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面倒くさいから全部チェンジで  作者: 衣之谷こうみ
アリシア編

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25/51

25 鳥嘴マスクの客


わたしがヨマイ村に戻って来てから5年の歳月が流れていた。


「暇だ~~~。このままじゃ暇怪獣(ひまかいじゅう)になっちゃうよ」


冒険者ギルドの待合テーブルに突っ伏すわたし。


「アリシアちゃん。ここは休憩所じゃないのよ」


顔を上げると、呆れかえった表情を浮かべるシンシアさんが腰に手を当ててわたしを見下ろしていた。


「そんなことじゃ、行き遅れになっちゃうわよ?」

「いいんだ、いいんだ。わたしは一人住まいの老人になって誰にも看取られずに孤独死するんだ」


実際に今は一人暮らしだし。



――――――――――――――――――――――――――


わたしが戻って来てからのヨマイ村の話をしよう。


あれから半年後、ミラ姉はゼストさんと結婚して家を出て行った。

わたしの消息が途絶えて意気消沈していたミラ姉を心配してちょくちょくうちに来ていたゼストさん。

ミラ姉を励ますゼストさんとその優しさに甘えるミラ姉。

シンシアさん曰く、二人の間に愛が芽生えるのは時間の問題だったそうだ。


わたしが無事戻って来たことに安心したミラ姉は、ゼストさんのプロポーズを受入れ、その伴侶となったのだった。


そんなわたしは、二人に結婚祝いをプレゼントした。

氷雪竜(ひょうせつりゅう)住処(すみか)だったわたしの臨時の工房。

ミスリル結晶で覆われた洞穴である。

そこには無尽蔵に埋蔵されたミスリルがあった。

氷雪竜(ひょうせつりゅう)を倒したわたしを恐れてか、辺り一帯に魔物が近寄らなくなったことで安全も担保されている。


《かすが》の建造に使った数十台のキャタピラ装備の自律制御工作機械も採掘仕様に改造してプレゼントした。


わたしからミスリル鉱床の洞穴を受け継いだゼストさんは、冒険者を辞めミスリル鉱山の経営者になった。

やがて、ミラ姉とゼストさんの間に立て続けに子供が出来て今では5人家族だ。

ゼストさんと一緒に冒険者をしていたハンスさんとロイさんも鉱山技師に職を変え、ゼストさんの会社を支えている。


大量のミスリルが産出するようになったことで、ヨマイ村にも王国全土から人が集まるようになり、村は発展して王国直轄の自治都市になった。

もちろん、自治権を与えられた背景には国王様の後押しがあった。

国王様はまだわたしを王室に取り込むことを諦めていないらしい。


村の冒険者ギルドマスターだったシンシアさんも、いつの間にか冒険者ギルド本部の高級幹部を兼ねるようになり、ヨマイ村改め自由都市ヨマイの領主代行に就いていた。

木造3階建ての辺境の冒険者ギルドの建物も、今では鉄筋15階建て総ガラス張りの立派なビルに様変わりしている。

領主代行の庁舎も兼ねているから、まあこんなものだろう。



わたしも順調に経験を重ねて世界初のSS級冒険者になった。

今迄、C級に甘んじていたわたしが何で心変わりしたのかって?


わたしが帝国で暴れまくった武勇伝が全世界に広まってしまったからだよ。

もう実力を隠す必要もなくなったし、隠すこともできなくなった。

わたしの素性もね。

だから、実力に見合うランクに上がったんだよ。

押しも押されぬSS級まで上がってしまえば、国からの干渉も()退()けられるからね。



わたしが破壊したテンシャン山脈を貫くトンネルも急ピッチで復旧していった。

好戦的なミュルシュタット帝国が平和的なクロスハウゼン帝国に体制が変わったことで、王国との正式な国交と平和条約の締結が為されたからだ。


3年の年月を掛けて復旧したトンネルは内部が拡幅され、馬車がすれ違えるくらい広くなった。

徒歩で移動する者のことも考慮して、歩車分離も行われ、トンネルには数km毎に給水所とトイレが設けられた休憩施設も設置された。


帝国と王国を結ぶ大動脈の開通。

開通式にはわたしも呼ばれた。

同席した国王様がわたしに第三王子を勧めてきた。

王太子と第二王子には既に奥さんが居る。

だから第三王子を勧めてきたんだろうが、歳の割にしっかりしているとは謂え第三王子ってまだ8歳やん。わたしはもう21歳なんだよ。

わたしはショタコンじゃない。

だから、きっぱりお断わっておいた。



『10年もしたら歳の差なんて些細なものになるから』


と諦めない国王様。


勘弁してよ。



『わたしに子供ができたら、そいつを進呈するからそれで我慢して欲しい』


と言ったら引き下がってくれた。



――――――――――――――――――――――――――


シンシアさんに散々クダを蒔いてきたわたしは、自らが経営する〖イアハート魔道具店〗改め〖ミュルシュタット錬金工房〗に戻ってきていた。


工房入口の鍵を開けて屋内に入ったわたしは、カウンター奥に腰掛けると溜息を吐いた。


『コーヒーでも淹れようかな』と立ち上がり掛けた時、入口から客が入って来た。


「いらっしゃいませ」



最近は冒険者ギルド兼領主代行庁舎との間に設けた魔石通信機により、通常の魔道具の受注は通信機を通じたリモート受注になっている。

顧客は庁舎に置いてあるカタログを見て、ギルド受付カウンターに発注し、ギルドでそれを取り纏めて一括してリモート発注する仕組みだ。

特殊な魔道具は、わたし自ら庁舎に出向いて発注者と打ち合わせるようにしている。

だから、店に直接客が来ることは無くなっていた。


そういう意味では来客は珍しいと言える。



カウンター奥に座り直したわたしは客の様子を伺う。

わたしの挨拶にも黙して語らない客は、怪しげな姿だった。


まだ冬でもないのに高襟・膝下丈のグレーのロングコートを纏い、その襟に取り付けられたフードを頭から被っているのだが、一番目を引いたのはペスト医師が装着するような鳥嘴(くちばし)マスクだ。


なんだこいつ?

よく警備兵に見咎(みとが)められなかったな?


いや、驚かないぞ。

最近、自由都市ヨマイに集まってきた冒険者には変なヤツも沢山居るんだから。



まあいい。

適当にあしらってお引き取り頂こう。



「何か御入用(ごいりよう)のものがございますでしょうか?」


0円の営業用スマイルで応対する。


「ああ」


鳥嘴(くちばし)マスクからしゃがれた声が発せられた。

人工的に作られた音声のようだ。



「通常の魔道具は冒険者ギルドにカタログがございますので、そちらの方でご注文下さい」

「特殊なものは?」

「そちらについても冒険者ギルドで受付しております。連絡先さえ申し出て頂ければ、日程を調整して打合わせ日をご連絡致します。打合せ当日、当店のスタッフが冒険者ギルドに伺い詳細を詰める手筈(てはず)になっております」


『当店のスタッフが』と言っても、わたし一人しか居ないんだけどね。



「それまで待てない。それではダメなんだ」


なんて我儘な客なんだ。

特殊な魔道具のバックオーダーは消化済みだからいいものの、そうでなかったら門前払いしているところだぞ。


まあいい。

今は時間的なゆとりがある。


緊急発注であることは、客の様子から伺い知れるんだよね。


しゃあない。

受けてやるか。



「仕方がありませんね。どのようなものをお求めでしょうか?」


わたしは溜息を()くと、カウンター前まで客に来るように勧める。


「何でも良いのか?」

「ええ、お任せ下さい。生活機器から巡航艦まで。このアリシア・ミュルシュタットがお客様の望みを叶えてご覧に入れましょう」


立ち上がって両手を広げたわたしが営業用スマイルを顔に貼り付けて大見得(おおみえ)を切る。



「その言葉に嘘偽(うそいつわ)りは無いな?」

「もちろん」


疑い深い客だな、おい!


「後で『申し訳ありません。無理です』とか言うなよ?」

「言いませんよ」


営業用スマイルが崩れそうになるのを必死で抑える。

舐めてんのか、コノヤロウ!


言質(げんち)は取ったぞ」


鳥嘴(くちばし)マスクが確認してきた。


殴りたい!

無茶苦茶殴りたい!



「では――――」


客がフードを(ひるがえ)し、鳥嘴(くちばし)マスクを取った。



「アリシア・ミュルシュタット嬢。キミを所望する」



肩口で(そろ)えられた金髪。

エメラルドグリーンの右目とルビーレッドの左目のヘテロクロミアの瞳。

整った美形がベールを脱いだのだった。



その顔を見た瞬間、わたしは自らの時間を止めた。

それくらいの驚きだったのだ。



だって、目の前に立つのは――――


5年前に皇宮に置き去りにしてきたコンスタンス・クロスハウゼンその人だったのだから。






【告知】

  この話のエンディングが決まったので、

  今日から一気に突っ走ります。

  土日以外、毎日複数回アップしていく

  つもりですので、最後までお付き合い下さい。

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