26 わたしの人生の主役はわたし自身が務める!
「お客様。ここは魔道具工房です。魔道具以外のお取り扱いは――――」
「何でも叶えてくれるんだよね?」
「そ、それは…………」
「嘘偽りはないんだよね?」
もしかして、わたし、追い詰められている?
わたしはシュタッと身を翻し逃亡を図るが、右腕をガッツリ掴まれてそれは未遂に終わる。
「はぁ~~~~」
年貢を納めたわたしは息を吐くと、コンスタンスに向き直った。
「今頃、何しに来たのよ、皇帝陛下?」
彼女を睨みつけるが、当の本人はニッコニコ顔だ。
「キミを捕まえに」
「わたし、帝国には行かないわよ」
皇帝の伴侶なんて冗談じゃないわよ。
わたしの平穏な生活が奪われてしまう。
「その心配はしなくてもいいよ。だって、もう、ボクは無職だからね」
今、なんつった?
『無職』だと?
聞き間違いじゃないよね?
「もう、ボクは無職だからね。大事なことだから二回言ってみた」
どういうこと?
「説明をお願い」
「よろこんで!」
コンスタンスが居酒屋の店員みたいなことを口にした。
コンスタンス曰く。
帝国は帝政をやめて連邦制に移行することとなった。
貴族が治めていた諸領や商人が治めていた商業都市は州や政令指定都市になり、それぞれ選挙により州知事や都市長が選ばれる。
国も、民衆から選挙で選ばれる代議員による国民議会と貴族から選出される貴族院の二院制の立法府が設けられることとなり、各州での予備選を経て選ばれた選挙人の投票により選ばれた大統領が国の代表を務める。
所謂、大統領制だ。
アメリカの大統領を選ぶ方式と同じだね。
コンスタンスは連邦制移行が決まると同時に退位した。
今は政権移行スタッフ達が統治を代行している。
大統領と代議員、貴族議員が決まり次第、統治運営が移管されることになっている。
そこまでは、風の噂でヨマイにも伝わってきている。
「あんたは大統領に立候補しなかったの? 国民の支持が厚いから当選確実でしょう?」
「辞退したよ」
清々しい顔で言うなよ。
「ボクは充分、帝国の復興に尽力したんだ。もう自由になってもいい頃だよね?」
それで無職?
いや、待て。
大公領はどうした?
「ああ、それなんだけどね。従弟に譲ってきた」
譲って来ただとぉ?
巨万の富と広大な領地を全部?
「従弟が新たな州知事だよ」
なんなんだ、その潔さは?
「これも全てキミのせいだ」
わたしのせい?
「ボクを捨てて行方を晦ませたキミが悪いんだよ」
確かにわたしは帝位継承を放棄して帝都を去った。
コンスタンスに全てを押し付けてね。
しかも、追手を撒くために容姿まで変えて帝国を脱出した。
「その時のツケを払って貰うのは当然のことだとは思わないかい?」
相変わらずのニコニコ顔のコンスタンスが怖い。
わたしはどんなツケを払わされるんだろう?
「ああ、そう言えば、キミに許可なく決めたことがあったね」
聞きたくない。
イヤな予感しかしない。
「新たな国名なんだけど、アリシア=ミュルシュタット共和国連邦にしたんだよ。ついでに各地に救国の英雄アリシア・ミュルシュタットの銅像を建立したよ。これでキミの名と功績が末代まで残ることとなった。よかったね、アリシア」
わたしは魂が抜けそうになった。
何てことしてくれやがるんだ!
もう、テンシャン山脈の向こうには行けなくなっちゃったじゃないか!
それにいずれは王国にも伝わって…………
国王陛下が対抗心を燃やして、王国内にも銅像を建て捲る未来しか見えないんだよ。
目立ち過ぎて旅行もできない。
冒険者稼業にも支障が出そうだ。
もう、引き籠もるしか無いのか…………わたし。
「安心したまえ。ボクがキミの人生を貰ってあげるから。ボクがキミの代わりに家計を支えよう。面の割れたキミはもう働かなくてもいいんだよ。家でゴロゴロしてたらいいんだ」
これはコンスタンスの策略だ。
我儘姫だった昔と違い、目立つのが嫌いになったわたしを囲い込み、その手の中に絡め捕るつもりだ。
だけどね。
わたしはあんたの思惑に翻弄されるつもりはないよ。
「ふっ。あんたはわたしをあんたに従順な篭の鳥にでもするつもりなんでしょうけど、そうは問屋が卸さないわ」
コンスタンスに指を突きつける。
「わたしの人生の主役はわたし自身が務める! 誰であれ、その権利を侵すのをわたしは許さない!」
わたしは続ける。
「それにね。わたしは5歳にしてあんたの人生を奪い取った我儘姫よ。そんなあなたがわたしを囲い込もうとした」
わたしはそれだけ言い放つと、工房の扉に掛けられたプレートを裏返して『CLOSE』にし、扉を閉めて――――
ガチャリ!
鍵を掛けた。
そして、振り返ってコンスタンスに笑顔を向ける。
「これはお仕置きが必要ね」
ゆっくりとコンスタンスに歩み寄るわたし。
「アリシア? な、なにをするつもりだい?」
後退るコンスタンスを部屋の隅に追い込んでいく。
「そんなの決まってるじゃない」
わたし、悪役顔になってるな。
ふん。
構うもんか。
「あんたが《かすが》の艦内でわたしにしてくれたこと、忘れたとは言わせないわよ」
縮地で間合いを詰めたわたしは、コンスタンスを押し倒してその唇を奪った。
ここからはわたしのターン。
舌を潜り込ませながら、一枚一枚コンスタンスの着衣を剥ぎ取っていく。
「にゃっ! んんんんんん!」
抵抗を試みていたコンスタンスから力が抜けていく。
さあ、コンスタンス。
覚悟しなさい。
これから、わたしがあんたを上から下まで愛で尽くしてあげる。
あなたはどこまで耐えられるかしら?
やがて、工房にコンスタンスの喘ぎ声が響き渡り、それは日が暮れ、夜になり、そして、朝日が昇った後まで続くのだった。
■
「ふううううう! さっぱりしたあ!」
お昼時も近い午前も終わろうかという時間。
お風呂でサッパリしたわたしは、髪から滴る水気をバスタオルで拭き取りながら、工房の床に横たわった裸のコンスタンスを見下ろす。
コンスタンスの目は開いていたが、瞳孔が開き切った状態。
緩く開いた口からは涎が漏れ出ていた。
身体も断続的にヒクヒクと痙攣している。
やりすぎたか?
味わい尽くしちゃったからなあ。
わたしは広い浴槽の湯を落として代わりに水を張る。
そして、床に横たわるコンスタンスを担ぎ上げ、浴槽に向かい――――
勢いよく彼女を水風呂の中に投げ込んでやった。
バシャ――――ン!!
「ひゃあああああああああああああ!」
冷たい水の中に投げ込まれたことで我に返ったコンスタンスが溺れかけ、浴槽の淵に手を掛けて――――――水の中から飛び出してきた。
「おはよう、コンスタンス」
ニンマリ笑うわたしをコンスタンスが恨めしそうな目で睨んでくる。
「ボクの愛しい人はサドだったのか?」
「今頃気付いたの?」
「扱いが酷過ぎやしないかい?」
「でも目は覚めたでしょう?」
ニヒヒと笑うわたし。
「お湯は赤い蛇口を捻れば出るから」
「むううううううう」
コンスタンスはまだ言いたいことがありそうだ。
だが、それを聞いてやるつもりはない。
「ちゃんと石鹼で体を綺麗にするのよ。涎と…………腿まで滴る体液もね」
「■※▼☆※◇×□▲!!!!!!!」
顔を真っ赤にして悪態を吐くコンスタンス。
そういうところが可愛いんだよね。
そんなことを考えながらキッチンに向かう。
お昼は何を作ろうかしら?
一人飯じゃないのは久しぶりだ。
ちょっくらコンスタンスのために腕を振るってやるとするかね。
幸福感に満たされたわたしは、歌を口ずさみながら二人分の食事の用意を始めるのだった。




