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面倒くさいから全部チェンジで  作者: 衣之谷こうみ
ルミナリア編

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49 女神の憂鬱


その娘を見つけたのは偶然だった。


森の中で死にかけていた少女。

どうしてこんなところにうち捨てられたのだろう。


こんな真冬に薄着で放置されたんだ。

低体温症に陥り虫の息。

このままなら、そう長くは持たないだろう。


現場視察のために初めて下界に降りて来て、最初に目にするのがこれ?


「助けなければ」

「ダメですよ、先輩!」


後輩に止められた。


「どうして? 私達にはそれができる力があるわ」

「だとしてもっ! みだりに下界に干渉するのは――――」

「慈愛の女神の私に放っておけと?」


後輩が押し黙る。


私は少女を抱き起こすと、右手を(かざ)して命の欠片(かけら)を注ぎ込んだ。


「あ……ありがとう、お姉さん」


うっすら目を開けた少女はそれだけ(つぶや)くと再び意識を失ったのだった。




「では、お願いしますね」

「もちろんでございますとも、アルテナ様」


教会の神父が少女を受け入れてくれた。

これで一安心。



やがて、娘は私が与えた命の欠片(かけら)を開花させ、村一番の、更には王国最高の治癒師になった。

その優しい心根と穏やかな微笑み。

多くの国民に慕われ、幸せな日々を送る少女。


私は(たま)に下界に降りて行っては、姿を消して彼女を近くから見守る。


よかったね、アリーチェ。




そんな日々がずっと続くと思っていた。


だが、唐突にそれは終わりを迎えた。




とある隣国に呼ばれた彼女はそこで殺されてしまった。



「ようやく処分できた。私から(こぼ)れ出た私の良心」



血の海に沈むアリーチェを見下ろしながら毒づく女。


「あの時、森で獣に喰われてしまえばそれでよかったのに。生き長らえたあなたがいけないのよ」


どうやら、アリーチェの母親らしい。

幼いアリーチェを(だま)して冬の森に置き去りにしたのもこの女の仕業だ。



「これでもう、この娘の夢を見ることも無い! 私は一度は捨てた私の心を取り戻すのよ!」


女はアリーチェの胸から心臓を(つか)み出して(むさぼ)り食う。


やがて、幽鬼のようにふらりと立ち上がった女がどこかに消えた。



「アリーチェ!」


誰も居なくなった部屋に顕現した私は彼女に駆け寄る。



「残念ですが、もう助かりませんね」


後輩がポツリと呟いた。


「酷い! 酷いわ! 勝手に打ち捨てたならそのままにしておけばいいのに! 何故今更!?」

「それが人間ってもんですよ」


私の嘆きに後輩が諦観したようなことを言った。

でも、私は諦めるつもりは無かった。


一度関わったんだ。

最後まで面倒を見るわ。


私はアリーチェの魂を抱き締める。


「今度こそ、悔いのない人生を歩ませてあげる」




次に生まれ変わった彼女の名前はシスティナ・ローゼスト。

子供ながらも有能なローゼスト商会の看板娘だ。



「これ、頂けるかしら?」

「毎度、ご贔屓(ひいき)ありがとうございます、アルテナ様」


素性を隠してシスティナの店の常連になった私。


「システィナちゃん、もうじき仕事終わるでしょう? この後、一緒にお茶でもどう?」

「はい! アルテナ様!」



カフェで向かいに座る彼女の万遍の笑み。


そんな彼女を見ながら思う。


今度こそ、幸せになれるといいわね。




だが彼女は、隣国への仕入れの途中、盗賊団に襲われて無残にも殺されてしまった。


有閑貴族に擬態して下界で暮らしていた私はすぐに異変に気付けなかった。


知らせてくれたのは後輩だった。



「下界を巡回していて現場を目撃した天使によれば、女盗賊団だったそうです」


治安の悪い世界だ。

女盗賊くらい居る。


「ただ不思議なのは、盗賊団のボスにより、隊商のほとんどはすぐさまその場で解放されたみたいです。『直ちにここを立ち去れ』と。それから、盗賊団の仲間にも『先にアジトへ帰れ』と」



盗賊団のボスとシスティナが二人きりになった?

つまり、狙いはシスティナ?


「それで?」

「『どうしてあなたは私の外に居るの!?』って激高してめった斬りに…………」


どういうことだろう?


いや、今はそれよりも――――


「ごめんなさい。私が迂闊(うかつ)だった。今度こそ人生を全うさせてあげたかったのに」


私は彼女の魂を抱き締めて再び誓う。


「次こそは」




再び彼女を転生させる私。

今度こそ、幸せな人生を送れるように、と。



でも、それは途中で頓挫(とんざ)した。

今度も諦めずに彼女を転生させる私。



いつしか何十回にも渡ってその繰り返しが続いた。

私は何度も彼女を転生させるが、いつも妙な女が現れては彼女を殺す。

デッドエンドだ。



人の魂は生ある限り磨き続けられ、その魂の(くらい)を上げていく。

そして、転生時にそれを消費する。

その逆に短い生を繰り返す度に魂は消耗し、やがて消滅してしまう。



このままでは、遠からず彼女の魂は消えてしまうだろう。




「これはどういうこと?」



人気の無い廃城の一室にまだ幼い少女が居た。


「軟禁って状況じゃないですかねえ」


私の隣に立つ後輩が答える。


少女は瘦せ細って力無く部屋の隅に(うずくま)っていた。


「ねえ、あなた? どうしてこんなところに居るの?」

「お母さんに『あんたは私に飼われているのだから』って言われて…………」


母親が?

『飼われている』ですって?


テーブルの上にはスープ皿と固くなった小さなパン。

牛乳ベースのスープからは異臭がし、パンにはカビが生えていた。


「これは何日か前のものかしら?」

「さっき、お母さんの部下って人が持ってきた」


これが食事ですって!?

腐ってるじゃないの!


「ちょっと待っててね」


私は後輩と共に街に買い出しに行った。

幸い、廃城には使われてない厨房があり、調理器具も揃っていた。

だから、少女に渾身の晩餐を用意した。

女神のご飯よ。

しっかり噛み締めるといいわ。


私と後輩もテーブルに就いて一緒に食事をする。

食事はみんなで楽しくするものよ。



「おいしいね、お姉さん」


(はかな)げに、それでも優しく笑い掛けてくる少女。

これよ!

これなのよ!


「先輩。頬が緩んでますよ」

(うるさ)いわね。緩んでるって言うな。シュッとして凛々(りり)しいのよ、私」

「へいへい」


失礼な後輩め!




私はその後も毎日のように廃城に顔を出し、少女と食卓を囲んだ。

最近は少女の血色も良くなり、ガリガリに痩せていた体に女の子らしく肉も付いてきた。


「いつもありがとう、お姉さん」


極上の微笑みで礼を言われた私はどぎまぎしてしまった。


「惚れましたね、先輩?」

「う、(うるさ)いわね」

「先輩が少女趣味なことは知ってますよ」


私は顔を赤らめてそっぽを向く。


「お姉さん、どうしたの?」

「お姉さんはね、お嬢ちゃんのことが大好きなんだってさ」


少女の疑問に後輩が余計なことを口走りやがった。


「嬉しいな。ハンナもね、お姉さん大好き!」


やめろ~~!

そんな純真な瞳を向けてくるんじゃない!

このまま神界に連れ帰りたくなるじゃないか!

女神のお務めなんか全部ポイだ!

そして、未来永劫、この娘を()でて暮らすのだ!



でも、そんなことはできない。

下界への過度な干渉は固く禁じられているから。



でも、私は悟ってしまった。

私は、この魂が好きなのだ。

愛していると言ってもいい。


そこに特大の爆弾が投げ込まれた。



「ハンナね。大きくなったらお姉さんと結婚する」


私の全てが動きを止めた。


「お嬢ちゃん、女同士は結婚できないんだよ」

「そうなの? でも恋人さんにはなれるんでしょう?」

「まあ、そんな間柄の人間達も居るには居るけどねえ」


後輩と少女の会話が私の中でぐるぐる巡る。


私はギュッと少女を抱き締めた。


「あなたが大きくなったら恋人になりましょう。約束よ」

「うん。ハンナ、大きくなったらお姉さんの恋人になる!」


よし!

言質(げんち)は取ったぞ。

あとは神界に連れて行くために創造神様と折衝だ。

待っていなさい、ハンナ。




結論から言おう。

私はハンナを神界に連れて行くことができなかった。


創造神様が許可してくれなかったからではない。

むしろ、創造神様は、


「おもしろいね、それ」


って言っていた。

そういう御仁なんだ。



だが、ハンナは殺されてしまった。


母親に。


食事に毒を盛られたのだ。



ハンナの誕生日に特大ケーキを用意して廃城を訪れた私達が見たのは、血を吐いてこと切れた彼女の(むくろ)だった。


テーブルには豪華そうなケーキが置かれていた。



「これに毒を仕込んだんですね。酷いことしやがる」


いつも鼻を(くく)ったような態度の後輩が珍しく怒っている。


普段、ハンナには粗食しか与えられなかった。

それが、誕生日に豪華なケーキが振舞われた。

ハンナは母が誕生日を祝ってくれたことを素直に喜んだのだろう。

だから、毒入りと疑わずにケーキに手を付けた。

その結果がこれだ。



「また、転生させてあげるわ。あなたが幸せになるまで私は諦めない!」


ハンナを抱き締めながら誓う。



「それがそういう訳にもいかないようですよ」



後輩が顔を(しか)めている。


「見て下さい、先輩。この()の魂、もう転生には耐えられそうもないみたいです」



私は[鑑定]を行使して、彼女の魂を見る。



消えそうになっている!?



「どうします?」


後輩が心配そうな顔で伺ってくる。



この娘が幸せになるまで私は諦めないと決めた。



なら――――



「ちょっと待って下さい! そんなことをしたら先輩が!」

「構わないわ!」


私は少女の魂を(てのひら)に載せ、私の魂の半分を分け与える。

これで、消滅は免れるはずよ。

代わりに私からは神性が失われ、ただの人に堕ちる。



でも、いいのよ。

これからは私がこの娘の(かたわ)らで同じ世界を生きる。


そして、約束通り、この()の片翼になるのよ!



「私が消えた後のこと、任せてもいいよね?」

「はい! 創造神様に誓って!」


後輩の答えを聞いた私の姿がうっすらと消えていく。

さあ、これからは人として生きるのよ。


そして、必ずこの娘と添い遂げてみせる!




それからは彼女が転生する度に私も同じ世界に転生した。

ある時は、妹として、また、ある時はライバルとして、そしてまたある時は伴侶として。

全て後輩が手回ししてくれたことだ。



だが遂ぞ、彼女と添い遂げることは叶わなかった。




そして、今、私は彼女と共に最後の戦いに望む。


彼女に異常な執着を見せる呪いそのものを未来永劫討滅するために。

不条理に生を終え続けた彼女をその呪いから解放するために。





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