22 総攻撃
西部地方を平定したわたしはコンスタンス達と合流していた。
自由ミュルシュタット同盟軍とミュルシュタット解放戦線はひとつの軍事組織に纏まり、新たなにミュルシュタット連邦軍と称することとなった。
《かすが》が加わったことで南方戦線の均衡は破れ、帝国軍は連戦連敗。
帝都にひたすら退却する戦況となった。
それも仕方が無かろう。
帝国軍と同盟関係にあった周辺国の首都には中距離弾道弾が降り注ぎ、巡航ミサイルが軍事拠点を破壊する。
ミュルシュタット連邦軍を迎え撃つべく前面展開する帝国軍の上空に数多の攻撃用ドローンが飛来。
フレシェット弾を投下された帝国軍は確実に崩壊しつつあった。
劣勢になった帝国軍は、それでも戦意を失わず南部各所の砦に立て籠もって抵抗を続けた。
砦に対しては《かすが》からのビームキャノンの薙ぎ払うような横一線の斉射で対応。
数十か所に分散する砦は各個撃破され、中の兵士諸共分子レベルで分解されたのだった。
《かすが》によるアウトレンジ攻撃により組織立った抵抗が出来なくなった帝国軍は残存兵力を帝都に集結させ、体制を立て直して最後の戦いに臨む。
残敵掃討を受け持つミュルシュタット連邦軍はほぼ無傷で帝都近郊まで進出し、迎え撃つ帝国軍を幾重にも包囲したのだった。
「帝都民の避難はどうなっているの?」
『皇帝が帝都からの退去を勧告したよ。互いに3日間の休戦にも合意している』
「皇帝への降伏勧告は?」
『そっちの方は拒否されたよ』
コンスタンスとの映像通話で状況を確認する。
叔父は徹底抗戦のつもりらしい。
もう、勝ち目なんか無いんだから、さっさと降伏すればいいのに。
そうしたら、命だけは助けてやってもいいよ。
わたしも鬼じゃないんだから。
『降伏しても処刑は免れないね』
「なんでよ?」
『徴兵と徴税が酷かったんだよ。民衆への弾圧も激しかったしね。秘密警察の容赦無い摘発で多くの無実の者までがしょっ引かれ拷問されて殺されたんだ』
「帝国民の恨み骨髄ってところかしら?」
コンスタンスの言い分も解る。
特に元ミュルシュタット解放戦線の連中は許さないだろう。
家族や仲間を惨たらしく殺されたんだから。
ここで叔父を許したらミュルシュタット連邦軍は内部分裂し、下手をすれば新たな内戦に突入するかもしれない。
「帝国軍の将兵は?」
『今帝都に集結しているのは皇帝直属の傭兵部隊と秘密警察だ。金のため、イデオロギーのためなら何でもする連中だよ。情状酌量の余地は無いね』
「そっか…………」
なら仕方無いね。
休戦開けに総攻撃するしかないね。
「連邦軍には帝都から脱出を試みてきた部隊の殲滅をお願いするわ」
『キミはどうするつもりだい?』
「帝都が灰塵に帰すまで徹底的に叩くわ」
叔父も含めて皆殺しになっちゃうな。
でも、覚悟を決めよう。
これで終わらせるんだ!
■
3日間の休戦開け。
帝都民の居なくなった帝都への総攻撃が始まった。
もちろん、総攻撃の主力は《かすが》だ。
VLSからロフテッド軌道で打ち上げられた4発の中距離弾道弾が極超音速で帝都に降り注ぎ、帝国軍司令部、秘密警察庁舎、帝国軍兵舎、そして物資集積倉庫に巨大な爆発を生じさせる。
VLSから発射された巡航ミサイルが帝都を取り囲む城壁を破壊し、城壁上部に設置されていたバリスタを無力化していく。
100機の攻撃用ドローンが市街地に分散している帝国兵達の真上からナパーム弾を投下し、焼死体の数を増やしていく。
城壁から包囲する連邦軍に向かって決死の突撃を試みる部隊に30mm多銃身ガトリング砲が斉射される。
火に包まれた帝都の中心に建つ皇宮シュトルツフェルム城。
レールガンから発射されたミスリルの礫が城壁を破砕し、ビームキャノンからの拡散ビームがいくつも聳え立つ尖塔を貫き倒壊させていく。
「決まったな」
シュトルツフェルム城はその威容を保つことが出来ず瓦礫の廃城になりつつあった。
その時だった。
ズン!!
城から放たれた光の矢が《かすが》の機関部を貫いた。
《かすが》が姿勢を崩す。
ビービービービー!
艦内に警報音が鳴り響く。
《かすが》の推力が落ち、高度が下がっていく。
艦の姿勢を戻そうとしたが傾いた艦体は元には戻らなかった。
『アリシア!!』
「わたしは大丈夫。でも、この艦はもうダメね」
『退艦するんだ!』
「イヤよ!」
『しかし――――』
「このまま皇宮に突入するわ! 叔父様との決着をつける!」
コンスタンスからの応答が暫く途絶える。
「…………」
再び聞こえてきた声。
『ボクも残敵を掃討してそちらに向かう』
そこからはコンスタンスの覚悟が伝わってきた。
止めても聞かないんだろうな。
「わかったわ。皇宮の中で会いましょう」
わたしは《かすが》の艦首を皇宮に向ける。
魔石エネルギー変換全周底面反重力偏向ノズルの前後底面の各4基を思い切り前方に傾斜させ逆噴射。
艦速を減速させながらゆっくりと高度を下げていく。
ガガガガガガガ!
ズ――――ン!
「うわっ!」
皇宮の宮殿中央に《かすが》をなんとか擱座させることに成功した。
もっとも、わたしは艦長席から投げ出され、しこたま体を打ち付けることになったのだが。
「ううっ…………痛たたたた!」
四肢の無事を確認した後、ゆっくりと身体を起こす。
手足の骨折こそしなかったが、あばらに皹が入ったな、こりゃあ。
身体中が打ち身で痛いよ。
頭がちょっとヌラッとした。
頭から出血もしてるみたい。
とりあえず、マジックバッグから取り出した包帯で応急処置をする。
わたしは吹き飛んだベレー帽を拾い上げて、包帯を巻いた頭に被り直す。
「よし! じゃあ行こうか」
擱座による衝撃で電源が喪失したため艦内は真っ暗。
通路の壁伝いに手探りで緊急脱出用ハッチに向かう。
タラップを使わないのかって?
タラップも電動だから開かないんだよ。
緊急脱出用ハッチに辿り着いたわたしは、円形の大きなハンドルを回してロックを解除し、重たいハッチをこじ開けて瓦礫と化した皇宮広間に降り立った。
「皇帝に盾突く逆賊め!」
待ち構えていた皇帝直属の十数名の近衛騎士達に取り囲まれる。
わたしも神官が持つようなワンドの形をした仕込み杖から細身の剣を抜き放つ。
ここからはリーゼロッテの剣技の出番だ。
剣を振り翳して襲い掛かって来る近衛騎士達。
縮地を駆使して間合いに飛び込み次々と近衛騎士の喉笛を突き刺し延髄まで貫く。
1分掛からずに近衛騎士達を無力化させた。
魔物を相手にするのに比べれば人間なんて他愛もない。
さて、叔父上は〖謁見の間〗かな?
大広間を抜けて長い廊下を〖謁見の間〗までひたすら走る。
途中、絶え間なく立ち塞がる近衛騎士の首を走り抜け様に薙いでいく。
わたしの後ろ、廊下に頸動脈を斬られた躯が次々に転がっていった。
『首切り姫リーゼロッテ』
前世、白兵戦において、ロスバルト帝国の陸戦兵達が怖れを込めてわたしに付けた異名。
今、わたしはその時のリーゼロッテと同じ将校服に身を包み敵中を駆ける。
向かうは〖謁見の間〗
誅する相手は叔父上フェルディナット・ミュルシュタット。




