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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第二冊 絵本

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20/50

子狐の紺



 振り返らず去って行く高橋様の背を見送ってから店内に入ると、蒼と陸が泣きそうな程心配しながら立っていた。


 草履の付喪神様の視線は、私が持っている絵本と私を往復している。最初から最後まで、見ていたようだ。


 それにしても、まさか、自分の胸の内を初対面の人間に吐露(とろ)するなんて考えてもいなかった。高橋様を見ていると、ついポロッと出てしまったのよね。


(そう言えば……ここで、父の話をした事はなかったわね)


 皆も、父の事を話題にする事を避けていた。私自身が避けていたからね、察してくれたのだと思う。皆、とても優しいからね。


「私は大丈夫だよ。皆がいるし、それに、幸せだって言ったでしょ」


 そう告げて、私は微笑む。


『『僕達も、佑に出会えて幸せだよ』』


 にっこりと双子の付喪神様は笑った。


「ありがとう、蒼、陸」


 その言葉とその笑みだけで、私はとても幸せだよ。心が温かくなる。私は蒼と陸の頭を、感謝の気持ちを込めて撫でた。


『『……佑、(コン)は大丈夫なの?』』


 少し間が空いてから、震える声っ蒼と陸が訊いてきた。心配し過ぎて、顔色が悪い。


「コン?」


(たぶん、この子名前ね)


『『うん。紺色の紺、狐のコン』』


 やっぱり、この子の名だった、絵本のタイトルからきているのね。


 絵本の表紙には、紺色の着物を来た子狐の絵が書かれている。子狐の着物の色と〈子狐の大冒険〉というタイトル名。それから、狐の鳴き声の(コン)からきたのね。


 常々思っていたけど、付喪神様の名前って響きや意味に重きをおいてる。漢字には然程意味がないみたいね。当て字が多いかな。矢那さんもそう。蒼もそうだよね。まだ、陸と朱里様は本体と関連があるけど、直接的なものではないし。


 陸は草履が常に地面に触れていたからだし、朱里様は桐箱の模様の色からきているの。蒼は空の色を連想させているわ。矢那さんは柳の木から作られてるし。


 それでも、付喪神様達にとって、名前はとても大事なものなの。人で言う戸籍みたいな感覚に近いわね。思い入れは段違いだよ。だから私たちは、付喪神様をあだ名で呼んだりしない。


『『紺、大丈夫?』』


 心配そうに、蒼と陸は私の手元にある絵本を見詰める。


「今から診てみるけど、たぶん大丈夫だと思うわ」


 これまで、何度か傷付いた付喪神様を()た事があった。それと比べたら、この絵本は無傷に近い。


 辛うじて、私が出来るのは、本の修復の真似事に過ぎないわ。修復師じゃないからね。だけど、看護ぐらいは何とか出来る。その手伝いにかり出された事も何度もあるわ。一応、看護に関しては経験者よ。


 だからかな、傷付いた時に漏れ出る、付喪神様特有の力の波動を絵本からは感じなかったの。でも、絶対だとは断言出来ないから、敢えて私は「たぶん」という単語を付けた。


「大丈夫」という言葉を聞けて、蒼と陸は安心したようにニコッと微笑んだ。


 いつもは子猿のような蒼と陸が、子栗鼠(りす)のように微笑む可愛さに、私はやられたわ。自然と口角が上がった。自分でもだらしない顔をしてると思う。


 堪らず、蒼と陸の頭を撫で回すと、椅子に腰掛けた。絵本をテーブルに置く。


 座る私を挟むように、蒼と陸は立つ。髪を乱した蒼と陸が手元を覗き込む。


(大丈夫っと言われても、やっぱり心配だよね)


 私は双子が見ていなくても、安心させるように微笑んでから紫布を解いた。



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