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面倒くさいから全部チェンジで  作者: 衣之谷こうみ
ルミナリア編

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32/51

32 長官との交換条件を実行に移す


な~んか、朝から視線を感じるんだよねえ。


わたしは6号車に繋がる貫通扉に視線を向ける。

貫通扉は(すり)ガラスだから扉の向こう側は見えない。

それは向こう側に居る者からもこちら側が見えないということでもある。


だから、貫通扉が少しだけ横に開いている。

その隙間からこちらを伺っているであろう人物の気配がする。

気配?

いや、殺気と言った方がいいのかもしれない。


[認識阻害]で気配を絶って忍び寄り、いきなり扉を開け放ってやれば誰なのか判るんだけど、どうせ知らバックレられて更に陰湿な監視をされるに違いないんだよね?


だから、ここは無視するに限る。

知らんぷりしておけば、そのうち諦めるか、ボロを出すに決まっているんだ。

鬱陶(うっとう)しい視線は散々王宮で浴びただろう?

それに比べれば、どうってことないよ、この程度。


うんうん。

そうやって自己暗示を掛けるんだ。

フライブルグまで、後4時間の我慢だよ。




午前11時。

定刻から3時間遅れで急行列車はフライブルグに到着した。


それまでに判ったことがある。

相手は素人だ。

監視方法が雑なのだ。

わたしの居所を探すであろう宰相閣下の派遣した者じゃない。



わたしはフライブルグの改札を出ると、長官のセーフハウスがある場所の近くを通る乗合馬車には乗らず、フライブルグの繁華街を目指した。

表通りを歩き、露店で串焼きを買って公園で頬張る。

その間もずっと尾行されている。

[認識阻害]で気配を消して尾行しているつもりなのだろうが、[認識阻害]の術式が整理されていないので若干の気配を残している。

素人としては上出来なんだろうが、軍情報部の平均的な諜報員や探偵には明らかに劣る。


わたしは裏筋をいくつか曲がった先、袋小路に差し掛かると[フライ]で飛び上がって民家の屋根の上に降り立った。

下を覗くと尾行者が袋小路に誰も居ないことに戸惑っているのが見えた。

もちろん、こちらは完璧な[認識阻害]を発動しているので尾行者が屋根の上のわたしに気付くことはない。



やっぱり、ネフィリア・アルテオン嬢だったか。



でも、何故、わたしが監視や尾行されなくちゃならないんだろう?



なんか理不尽だな。


よし。

行きがけの駄賃に一つ悪戯してから行方を晦ませてやろう。


わたしは[ウォーターボール]で人の頭大の水球を作り出し、アルテオン嬢の真上まで移動させると――――水球を重力に引かれるままに任せてみた。



バシャ――――ンンン!


「きゃあああああああ!」


哀れ、アルテオン嬢は濡れネズミ。


「何よ! これ~~~!」


今迄プレッシャーを掛けられて気ままな旅を邪魔され続けたわたし。

その留飲が下りたような気がしたのだった。




長官のセーフハウスは結構な郊外にあった。

乗合馬車を降りてから30分も赤土剥き出しの林道を歩かされちゃったよ。


周りに民家が無い森の中に隠れた豪邸。

場所はともかく、この豪邸はセーフハウスらしくないわね。

裏には強固な結界が施された訓練場もあった。

広大な庭の一角には家庭菜園も。


長官には色々言いたいことはあるが、有難く使わせて貰うことにしよう。




「おはようございます、マルセルさん」

「これはこれは、マイクロフト様。おはようございます」

「僕のことはルミナリオでいいですよ」

「そうでございましたね、ルミナリオ様。歳を取ると物忘れが激しくなるようで」


マルセルさんが申し訳なさそうに頭を掻いた。


毎朝繰り返される会話。


マルセル・リードさん。

長官のセーフハウスの管理人。

敷地の管理と家庭菜園の手入れをしてくれている。

森の外の村から通いで来て貰っている70代半ばのおじいさんだ。

搔いている頭は白くバーコード化しているが、身体は壮健なようだ。



バーコード?

何のことだ?



一方のわたしは日課の朝の鍛錬。

朝練の内容は剣の素振りと型稽古である。


「ルミナリオ様も朝から精が出ますね」

「数年前に剣を握り始めてからずっと続けていることですからね。ルーティーンなんですよ」

「ルーティーン…………ですか?」


ルーティーン?

また妙な単語を口走ったようだ。



「あ、いや、その、決まった行動パターンってことですよ」

「なるほど。そうでございますか」



わたしはマルセルさんと別れると、書斎に籠って長官に手紙を書いた。




『魔法省長官ジョージ・ミンスター殿

 

 無国籍で無職の旅人 ルミナリア・フォルティスです。

 長官のセーフハウスに来て1週間経ったので定期報告を。


 長官のおかげでわたしは穏やかな毎日を過ごせています。

 王都と違い、北の地であるアルテオン辺境伯領は真夏でも

 朝晩は冷え込みます。その代わり、昼間は冷却魔法の必要

 が無いくらい涼しいですね。さすがは王国有数の避暑地と

 いったところです。

 管理人のマルセルさんも良くしてくれます。


 それで報告事項なのですが――――』


そこで手紙に走らせていたペンが止まる。


ここに来るまでの列車での出来事を思い出す。

知らせておいた方がいいかな?

いや、やめておこう。


『すべて世は事もなし、ですかね。

 また、1週間後に定期連絡を入れます』




それだけ綴ると、手紙を封書に入れて長官の遣わせてきた使い魔の小鳥に持たせる。

小鳥は手紙を足で掴むと、窓の外に飛んで行った。



わたしが連絡を怠ると思って使い魔を寄こしてくるとはね。

長官には困ったものだ。

わたしが約束を違えて雲隠れするとでも思っているのかな?

一応、2ヶ月はここに滞在すると約束したでしょう?

約束は守りますよ。

まあ、約束の期間が過ぎたら、ここを去るつもりなんだけどね。




翌日、長官から返信が来た。

持ってきたのは長官の使い魔の小鳥。


『親愛なる部下ルミナリア・フォルティス嬢


 君の終生の上司 ジョージ・ミンスターだ。

 今、王都は大変なことになっているよ。

 宰相殿が血眼で君の行方を捜している。

 魔法省の玄関前で君とすれ違ったのにね。

 全く気付かなかったみたいだよ。

 髪の色だけ変えただけなのにね。

 宰相殿と王宮に報告に行ったのだが、国王陛下も君が

 王都から出て行くであろうことは想定していたようだ

 が、まさか魔法師団長を辞しただけでなく、爵位と市

 民権までをも返上するとは思っていなかったようだ。

 混乱する国王陛下のさまは見物だったよ。

 私も国王陛下の裁可には不満を持っていたからね。

 ザマアミロだ』


陛下の臣下がそれでいいんだろうか?

困った長官だ。


『東部戦線からは連絡を受けた王太子殿下が、敵と休戦

 して王都に戻ってくるよ。

 かなり相手に有利な内容を提示して休戦したようだ。

 王都に戻ることを優先したんだね。

 君のことが心配なんだろう。

 愛されてるじゃないか、王太子殿下に。

 取り敢えず、君が処分されるに至った内容については

 緘口令(かんこうれい)を敷いておいた。

 事情を知った王太子殿下が怒り狂って何をしでかすか

 わかったものじゃないからね。

 王太子殿下には君が説明したまえ。

 職を辞しただけで済ませばいいものを、爵位と市民権

 までをも返上したのはやり過ぎだよ。

 宰相殿からそれを聞いた私の気持ちが判るかね?

 これは完全な(だま)し討ちだよ』


長官には、爵位と市民権の返上の件は伏せてたんだけどなあ。

そもそも、宰相殿はどこで知ったんだろう?


貴族会館の窓口で爵位の返上の書類を記入して、民生局の窓口で王国離脱届を書いて身分証を返納しただけなんだけどなあ?


貴族会館は貴族院の管轄、民生局は内務省の管轄だ。

手続きをしたのは長官に挨拶しに行った日の朝。

受理された書類が決裁ルートに乗って貴族院議長や内務省長官の目に届くのは早くとも3日後。

それらは貴族院議長や内務省長官が決裁印を押すことで終わる。

昼行燈の彼等は内容をロクに確認することも無く、決裁印を押し(まく)るハンコ押しマシーンだ。

そうして決済印を押された書類は文書保管庫に収納されて、THE END。

そうしている間にわたしは誰にも気取(けど)られることなく出国できるはずだった。

わたしは静かにフェードアウトするはずだった。


それがどうして数時間後に宰相の耳まで届いた?

こんな時だけ、貴族院議長と内務省長官が勤勉に働いたとでも言うの?


しかも、あいつに説明しろですって?


正直、勘弁して欲しい。

もう、わたしは王国のために充分働いたでしょう?

もう必要無くなったから王都から追放したのでしょう?


だとしたら、利害が一致したと言うのなら、わたしのことは放っておいて欲しいものだ。

職を辞したわたしが退職金と恩給を請求しなかったことにむしろ感謝して貰いたいくらいだ。


『そうそう。

 国王陛下以上に第一王女殿下のシャルロッテ様が慌てふた

 めいていたよ。君が処分された元凶なのにね。

 今回の件で弟の王太子殿下に責められるだろうね。

 これが切っ掛けで王太子派と第一王女派の間で

 王位継承権を巡る争いが怒らなければいいが。

 王室を支える一因として頭が痛いよ』



それ以降は、長官の愚痴が数ページに渡って記述されていた。


偉い人達も大変だな。


面倒臭い争いごとに巻き込まれなくてよかったよ。



読み終えた手紙を抽斗(ひきだし)に仕舞ったわたしは、別棟になっている訓練場に向かった。


午後は魔法の訓練の時間。

心に何かモヤモヤするものがあるから、そいつを解消するためにも派手なヤツをブチかましてやろうかね。

なにせ、この訓練場は超級魔法にだって耐えられる造りになっているのだから。




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