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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第二冊 絵本

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17/50

老紳士(1)



 横井春と椿野彰が共に旅立って、二か月が過ぎた。


 霜がコンクリートを白く凍らせていた季節も、とうに終わり、姫路城の堀沿いに植えられた桜の花が一斉に咲き出した頃だった。


 一人の老紳士が、紫布に絵本を包み、神楽書店を訪れた。


 ひと目見て、私は身なりのいい老紳士だと思った。着ている物もそうだけど、自然と出る立ち居振る舞いが洗練されていて、老紳士の良さを物語っていた。歳を取り、腰が曲がっても、滲み出る優雅さは隠せない。


「お待ちしておりました、高藤様ですね」


 私は遠方からお越しになられたお客様にソファーを勧める。固い椅子は膝と腰に負担が掛かると判断したからだ。


 神楽書店を訪れたのは、老紳士一人だけだった。おそらく、同伴者は護国神社で待たせているのね。ここに入れる人は限られてるもの。


「こんにちは、お嬢さん。貴女が、今の神楽書店の店主だね?」


 老紳士は真っ直ぐ私を見詰め問い掛ける。


 表情はとても柔和だ。なのに反して、その視線は鋭かった。その鋭さに、私は一瞬萎縮(いしゅく)しそうになったが、何とか平常心を保つ。


 確かに、老紳士の視線は鋭く強い。


 だけど、不審感で睨んでいるとかじゃない。マイナスの印象は全く感じなかったからね。他のお客様のような、戸惑った感じも困惑した様子もない。


 その代わりと言っていいのかな、何かを確かめようとしているような、試されているような、そんな感じがした。


 たぶん、その感覚は間違いじゃない。


(……始まってるのね)


 高藤様が入店したと同時に観察し出したように、彼もまた、私を観察していた。


 その目は、私よりもとても厳しいものだと感じた。それだけ、高藤様が抱く想いと期待は強いのだと知る。何か、嬉しくなったよ。


(気を引き締めないとね)


 自然と、背筋がピンッと伸びる。


「はい、神谷佑樹と申します」


 ソファーに腰を下ろした老紳士に、私はコーヒーじゃなく桜茶と(うぐいす)餅を用意した。鶯餅の(あん)は、彼が好きな粒餡だ。


 茶菓子を見て、老紳士はここに来て初めて微笑む。


「……神楽さんは、よい後継者に恵まれたようだ」


 向かいに腰を下ろそうとした私に、老紳士は優しい声で嬉しい事を言ってくれる。


(よかった……一次試験は合格したみたいね)


「ありがとうございます。まだまだ若輩者ですが、そう言って頂けると、とても嬉しいです」


 一次試験を合格した事よりも、神楽さんを知っている人に認められた事の方が嬉しくて、私は自然と微笑んでいた。



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