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面倒くさいから全部チェンジで  作者: 衣之谷こうみ
ルミナリア編

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35 原石を見い出した


こうして、辺境伯の客人兼ネフィリア嬢の護衛となったわたしだが、彼女が外出しない以上、基本的にやることがない。



「手伝いますよ」


辺境伯邸の庭師のノルムさんと一緒に肥料の袋を運ぶ。

ノルムさんは白髪頭に白い顎髭を湛えたおじいさんだ。

マルセルさんくらいの歳かな?


辺境伯邸には広い菜園がある。

今日はその菜園に追肥する日だそうだ。


ノルムさんが苗の根本を掘り、わたしがそこに肥料を埋め込んでいく。

地道で時間の掛かる作業だ。



「ルミナリオ様のおかげでいつもより早く終えることができました。ありがとうございます」

「いえ、僕も植物の世話は好きですから」


王都の館の敷地には花が咲き乱れる庭園があった。

わたしは庭師を雇わずに全部自分で世話していた。


基本、植物は裏切らない。

世話をすればしただけ応えてくれる。

綺麗な花を咲かせてくれる。


だから、植物の世話はわたしの大切な趣味だった。



「それにしても立派な菜園と果樹園ですね?」



周囲を見渡す。

香ってくるのは土と葉の匂い。


菜園には様々な野菜の苗が植わっている。

ナスやピーマン、ニンジンにキャベツ、レタスにトウモロコシに枝豆まである。

長く伸びた蔓のあちこちにカボチャが大きな実を付けている。

奥にはブドウ棚とメロンの棚とトマトとキュウリの棚が配置され、果実の木も植えられている。

あの木になっているのは桃だな?

その横に目を遣ると蔓が蔓延り、やはり大きなスイカが実を付けている。


ん?


形の良い大きなスイカの首に札が付けられているぞ。



『これは私が目を付けた極上のスイカよ

 食べたら死刑!

               ネフィリア』


ネフィリアも子供っぽいことをするんですね?

思わず笑いが漏れる。



「あ―――――――っ!?」


背後からネフィリアの叫び声が響いた。



「あんた。私の太陽の牙を狙っていたでしょ!?」


物凄い勢いでネフィリアが駆けてきて、札が付けられているスイカの前に両手を広げて立ち塞がった。



あのスイカは『太陽の牙』というのか?

どこぞのコンバットアーマーかな?



コンバットアーマー?

何だ、それ?



また、意味不明なことが思い浮かぶ。



「スイカに名前を付けるなんて、子供っぽいことするんだね?」


ネフィリアが口をモゴモゴさせて顔を引き()らせる。

ネフィリアの首の上に血液が集中するのが手に取るように判った。



「ネフィリアちゃん、可愛いねえ? お歳はいくつ?」


更に(あお)ってみた。



「…………泣かす」

「ん? 何か言った?」

「もう許さん! 絶対泣かす!」


ネフィリアが[ファイアバレット]を放ってきた。

反射的に()ける。


あ、しまった!

後ろは果樹園だぞ!

なんて場所で火属性攻撃魔法を放つんだよ!

これでは桃ノ木が火に捲かれてしまう!


振り向いて炎弾の行方を追うわたし。



だが、そこでわたしは信じられない光景を目にしたのだった。



炎弾が軌道を変えた?

また、こっちに向かって来るぞ。



もしかして、自動追尾?


再び炎弾を()けるが炎弾はまたしても軌道を変え、わたしに迫って来た。



やはり自動追尾機能が付与されている。

しかも微妙に軌道修正まで為されている。



本来[ファイアバレット]は撃ちっ放しの攻撃魔法だ。

撃った後はただ飛んで行くだけ。

だが、ネフィリアの[ファイアバレット]は違う。

彼女は[ファイアバレット]の術式に改良を加えて自動追尾機能を付加し、更には正確なコントロールで微妙な軌道修正までも行っている。


魔力が多くない欠点を技術力と操作力で埋めているんだ。


魔法師団の子達も優秀ではあるが、彼女らは基本的にはその魔力量を生かした打撃力と連発力に依存している。


でも、ネフィリアは違う。

彼女は工夫を凝らす技巧派だ。

若干術式が雑だが、そこを改善すればもっと伸びるはず。


本当に魔力総量が少ないことだけが悔やまれる。

何か魔力総量を高める方法は無いのかな?

そうすれば、彼女はわたしに匹敵する魔法士になれることだろう。


魔力総量を高める方法、イッチョ調べてみますかね?



今後の方針は、ネフィリアを鍛えること。

彼女は宝石の原石なのだから。

わたしはそれを見出してしまったから。


そう決めたわたしは、彼女の前で迫り来る炎弾を素手で(つか)んで消滅させてみせた。



「嘘…………」


人間が炎弾を手掴(てづか)みで消滅させる。

そんな有り得ない光景を見せつけられたネフィリアが絶句する。



「君の術式は雑過ぎる。もっと洗練させて無駄を省いた方がいい。そうすれば、少ない魔力でより強力な威力まで高めることができる。要は魔力燃費を良くすることだ。覚えておいた方がいい」


それだけ言い放つとわたしは菜園を後にするのだった。

後ろは振り返らなかった。



◆ ◆ ◆


悔しい!

悔しい! 悔しい!

悔しい! 悔しい! 悔しい!


なんなの、あの人?


炎弾を余裕で()けた挙句、最後は素手で鷲掴(わしづか)み。

しかも、王都大学の教授ばりの魔法指導。

あれで、私と同い年ですって!?


一体どんな修羅場を(くぐ)ったらあんな風になれるのよ!?



やっぱりあいつは上級魔族。

でなければ、炎弾を素手で鷲掴(わしづか)みできるはずがない。



いいでしょう。

あんたの指摘通りに欠点を改善し、長所も伸ばしてみせる。


今に見ておきなさい。

あんたの指導があんた自身の命を縮めるということを、身を以て思い知らせてあげるわ。



◆ ◆ ◆


菜園での一件以来、ネフィリアはわたしの隙を突いて何度も魔法戦を仕掛けてきた。

その都度、撃退したわたしは、彼女に懇切丁寧な魔法指導を行う。


最初は反抗的だった彼女も、わたしの的を射た指摘に耳を傾けるようになり、遂には従順な生徒になった。


毎回、どんな不意打ちに出て来るのか、楽しみなわたしである。



「魔法の基本は『魔法の規模は魔力の充填量によって変わり、魔法の威力は魔力の充填速度によって変わる』ということだ。ネフィリアは魔力総量が少ないから魔法の規模はどうしても限られる。だが威力は別だ。充填速度を限界まで高めれば、行使した魔法の威力もその魔法の限界まで高めることが可能になる」

「わかった」

「じゃあ、意識して充填速度を高める訓練を始めてみよう」


ネフィリアが目を閉じて意識を集中する。

魔法の行使にはイメージが大切。

それを体感して貰っている。

そんな日々が続いた。




素直になったネフィリアはいい生徒だ。

最初の頃より術式は洗練され、そのぶん効率も良くなっている。


これで充填速度を高めることができれば、特級魔法くらいまでなら誰にも負けない威力を獲得できることだろう。


「師匠。準備ができたわよ」


最近、ネフィリアはわたしを『ルミナリオ』ではなく『師匠』と呼ぶようになった。


「僕は君の師匠になったつもりはなんだけどね」

「でも、師匠は師匠よ」

「なら、弟子らしく言葉に気を付けた方がいいんじゃないかな?」

「それは嫌!」


なんなんだ、この娘は。


まあ、いいや。


「じゃあ、合図をしたらあの的に向かって氷弾を撃ってみて」


200m先の森の中で数十mのS字カーブを描く小道。

S字カーブを抜けた100m先にある直径15cmのミスリル銀製の超頑丈な的。

的はここから視認できない。

見えない的に中てるには、正確な探知能力とコントロール力、それとそこまで届かせるだけの威力が必要。


彼女がこれから行使しようとするのは[アイシクルブリッド]。



「ネフィー、撃ちなさい!」

「了解!」


わたしも『ネフィリア』を『ネフィー』と呼ぶ。

彼女がそう呼ぶように求めてきたからだ。


ネフィーが撃ち出した氷弾は、200m真っ直ぐ進むとS字に奥へ延びる小道を2mの高さで飛行し、更に100m先にある的の中心を正確に撃ち抜いて破壊して見せた。


通常なら氷弾でミスリル銀は撃ち抜けない。

だが、ネフィーの魔法の威力はミスリル銀の強靭さをも上回ったのだった。



「上出来だよ、ネフィー」

「ありがとう。これも師匠の指導のおかげよ」


ニッコリ笑うネフィー。

この娘、こんな表情も見せるんだ。



「感謝ついでに魔族疑惑も取り下げて欲しいものだね?」

「それはできないわ」

「なんでだよ?」

「だって、師匠には人間的な隙が無いもの」


隙を見せたら、わたしが大怪我することになるんだけどね。


「でも、悪い魔族では無いことだけは認めてあげるわ」


悪戯っぽい笑みを見せるネフィー。


「それはありがたいことで」


今はそれで満足しておくことにしましょうかね。



「でも、ネフィー。よくやった」


わたしは伸ばした手をネフィーの頭にポンと置く。

そして、優しく撫でるとネフィーの表情がユルユルになった。


「師匠。甘やかしすぎよ。そんなことされたら、好きになっちゃうじゃない」


ネフィーが(うつむ)いてボソッと(つぶや)く。

だが、その言葉は小さ過ぎて最後まで聞こえなかった。


「何か言った、ネフィー?」

「何でもないわよ!」


ネフィーがわたしの手を()退()けてシュタッと後ろに身を引くと、責めるようにわたしを見た。


「師匠のバカ! 女っ(たら)し! そうやって行く先々で数多(あまた)の女を落として来たのでしょう!? でも、私は(だま)されないわ! 私はそんな安い女じゃないんだからね!」


それだけ言い放ったネフィーが駆け去って姿を消した。


『女っ(たら)し!』って。

いつも魔法師団の子達にしてたことなんだけどね。



ちゃんとできたのなら、ちゃんと褒める。



それだけのことなんだけど、ネフィーのお気に召さなかったようだ。


どうして、ネフィーは機嫌を損ねてしまったんだろう?



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