、理解しているようだ。取り敢えずひと安心かな。
考えられる、話せない主な理由は二つ。
修復師兼お医者様でもある翁曰く、安定していないうちに神楽書店を出て行ったせいで、少し退化してしまったと診断された。
それと、大好きな高橋様と別れたせいで、、精神不可負荷が強く掛かったのも要因だと、翁は言っていた。
あくまで、推測だけどね。前例が殆どないから、はっきりとした診断がつきにくいの。
だけど、本体に以上がない事は検査済み。
いずれ、言葉を取り戻す事が出来るって、私は信じている。早くその声を聞きたいな。




