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面倒くさいから全部チェンジで  作者: 衣之谷こうみ
ルミナリア編

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36/51

36 深夜、侯爵別邸にて


フライブルグに来てからそろそろ2ヶ月経つ。


もうじき9月だ。


長官との約束の期限ももう終わる。

9月になれば王都大学も新学期を迎える。

ネフィーも王都に戻らなければならない。

王都は安全だから、彼女が王都に戻ってしまえばわたしの護衛任務も終わり。


――――て言うか、ネフィーにはもう護衛は必要無い。

実際、彼女の魔法は洗練されたものになりつつある。

大概の賊なら撃退できるだろう。

本人にもそう告げてある。



つまり、もうすぐわたしはお役御免になるということだ。


これからどこへ行こうかな?

西の水の都にいくのも悪くない。

それからそれから――――


世界を旅してまわるのもいいかもしれない。

そして、気に入った場所に安住するのだ。



だが、その前にネフィーの魔力総量を増やす方法を見つけなければ。



そんな訳でわたしは最近毎日、深夜になると辺境伯邸を抜け出して長官のセーフハウスに行き、その書斎で膨大な書物を手繰りながら魔力総量を増やす方法を調べている。

長官は魔法省のトップ、王国随一の魔法の専門家だ。

その書斎には古くからの魔法に関する書物が収蔵されている。

そこから目的に係わる文献を探して隅から隅まで読み込んでいく。


魔力総量を増やす方法については、抽象的な記述は見つかるが、中々的を射た記述にはお目に掛かれない。


長官本宅の書庫には、ここよりも更に多くの文献が収蔵されている。

長官本人にも知見があるかもしれない。

王国随一の魔法の専門家に相談するのは悪くない。


わたしは、自分で調べる傍ら長官にも相談の手紙を出した。


長官も多忙な人だからなあ。

調べる時間があるのだろうか?



まあいい。

わたしはわたしで調べるだけだ。


でも、残された時間は余り多くはない。

タイムリミットはわたしとネフィーがフライブルグを去るまでだ。



そんな訳で、ここ1週間ばかり、深夜、辺境伯邸の住人が寝静まってから寝る間を惜しんでここに調べものに来ている。

辺境伯との約束では、ここに外泊が許されているのは週一のみ。

だが、時間が無いから悠長に週一では間に合わない。

だから、こっそり深夜に抜け出している訳だ。

もちろん、夜明け前までには戻っている。



それにしても一週間徹夜は堪えるなあ。

本を読んでいる途中に意識は飛ぶし、肌荒れも酷い。


昼間はネフィーの不意打ちに気を張らなければならないし、魔法実技の試技も結構堪えるんだよね。

HPがゴリゴリ削られるんだよ。


そろそろいい加減にしないと、マジヤバいかもしれない。



―――――――――――――――――――――――――――――――


『見つけた』


何だろう?


わたしは靄に包まてた空間の中に居た。



『ようやく見つけた。我が忌まわしき半身よ』



一方的に語り掛けて来るその何かの姿は見えない。

天の声のようにも思えた。



「『我が忌まわしき半身』とはどういう意味ですか?」

『言葉通りの意味だ』


全く意味がわからない。



「あなたは誰ですか?」


まあ、答えてくれるとは思えないが一応ね。


『我はおまえを命ある場所に産み落とした者』

「わたしの母ではないようですね?」

『直近のことであれば、答えはNOだ』


『直近のこと』?

どういう意味なんだろう?


いや、今は現状把握が大事。



「それでここはどこなんですか?」

『ここは我の魂の領域』


つまり、現実世界ではないということでいいのかな?

夢?



『夢ではない。今、我とおまえは繋がっているのだ』

「迷惑なので解放してくれませんか?」

『それはできぬ』

「何故です?」

『おまえを放置することなぞできないからだ』



何と言うか、執着心が半端ない。

ストーカーですか?



ストーカー?

なんだ、それ?



『我は我だけの安寧を求めておる。だが、我の生まれいでし世界には必ずおまえも生まれいでる。必ずだ』



そんなこと言われてもねえ?

わたしに選択権は無いし。



『ようやくこの世界で安寧を得たと思っておったのじゃが、18年前忌まわしき痕跡が生まれ出でるのが確認された。だから、我はその痕跡を探し続けた。今度こそ、痕跡を我に取り込むことで、未来永劫、我の憂いを取り除くために。そして、漸く見つけた』

「それがわたし、ということですか?」


放っておいてくれればいいのに、何故それができない?



「わたしはあなたに今後一切関わらないことを誓うので見逃してくれませんか?」



暫しの沈黙。



『そうか。おまえの魂はもう相当消耗しているようじゃな』



『魂が消耗してる』?

意味がわからない。



『フフフフフ。であれば、ここで奪い取るまで!』



次の瞬間、意識が遠のき始める。

自分の中から何かが失われる感覚。



『あなたはもう充分頑張ったわ。もう理不尽な末路から解放されてもいいと思うのよ』



わたしの中で何かが囁く。


そうか。

それも悪くないね。

なら、言われるままに身を任せてもいいのかな?


そうして、わたしの意識は次第に遠のいていったのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――



◆ ◆ ◆


最近の師匠は変だ。

私の仕掛ける不意打ちへの対応にも精彩を欠ける。

それでも、私の攻撃魔法を全て躱して見せる。

悔しいったらありゃしない。



そんな師匠が夜な夜な屋敷から抜け出しているのに気づいたのは5日前のことだ。


深夜に抜け出して夜明け前には帰って来る。

どこに行っているのだろう?

それにいつ寝てるんだろう?


ただ、判ったことはある。

師匠の様子が変になったのはここ数日からのことだ。


間違いない。

師匠が深夜に屋敷を抜け出していることと師匠の様子が変なこととは関連がある。




「今度こそお終いよ!」


私が放った特級火属性範囲攻撃魔法[エクスプロージョン(中)]の爆炎に師匠が巻き込まれる。

今度こそ師匠を倒せた。

そう思った。


だが、爆炎は周囲に吹き散らされ、師匠は一歩も動くことなく無傷で立っていた。

特級風属性範囲防御魔法[エリアストームシールド]の強化された広域エアカーテン防殻で爆炎を散らせたのだ。


「威力が増したみたいだね。これなら上級魔族もひとたまりもないだろう」

「上級魔族の師匠がそれを言う?」

「だから僕は上級魔族ではないと何度も――――」


そう言いながら師匠がふらりと姿勢を崩す。



「師匠?」

「ああ、足場が荒れていたようだね。凄いね。これもエクスプロージョン(中)の威力かな?」


確かに私が放った[エクスプロージョン(中)]により爆風を受けた地面が荒れ放題に荒れている。

でも、師匠の足元の地面に荒れた形跡は無い。


「師匠…………」



師匠はもう5日以上は寝ていないと思う。

何でもない素振りを見せているが、ふらつくくらい消耗しているのくらい私にも判る。


私は師匠が何をしているのか、突き止めることを決めた。

無理をするのを止めなければ!




その晩、いつものように師匠が屋敷を抜け出していった。

私も師匠に気取られないように距離をおいて後をつける。

距離をおかないと、師匠が常時展開している[気配察知]に掛かるからね。



暫く歩き続けた師匠が、森の中に建つ邸宅に姿を消した。

ここって、ミンスター侯爵別邸よね?

確か、師匠が侯爵様の客人として住んでいた屋敷。

師匠がお父様に週一だけ戻ることを許された場所。


でも、実際には週一でなく毎晩戻って来ているみたい。

いったい何のために毎晩?


私は[フライ]で塀を飛び越えて屋敷の敷地に侵入する。


屋敷はうちの辺境伯邸に劣らず立派だった。

暗闇ではあるが、奥には訓練場の建物も薄っすらと見える。



玄関のノブを掴んで引くと扉が開いた。

夜は使用人もいないようね。



師匠がどこに居るか隈なく探すにはこの屋敷は広過ぎる。

私は、師匠に気取られない様に微弱な[気配察知]を行使する。



居た!

1階左奥の広い部屋だけ人の気配がする。


足音を立てずに廊下を歩いて、目的の部屋に向かう。



部屋の扉が少しだけ開いていて、中から灯が漏れている。


扉を開けると、そこは書庫のようだった。

夥しい書棚が並び、書棚には古そうな書物から最新の書物までがぎっしりと詰まっていた。


さすがは魔法省長官ね。

書籍の数が半端ないわ。



さて、お父様との約束を破って抜け出していたことを師匠に問い詰めなければ。


私は書庫に踏み込む。



「師匠? そこに居るのはわかっているんだからね?」


私の声に何も反応が無かった。


本に集中しているのかな?



そう思いながら、書庫の奥に目を遣ると、閲覧コーナーが目に入った。


「そこに居るの? 師匠?」


お父様との約束を破った師匠に、黙っていてやる代わりに何を要求してやろうか、考えながら奥に進む。



閲覧コーナーには書物が散乱していた。


そして、私は師匠を発見した。


師匠は床で寝ていたのだった。



「もう! 毎日夜更かししてるから! ほら、起きて! 寝るならベッドに行きなさいよ」


寝ている師匠に歩み寄って膝を突き、師匠を揺り動かす。



だが、師匠はピクリとも動かなかった。



えっ?



息をしていない!?



まさか、まさか!


「嘘!」



師匠が死んでる!?


床に息もせず横たわっている師匠の手首を取って脈を計るが一拍もしていない。


全身から血の気が引いていくのを否が応でも意識せざるを得ない私なのだった。







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