第12話 身だしなみ
巨人を倒した朔夜とルシアは、ボス部屋の奥へと足を進めていた。
先ほどまで激しい戦闘が繰り広げられていたとは思えないほど、通路は静かだった。
壁に設置された魔石が淡い光を放ち、二人の足元を照らしている。
「……まさか、こんな場所があったなんてね」
ルシアは周囲を見回しながら呟いた。
通路の先には、いくつかの部屋が並んでいた。扉の一つを開けると、そこには寝台や机が置かれた部屋があった。さらに別の部屋には、武器や防具が整然と並べられている。
そして、一番奥には広々とした浴場まであった。
「休憩施設か?」
「そうみたいね。ダンジョンの攻略者が利用するために用意された場所なのかしら」
「随分と親切なダンジョンだな」
「さっきの巨人を見た後だと、嫌味にしか聞こえないわね」
ルシアは苦笑した。
確かに、あの巨人は簡単に攻略できる相手ではなかった。
相手の未来を読む能力。
普通の冒険者なら、攻撃を当てることすら難しかっただろう。
それを朔夜は、巨人の視界を奪い、動きを封じ、最後にはその命を絶った。
しかも、彼はそれを特別なことだと思っていないようだった。
「……ねえ、朔夜」
「なんだ?」
「あなたって、本当に何者なの?」
朔夜はルシアへ視線を向けた。
「何者って、見ての通りだろ」
「見た目の話をしているんじゃないわよ。あの巨人を倒したこともそうだけど、あなたの力は普通じゃない。武器を生み出す能力に、あの目……」
ルシアはそこで言葉を切った。
巨人との戦闘で、朔夜が何をしたのかは見ていた。
彼が巨人の目に剣を投げつけたとき、ただ視界を奪うためだけの攻撃ではないように思えた。
そして、最後の一撃。
朔夜は何かを見極めたかのように剣を振るい、巨人の命を断った。
「……悪いけど、話すつもりはない」
朔夜は淡々と答えた。
「そう。なら、無理に聞くつもりはないわ」
ルシアはあっさりと引き下がった。
意外な反応に、朔夜は少しだけ目を細める。
「もっとしつこく聞いてくると思ったけどな」
「私だって、誰にでも踏み込んでいいわけじゃないってことくらい分かっているわよ」
そう言って、ルシアは部屋の一つを指差した。
「それより、まずは身支度を整えましょう。あなたの服、ひどいことになっているわよ?」
「……ああ」
朔夜は自分の服を見下ろした。
血にまみれ、あちこちが破れている。
これでは外を歩くどころか、まともに休むこともできない。
「着替えを探すか」
「ええ。私もちょうど新しい服が欲しかったところだし」
二人は施設の中を調べ始めた。
今は、余計なことを考えるよりも、まず身体を休めることが先だった。
朔夜にとっては、特にそうだった。
これから先、何が待ち受けているのか分からない。
だからこそ、休めるときには休んでおく必要があった。
そうして二人は、それぞれ使えそうな衣服を探すことにした。




