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面倒くさいから全部チェンジで  作者: 衣之谷こうみ
ルミナリア編

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33/51

33 予期せぬ訪問者


翌週、長官への定期報告の手紙をしたため終わり、長官の使い魔の小鳥に持たせて送り出したところで、窓の外が騒がしいのに気付いた。


マルセルさんが騎士の装備を身に纏った一団と押し問答していた。



「ですから、ここはミンスター侯爵家別邸です。侯爵様の許可の無い者を立ち入らせる訳にはいきません」

「では、せめて、今ここに滞在しておられる侯爵閣下のお客人と話をさせて貰いたい」

「ですから、それも侯爵様の許可を頂かないと――――」

「そうも言ってられぬ。我々はお館様の命令で動いている。命令が果たされなければ、我々が処分されてしまうのだ」



ああ、何か厄介な予感が…………


でも、マルセルさんもここの管理人とは謂え一応はアルテオン辺境伯領の住民だ。

これ以上、辺境伯の家臣に(あらが)うと、マルセルさんに危害が及ぶかもしれない。

下手をすると、マルセルさんの家族や村の人達へも。



わたしは書斎から出るとそのまま階段を降り、玄関を出て門の前に向かう。


「どうしました、マルセルさん?」

「ルミナリオ様」


振り向いたマルセルさんがわたしに『出て来ないで下さい』という視線を送って来たが、意図してそれを無視する。


たぶん、この騎士達はわたしに用事がある。

マルセルさんはおそらく長官の指示を受けている。


『わたしに不審な者を近づけるな』と。


それを忠実に守っているのだろうが、残念ながらマルセルさんは唯の村人だ。

そのマルセルさんがわたしを守ろうとしている。


でもね、マルセルさん。

相手が悪いよ。

そいつら、辺境伯の家臣なんだよ。


だけど、魔法士のわたしなら、どこの領にも属さず職も無いわたしなら、彼等と渡り合うこともできるんだよ。

いざとなったら、蹴散らしてしまえばいいんだしね。

そこは何にも縛られていないわたしの特権だ。


だから、ここからはわたしが引き継ぐことにするよ。



「貴方達は?」


一応、友好的に話し掛けてみる。


「我々はアルテオン辺境伯様直属の騎士団だ」

「それで?」


ニッコリ笑ってみた。


「その騎士団の面々が物々しい装備でミンスター侯爵家別邸に何の御用ですか?」

「我々はここに潜伏している者に用があってきたのだ」


『潜伏』ねえ?

犯罪者扱いだよね?


「ここには潜伏している者なんか居ませんよ」

「おまえのことだよ!」


横の喧嘩っ早そうな騎士が指差してきた。


「僕ですか?」


自分で自分を指差す。


「そうだ。お館様が連れて来いと仰せだ」

「僕は侯爵閣下の客人ですよ。侯爵閣下に無断で僕を連行するのは問題行為だと思うのですが?」

「我々の主君はお館様であるアルテオン辺境伯様だ。王都に住まう侯爵のことは与り知らぬ」


彼等は王国軍ではなく、辺境伯の私兵だ。

より上位の貴族よりも主君に従うのは当然のことだ。



しかし、何故アルテオン辺境伯がわたしを?


まさか、アルテオン嬢が父親にチクったのか?

彼女には列車の中でずっと監視され、領都では尾行までされた。


おそらくは、わたしが利用した乗合馬車を突き止めてその乗客や御者から聞き取り捜査を行ったのだろう。

それで今か?

わたしの居所を掴むための捜査に2週間要したってことなんだろうな。


それにしても、そんなに『鉄壁のルミナリア』を悪く言われたのが気に入らなかったのか?

わたしが私自身のことを辛口評価して何が悪い?

自分のことだよ?


いずれにしても、面倒くさい相手に目を付けられてしまった。


街中でアルテオン嬢に水まで浴びせたわたしは爵位を返納して平民の身分だ。


最悪、貴族侮辱罪で死刑かな?


長官には申し訳ないが、滞在期間を大幅短縮してとっとと出国することにしよう。


わたしが、逃亡を考えていると、いつのまにか姿を消していたマルセルさんが戻って来た。




「皆様の中の責任者の方のみお入り下さい。侯爵様からお話があるそうです」


『お話がある』?

長官ここに居ないよ?



マルセルさんが騎士団長だけを館に招き入れ、そのまま2階の奥の部屋に連れて行った。

わたしもそれに従う。

奥の部屋は長官の私室だ。

立ち入り禁止にされている部屋だったはずだが…………。


いいのか、マルセルさん?



長官の私室に入ると奥に執務机が据えられていた。


机の上には電話?

受話器が本体から外された状態で机の上に置かれていた。


電話なんてあったんだ。

だったら、定期連絡、電話でいいのではないだろうか?

何故に面倒くさい手紙?



色々困惑するわたしを尻目にマルセルさんが騎士団長を指名した。


「まずは騎士団長、あなたからです」

「俺?」


指名された騎士団長が自身を指差して確認する。


「はい。受話器を取って下さい」


マルセルさんに言われるまま、受話器を取った騎士団長。


「アルテオン辺境伯騎士団の騎士団長を務めさせて頂いております、ウィリアム・シュミットです」

『魔法省長官のジョージ・ミンスターだ』

「お声を聞けて光栄です! 現役時代の閣下の武勇伝は存じております!」


電話相手だというのにシュミット騎士団長は直立不動姿勢になった。


『実は君に話しておかなければならないことがある』

「何でしょうか?」

『内緒話だからここだけの話にして貰えるだろうか?』

「お館様にもですか?」

『そうだ。これは国家機密に該当することだからね』

「国家機密…………」



国家機密?

何だろう?



『ちなみに他に漏らしたら君の命は無いと思いたまえ。君のご家族もね』



おいおい、脅すなあ。

シュミット騎士団長、手が震えてるぞ。



『実はね――――』



声が小さくなり、受話器から音が漏れ聞こえなくなった。



やがて、話は終わったようで、シュミット騎士団長がわたしに受話器を渡してきた。


「侯爵閣下が電話を代わることを所望しております。お受けになられますか?」


シュミット騎士団長が脂汗を流している。

わたしから視線を外しているのは何故?


わたしは溜息を()くと受話器を受け取る。


「電話があるなら教えてくれればいいのに。何で黙ってたんですか、長官?」

『いきなり苦情かね? 時候の挨拶から始まるものじゃないのかね?』

「電話があるなら手紙で定期連絡する必要は無いでしょう?」

『手紙の方が、趣があると思わないかね?』


趣ですって?

そんなことのために?


『それに紙に書き残すことで記録に残すことができる』


記録?

何のために?



いやいや。

長官に付き合っていると無限に時間が溶ける。


「長官の趣味のことは一旦置くとしましょう」


気を取り直すことにする。


「それで? お忙しい長官様が僕に何の御用ですか?」

『『僕』? それが今の君の一人称かい?』

「それが何か?」

『容姿変換しただけじゃなく、性別も変えたのかい? ルミナリオ・マイクロフト君?』



何で長官がその偽名を知っている?


「どこで調べたんですか?」

『蛇の道は蛇だよ』


答えるつもりは無いらしい。

この人の情報収集能力と情報源は未だに謎だ。


「ちなみに性別は書類上だけのものですので」

『それを聞いて安心したよ。万が一のことがあれば王太子殿下が悲しむだろうからね』

「彼のことはどうでもいいです」

『酷いなあ、君も』


ここであいつのことを話題に出さなくてもいいのでは?

だからと言う訳ではないが、長官に塩対応することに決めた。


「長官はそんなことを言うためにわざわざ電話を掛けてこられたのですか? 今、取り込み中なので情報自慢は後にして貰えませんか? まあ、後になっても聞くつもりは微塵もありませんが」


電話の向こう側でクスクスと笑いを堪える様子が伺えた。

ほんと、喰えないおじさんですね。



『アルテオン辺境伯の呼び出しに応じたまえ』


突然、電話口から真面目な声が聴こえた。


『彼は貴族子女誘拐未遂事件を君が解決したことを掴んでいる』


娘に訊いたのか?


『この事件は王国にとっても重要な案件だ。現在の王室を揺るがす事態に発展する可能性が高い』

「長官には何か確証があるように感じられます」

『君はそう思うのかね?』


長官は昔から鼻が利く。

王太子派でも第一皇女派でもない中立派だが、両派閥に属する貴族達の信頼も厚い。

しかも、国王陛下が王太子だった頃からの友人で、王室に渦巻く陰謀を暴き、数々の反乱の芽も摘んできた。

そんな長官が、何かが起きることを予言している。



『今はルミナリオ・マイクロフト君だったね?』


改めてわたしを偽名で呼んだ。



『アルテオン辺境伯とそのご家族を守ってくれ』


真摯な声がわたしの耳に届く。


『これは魔法省長官としてではなく、アルテオン辺境伯フィリップの友人としての依頼だ』


長官は友を助けてくれと言っている。

そして、わたしが幼い頃からずっと目を掛けてくれていた長官には返しきれない程の恩がある。

なら、わたしの答えは一つだ。


「わかりました。依頼、お引き受けします」

『頼んだよ、ルミナリア』


わたしの真名を最後に通話が切れた。



わたしは受話器を置くとシュミット騎士団長に向き直る。


「では参りましょうか?」

「はい! お館様の前までご案内致します!」


シュミット騎士団長が緊張しながら直立不動姿勢を取った。


ん?

どういうことだろう?

私に対する態度が激変しているんだが?



「では、マルセルさん。もしかすると帰らないかもしれないので最後の戸締りお願いします」

(かしこ)まりました。いってらっしゃいませ、ルミナリオ様」



わたしは先導するように前を歩くシュミット騎士団長について館を出た。



門の前には馬車が用意されていた。


「さっさと乗れ! 小僧!」


さっきの血の気が多そうな騎士が罵声を浴びせてわたしの背中を押してきた。


次の瞬間、シュミット騎士団長の飛び蹴りが炸裂する。

あはれ、血の気の多そうな騎士は、数m蹴り飛ばされて木の幹に激突して意識を刈り取られたのだった。


「おい、おまえ達! この方に無礼を働いたらこいつのようになると思え! わかったな!?」

「は、はい! 騎士団長!」


鋭い目で睨み据えられた騎士達が怯えながら命に従う。


うわあ。

シュミット騎士団長、怖えええええ!

でも、何でこうも態度が変わったんだろう?

長官は彼に何を告げたんだろう?





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