28 再び神界にて
わたしは膝を抱えて蹲っていた。
「もうイヤだよ、神様」
サーシャだったコンスタンス。
再会した彼女とわたしは恋人になった。
紆余曲折の末、漸く幸せを掴んだと思っていた矢先、またわたしは殺されてしまった。
鈴城舞花の時も!
リーゼロッテ・イストリアの時も!
そして、アリシア・ミュルシュタットの時も!
転生する度に、わたし同様転生していた女に殺される。
何度も何度も何度も!
「わたし、何か恨まれることしたのかな?」
そんなわたしを黙って見守る神様。
「わたし、生まれ変わらない方がいいのかな?」
膝を抱える腕をぎゅっと握り締める。
「君は充分頑張った。自分の周りだけでなく、多くの人々に幸せを齎した」
そうなのかもしれないけど…………
「君はそのことを誇っていい」
わたしの前にしゃがみ込んだ神様がわたしの頭に手を置いて優しく撫でてくれた。
「優しくしないでよ。涙が出てくるじゃないの」
膝頭に顔を押し付けて耐える。
「ねえ? これから君はどうしたい?」
打ちひしがれたわたしに神様が尋ねてきた。
「このままここに居るのはダメ?」
「う~ん。それはできないなあ」
「何でよ?」
「先輩との約束だからね。約束を破ると僕が怒られるんだよ」
「神様でも逆らえない相手が居るんだ?」
顔を上げて尋ねると、神様が複雑そうな表情になり、それから苦笑いを浮かべた。
どうやら、困っているらしい。
神様の困り顔を見て少し気が晴れたわたしは気を取り直すことにした。
「ここに居られないなら、今度は大人しく目立たず生きることにするわ」
そう。
今度は誰にも気に留められることなく小市民として生きるのだ。
美味しいケーキを口にした時の喜びや、その日一日何事もなく過ごせたことに感謝する。
そんな小さな幸せだけで満足できる小市民として。
「う~ん、それは~」
神様を見ると、さっきよりも複雑な思いを抱いたらしく、蟀谷に手を当てて唸っている。
そして、申し訳なさそうにわたしを見た。
「それは難しいんじゃないかな?」
「何でよ!?」
思わず噛みつくわたし。
(本当に噛みついた訳じゃないよ。これは比喩表現だからね)
「だって君、どう考えても小市民の器じゃないし」
「小市民の器だよ!」
「困っている人が居たら、立場関係なく助けちゃうでしょ?」
「それは当たり前のことでしょう?」
「小市民はそんな時も黙って見ているだけだよ。他人のために立ち上がったりはしないものなんだよ」
「じゃあ、目立たないように陰から助けるようにするわ。わたしの功績だって分からなければいいんでしょう?」
神様がヤレヤレって顔をした。
「何で呆れ返ってるのよ!?」
今度は面白そうにわたしを見る神様。
「まあいいや。君は君で小市民を目指したらいい」
「そうすることにするわ」
「どうせ、無駄なんだけどね」
『どうせ、無駄』?
訊き捨てならんぞ、おい!
「今度、君が転生するのは剣が鍔迫り合いをし、魔法が飛び交う世界だ」
神様が勝手に話を進め始めた。
「転生ボーナスとして、あり得ない程の膨大な魔力を付与しておいた。せいぜい活用するといいよ」
『あり得ない程の膨大な魔力』だと?
それ、小市民が持っていいものじゃないよね?
いらないよ!
「転生ボーナスはいらないんですけど?」
「そう言われてもねえ。もう付与しちゃった後だし」
「クーリングオフで!」
「一旦手にしたものは返却できないよ」
神様が悪徳通販業者みたいなことを言いやがったよ。
「ちなみに今までの転生ボーナスや獲得したスキルも有効だから上手に生かして欲しい」
もう、わたしを送り出す気満々らしい。
「じゃあ、今度こそ実りある人生を」
「イヤだ! 行きたくない! わたしはここで床の染みや埃になって余生を送るんだ!」
そんなわたしに万遍の笑みを浮かべて見せる神様。
「その往生際の悪さ、嫌いじゃないよ」
次の瞬間、ガクンと床が抜けるような感覚がわたしを襲う。
「えっ!? ちょっと!?」
落ちていくわたし。
上の方で次第に小さくなっていく神様。
「それがわたしに課された試練なの~~~~!?」
加速する落下速度。
次第に遠ざかる意識。
そうして、わたしは『剣が鍔迫り合いをし、魔法が飛び交う世界』というやつに転生することになるのだった。
◆ ◆ ◆
「マズいな。彼女が転生に耐えられるのはもう後2回だ。魂の記憶が薄れそうになっている」
彼女を見送った彼は焦りを感じていた。
「次こそは連鎖を断ち切ってくれよ。先輩も今度こそ頼みますよ」




