第三話 旦那様には精をつけてもらわないと いや、だから、昼の話ですよね!
朝餉は続く。
外では、あいかわらず、炎の龍のような魔物が結界に牙を立てている。
その光景より、今の祥吾は、食卓に置かれた「もの」の方に脅威を感じていた
(……これは何だ? 卵のようだが、なぜ七色なのだ?)
「旦那様、どうかなさいましたか?」
本日二回目のやりとりだ。
「こ、これは、卵焼き……だろうか?」
「そうでございます」
「では、なぜ黄色ではなく、七色なのだ」
「卵が七色だからでございます」
何故、当然のことを聞くのかというように、千草が聞き返してくる。
「卵が七色? そんなばかなことがあるか!」
思わずツッコミを入れると、千草がぴょんと跳ねた。
「あ、いや、すまぬ。千草に言ったのではない。この卵に言ったのだ」
慌ててとりつくろう祥吾。
「わたしも、最初見たときはびっくりいたしましたが、
ここでは、このようなものであろうと。
毒味はいたしましたので、大丈夫でございます」
「毒味!?」
その不穏な言葉に、軍人の視線で妻を見る
「はい、旦那様に食べていただくものは、すべて、毒味をしております」
「そのようなこと、千草が危ないではないか!」
「大丈夫でございます。私は、幼いときより経験しておりますので」
「幼いときから?」
「はい、父は動植物学者でして、幼い頃から一緒に全国の山野を渡り歩いておりました」
千草の父の話は、父や仲人より聞いてはいた。母親が幼いときに亡くなったことも。
だが、そんな話は聞いていなかった。
「その時に、やはりいろいろな、きのこや草花、木の実、その他得体の知れないものも
実際に食べて試しておりました」
「な、なんでそんなことを」
「父の教えです」
「いくら父上の教えといえど、命にかかわることではないか!」
千草の身に危害が及ぶと思うと、怒りで頭に血が上る。
「そうですわね。何度か死にかけたこともございました
父からは、味覚が痺れてからが勝負だと教わりましたわ」
ほおに手をやり、遠い目をする千草。祥吾は、その目に、なぜか心が揺れた。
「けれど、それがこうやって、旦那様の役に立っているのでございますから」
うれしそうに笑ってから、少し恥ずかしそうに言う
「だんなさまには、精をたっぷりつけていただかないと」
(いや待て、落ち着け俺……昼の話だ……昼の話のはずだ……!)
祥吾は、別の理由で頭に血が上った
結界の外では、炎の龍が「入れろ!」と言わんばかりに轟音を上げているが、
祥吾の耳にはもう届かない。
七色の卵焼きに、まさかの毒味。
千草がさらっと明かした「動植物学者の父と山野を歩いた過去」は、今後の過酷なサバイバル(?)において重要な伏線となります。
祥吾の「精をつける=夜の準備」という勘違いも、もはやお約束。
次の投稿は5月7日18時10分の予定です




