21 皇宮にて
帝都サウスガルトの皇宮シュトルツフェルム城。
〖謁見の間〗に佇む現皇帝フェルディナット・ミュルシュタットは頭を悩ましていた。
「まさか、アリシアが立つとは…………」
帝国の正統な後継者のアリシア・ミュルシュタット。
12年前に王国に亡命したはずの第一皇女が兵を挙げた。
しかも、単独、圧倒的な火力を誇る新型兵器で西部地方の盟友達を制圧しつつある。
勇猛なシュトックハウゼン侯爵だけでなく、西部の要であるアナハイム公爵までがアリシアの前に命を落とした。
いずれは自分の下までやって来るであろうアリシアを思うと胃に鉛でも詰め込んだんだような重苦しい気分になるフェルディナットだった。
「何を気にされているのですか?」
フェルディナットの横に妖艶な美女が姿を現した。
膝裏まで届く漆黒の髪、銀色に輝く瞳、真紅のドレスを纏った妙齢の女性。
その表情は神秘的にも見える。
「アデルハイドか?」
フェルディナットは憂鬱そうな表情を隠さなかった。
「今、こちらにアリシア第一皇女が向かって来ている」
「丁度良いではありませんか。ご自身のモノにすることもその命脈を絶つことも。まさに陛下のお望みのままでございましょう?」
アデルハイドは余裕の笑みを浮かべた。
「だが、アリシアは我々が太刀打ちできない未知の搭乗兵器を持ち出してきた。実際、西部の有力諸侯が次々に戦死し、形勢不利と見た風見鶏どもは一斉に白旗を振って投降しつつある」
「シュトックハウゼン殿やアナハイム殿は残念ですが、それ以外は元々勝ち馬に乗る愚か者ばかりではありませんか? 敵に投降したとて気に病むことはございませんよ」
そんなアデルハイドの物言いもフェルディナットの心を安らげることはできなかった。
「そもそも、皇帝とその一族を廃することを言い出したのはおまえではないか!?」
フェルディナットはアデルハイドに責任転嫁した。
「実際に行動を起こしたのはあなた様ですわ」
「ぐっ!」
そう。
皇帝を弑逆し、皇子達をその手に掛けたのはフェルディナット自身だ。
「それにわたくしはあなた様に申し上げたはずですよ? 第一皇女アリシアは後の災いの根になると」
「だから、おまえにアリシアを引き渡せばよかったとでも言うのか!?」
元々、フェルディナットはアリシアを憎からず思っていた。
皇帝すら勝てない小さな我儘姫に甘々の叔父だった。
だから、『後世の禍根となる皇族は全て根絶やしにすべし』という声に逆らって、『我が妃に迎える』と宣言することでアリシアの命を守った。
側近の者達によって王国に亡命したと知った時、安堵すら覚えた。
そのアリシアが帝位を奪還すべく、抵抗勢力の旗手として立った。
どうすればよいのか揺れるフェルディナットだった。
フェルディナット自身、妃を迎えていない。
当然のことながら、皇太子も立てていない。
フェルディナットの中ではアリシアへの禅譲も選択肢のうちだったからだ。
そもそも、フェルディナットに簒奪の意思は無かった。
簒奪を唆したのはアデルハイドだった。
フェルディナットの愛妾アデルハイド・シュトルツェン男爵令嬢。
巧妙な簒奪計画とそのための準備の全てをアデルハイドが主導した。
(あの時は熱に浮かされていたのかもしれない)
フェルディナットはアデルハイドに操られるように皇帝を害した。
仲の良いはずの兄を。
「あなた様の悪いようには致しません。全てこのわたくしめに任せて頂ければ」
フェルディナットにしな垂れ掛りながら甘く囁くアデルハイド。
「好きなようにせよ。但し、アリシアは――――」
「もちろん、アリシア様にはあるべきところに収まって頂きますわ」
吐息が触れるほどの近さでそう呟いたアデルハイドが〖謁見の間〗を去って行った。
(アデルハイドはどうしてアリシアに拘るのだろう?)
フェルディナットはどうにも拭いきれない懸念から目を逸らすことができなかった。




