50 この命尽きるとも
わたしは聖剣アリアンロッドを腰溜めにして突撃する。
「これで終わりだ!!」
わたしが渾身の力を込めて突き刺した聖剣アリアンロッド。
それが魔王の胸を貫き背中まで達した。
「くっ! ルミナリア! 妾はこんなことでは死なぬ!」
魔王がわたしの両肩を掴む。
「おまえは妾だけのものだ!」
掴まれた両肩から、魔王の魂の記憶が流れ込んでくる。
わたしを森に捨て、再び現れた時にわたしを刺し殺した娼婦だった母。
わたしをめった斬りにした女盗賊団の首領。
私を廃城に幽閉し最期には毒殺した皇妃。
わたしの首を刎ねたストーカー少女。
わたしに毒を盛ったメイド。
他にも数多、わたしを殺してくれやがった女達。
それらが全て同じ魂だったことに驚愕する。
「おまえは……おまえは一体何なんだ!?」
聖剣で串刺された魔王が歪んだ笑みを浮かべる。
「妾はおまえの半身であり、おまえの闇でもある。そして、光と闇は魂の裏返し。その闇が光を求めて何が悪い? だから妾は取り戻す。妾は妾の半身を取り込む。取り込めないなら完全に消し去ってみせよう。その先にこそ妾の真の姿がある」
聖剣が光を失っていく。
わたしの両肩から魔王の指が食い込んでくる。
っていうか、浸食してきた?
「妾一人では逝かぬ!!」
どす黒い靄のように姿が揺らぎ始めた魔王が木星帰りの男みたいなことを言った。
またか。
またなのか。
ここでまたわたしは殺されるのか?
「まだよ!!」
ネフィーが私に寄り添い、わたしの手の上から聖剣を握る。
その瞬間、わたしの魂と彼女の魂との境界線が失われるのが分かった。
死にかけていたわたしを助けてくれたお姉さん。
いつもわたしに優しくしてくれたアルテナ様。
他にもある。
独りぼっちのわたしに食事を振舞ってくれ、暖かい食卓を囲んでくれたお姉さん。
消えかけたわたしの魂に力を与えてくれたひと。
それに虹花、サーシャ、コンスタンス。
そして、今、わたしと共に戦ってくれているネフィーも。
全部、同じ魂だった。
遥か昔から、いつもわたしに寄り添ってくれていたのだ!
全てを知ったその瞬間、聖剣が輝きを取り戻す。
「わたしも一緒に連れて行くってか!? 真っ平御免だわ!」
ネフィーと共に魔王に聖剣を深く突き込んでいく。
あんたが魔王に転生したのが運の尽きよ。
聖剣は魔王の魂を根源から消滅させる。
だから、あんたはここでお終い。
もう二度と転生することはないわ。
「ぐおおおおおおおおおおおっ!キサマか!? キサマが居たからか!?」
魔王が断末魔の雄叫びを上げる。
「そうよ。この娘は私と添い遂げるのよ。おまえなんかには渡さないんだから!」
ネフィー。
そうだね。
わたし達、誓ったものね。
『あなたが大きくなったら恋人になりましょう。約束よ』
『うん。ハンナ、大きくなったらお姉さんの恋人になる!』
ごめん、思い出すのが遅くなって。
ずっと、思い出せなくって。
それなのに、あなたはいつもわたしを助けてくれた。
寄り添ってくれた。
女神の神性を失うことも厭わず、わたしに魂の半分をくれた。
それに、わたしはこの人と恋人になるって誓ったんだった。
「ネフィー」
「なあに? リア」
「これまでありがとう」
「ん~ん。私が好きでやってたことなんだから気にしないで」
男前だね、ネフィー。
わたしと彼女の魂が完全にひとつになる。
すると、聖剣が輝きを増した。
魔王、いや呪いの化身よ!
もう、おまえの思い通りにはならない!
今、ここでおまえとの因縁を断ち切るんだ!
この命尽きるとも!
ああ、これで魔王の魂に結実した呪いを消し去ることができる。
だけど、わたし達も共に消滅するんだろうな。
だけど、消え去る前にこれだけははっきりさせておこう。
「ネフィー、愛してる。生まれ変わったら今度こそいつまでも共に生きよう」
「うん。私も愛してるわ、リア」
初めてわたしから愛を語り、初めてわたしからネフィーの唇を奪った。
それをネフィーが優しく受け止める。
わたし達は誓いの口付けを交わす。
来世があるなら、そこで誓いを果たすために。
「妾の前で愛を語るな――――――っ!!」
魔王の断末魔の叫び。
そうして、聖剣の輝きに包まれてわたし達と魔王は光の粒になって消えていく。
『今度こそ天寿を全うして下さいよ』
薄れゆく意識の中で神様の声が聴こえたような気がした。




