序章
(いつからだろう……)
自分と大して変わらない、何処にでもいるような平凡な少年の事が、気になって仕方なくなったのは。
冗談や馬鹿話が出来る兄弟がいなかったせいかもしれない。一応、同じ歳の友人と呼べる存在はいたが、そんな話をする事すらなかった。友人達の背後には、親や家があったからだ。
といっても、僕の周りには常に人が居たし、特には寂しいとは思わなかった。
寂しいと気付かなかったのか、気付かない振りをしていたのか、今でもよく分からない。でも、心の何処かで、無意識に寂しいと訴えていたのだ。
まぁ、理由なんてどうとでも言える。
当時の僕は、無性に何かに飢えていた。
その飢えを満たしてくれたのが、平凡な少年だった。少年と遊べれば、それだけで幸せで、心が満たされた。
だから、少年が何者で、どうして自分の家に居るのかなんて、どうでもよかった。
反対に、その事を追求したり、誰かに知られたりしたら、少年に会えなくなるかもしれない。そっちの方が僕にとって、とても恐ろしい事だった。
だから、ずっと黙っていた。
黙って、隠れて少年と遊んでいた。
保証のない日々だが、当時の僕は、少年との関係が永遠に続くものだと信じて疑わなかった。本当に子供だった。
それを痛感させられたのは、忘れもしないあの日だ。
夏の暑い日だった――
いつもの時間に、少年との約束の場所に行ったが、少年の姿は何処にもなかった。陽が暮れるまで待ったけど、少年は来なかった。
次の日も、その次の日も待ち続けた。
少年がいなくなった事にショックを受けるよりも、僕は使えるものを全部使って少年を捜し出す事にした。
使用人の子供の中に少年は居なかった。
その時になって気付く。少年の名前さえ知らなかった事に。少年は僕の名前を知っていたのに……
容姿だけで捜すのは、とても困難だった。手掛かり一つさえも見付けられない日々。不思議な事に、誰一人少年の事を知らなかった。記憶していなかったのだ。
「幻でも見ていたんじゃないか」って言う者もいた。僕がおかしくなったと、陰口を叩く者もいた。口では僕の心配をしながら、自分の子供を売り込む親戚もいた。
悔しかった。何度も、何度も、強く唇を噛み締めた。切れる事もただあった。
「間違いなく、あの子は居た。居たんだ!!」
大人達に何を言われても、僕は決して諦めなかった。
年単位に月日が流れても――
我ながら、その執着心に呆れた。もはや、苦笑しか出て来ない。
僕が再び少年に会えたのは、彼が居なくなって十年の月日が流れた頃だ。
本当に偶然だった。
城が趣味だという級友に誘われて、半ば無理矢理に連れ出された日、皆で城を見学した後、護国神社に参拝していた時だった。
実際は甘い匂いなんてしていないが、何かに誘われるようにフラフラと足が動く。
そして、誘われるままに歩き、入った古本屋に、僕が捜していた少年がいた。
昔と変わらない姿で、双子の幼児と楽しそうに遊んでいる。
少年は僕を見て驚く。固まったまま、涙ぐむ。
普通なら、その少年が、僕が捜し求めていた少年じゃないのは明らかだった。歳が合わないからだ。
なのに僕は、その少年が自分と一緒に遊んでいた少年だと確信していた。不思議と、これっぽっちも疑わなかった。気持ち悪いとも思わなかった。
僕は固まったままの少年に近付き、両膝を付く。泣き笑いのみっともない顔をしながら言った。
「見付けた。今度は、君が鬼だよ」




