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塩対応の幼なじみ、実は俺の黒歴史配信の限界オタクでした  作者: 宮城マコ
第二部 復活のKanatoと専属マネージャー
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34/35

第34話 専属マネージャーの野望

 放課後。

 夕日が差し込む俺の部屋のベッドの上で、氷室雪乃が我が物顔でゴロゴロと転がっていた。


「……なぁ。お前、最近俺の部屋に入り浸りすぎじゃないか?」


 俺が呆れたように言うと、雪乃はクッションを抱きしめたまま、ゴロンとこちらを向いた。


「何よ。幼なじみで、しかも彼女なんだから、彼氏の部屋に遊びに来て何が悪いわけ?」

「悪くはないけど……お前の親とか、何も言わないのかよ」

「『あらあら、湊くんのところなら安心ねぇ。変な虫がつかないようにしっかり監視してきなさいな』って、母さん公認よ。おばさんもさっき『ゆっくりしていってね〜』って言ってたし」


 完全に外堀を埋められている。

 文化祭での『公開処刑&告白』を経て、晴れて恋人同士になって以来、雪乃は学校でも家でも、俺へのデレと独占欲を隠そうとしなくなった。

 氷の女王の面影は、俺に近づこうとする泥棒猫を威圧する時にしか発動されず、俺の前では完全に『限界オタク』の仮面が剥がれた彼女として君臨している。


「はぁ……。まあ、いいけどさ」


 俺はため息をつき、部屋の隅に立てかけられた愛用のストラトキャスターに目をやった。

 文化祭のステージで、俺の全力を引き出してくれた相棒。


「……陽向との約束も果たした、『Kanato』だって正体もバレちゃったしな……」


 俺はギターのネックをそっと撫でながら、ぽつりと呟いた。


「もう人前で弾くこともないだろうし、このギターも、そろそろ押し入れに……」


 バサッ!!

 俺が言い終わるか終わらないかのうちに、ベッドから猛烈な勢いで雪乃が跳ね起きた。


「……却下よ」

「えっ?」

「絶対、完全、問答無用で却下!!」


 雪乃はベッドから飛び降り、ものすごい剣幕で俺に詰め寄ってきた。


「私が大好きな神様の音を、世界から隠して押し入れに封印するなんて、人類にとって重大な損失よ! ギルティ! 万死に値するわ!」

「いや、人類って主語デカすぎだろ……俺はただの陰キャで……」

「それに!」


 雪乃は、俺のジャージの袖をキュッと掴んだ。

 そして、顔を赤らめながら、少しだけ上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。


「私のためだけに弾くって、あの時言ってくれたじゃない……。あれ、嘘だったの……?」


「うっ……」


 ――卑怯だ。

 普段は高飛車な女王が、ここぞというタイミングで繰り出す『上目遣い&袖引き』コンボ。

 こんなあざとすぎる攻撃、陰キャの俺に耐えられるわけがない。


「う、嘘じゃないけど……でも、もう人前で弾く機会なんてないだろ? 部活に入ってるわけでもないし……」

「――あるわよ。絶好の機会が」


 雪乃は、ニヤリと肉食獣のような笑みを浮かべた。


「……『Kanato』の配信活動、再開しましょ」

「はぁっ!?」


 俺は素っ頓狂な声を上げた。


「いやいやいや! 無理だろ! 自分で言うのもなんだけど、例の文化祭のせいで、今ネットでめっちゃ注目されてるんだぞ!? 今更ノコノコ出て行ったら、もっと騒ぎが大きくなるだろっ!」

「大丈夫よ」

「それに俺、コメントの対応とかできないし、それ以前に撮影とか編集はどうする――」

「だから、私が『専属マネージャー』になるのよ」


 雪乃は、自信満々にふんすと胸を張った。


「カメラの画角のセッティング。顔バレを防ぐための手元だけを映すアングルの調整。アカウントの管理から、荒らしコメントの監視とブロック、身バレ防止の徹底……全部、この私が完璧に取り仕切ってあげるわ」

「……お、お前が?」

「ええ。あんたはただ、この部屋で、私のために最高のギターを弾いてくれればいいの。あとの煩わしいことは全部、せいさ……ゴホン、マネージャーである私が責任を持つわ」


 一部、不穏な言葉が聞こえた気がするが、あまりにも完璧なプレゼンだった。

 そして、なにより可愛い彼女からの提案だ。

 雪乃がそこまでやってくれるなら、彼氏として無下に断ることもできない……と気持ちが傾きかけていたのである。


***


(――よーっし、計画通り!)


 私――氷室雪乃は、湊が「う~ん……」と頷きかけているのを見て、内心で盛大なガッツポーズを決めていた。

 私が湊の配信再開を猛プッシュしたのには、当然、裏の目的がある。


(湊が自室で弾く生音を、カメラの裏側で、一番近くで独り占めできる! 最高の音質で湊の息遣いやタコ指の動きを堪能できる!!)


 これは、限界オタクとして何物にも代えがたい特権だ。


 だが、それだけではない。

 『Kanato』が配信を再開すれば、間違いなく多くの新規リスナー……その中には、湊の音や手元に惹かれる女性ファン(メス猫)たちが大量に湧いてくるはずだ。


(ネットの有象無象の泥棒猫ども。あんたたちが画面越しにキャーキャー言っているその神様のすぐ側で、生音を浴びられるのはこの私だけなのよ!!)


 そう、これこそが最古参の限界オタクである証明であり、正妻にしか許されない、究極のマウント行為。ネットの視聴者たちに対して、『この神の隣にいるのは私よ』という圧倒的な優越感に浸りながら、合法的にオタ活を満喫する。


 これぞ、最強のオタ活&正妻マウントなのだ!


***


(……なんか、雪乃の目がギラギラしてて怖いんだけど)


 俺は、どこか遠くを見つめながら口元をニタァーと歪めている彼女を見て、一抹の不安を覚えた。

 だが、雪乃の「私のためだけに弾いて」という上目遣いと、俺のギターを誰よりも高く評価してくれているその想いに、逆らえるはずもなかった。


「……はぁ。わかったよ」


 俺は後頭部を掻きながら、小さくため息を吐いた。


「お前がそこまで言うなら。……少しだけ配信、やってみるか」

「本当っ!? やったぁぁっ!!」


 雪乃が歓喜の声を上げ、俺の首に思い切り飛びついてきた。


「うおっ、ちょ、危ないって!」

「さっそく準備するわよ! カメラの位置はここ! 背景に私物が映らないように角度調整して! あ、その前に湊のタコ指のコンディションを保水クリームで――」


 雪乃は、オタク特有の行動力をフル稼働させ、あっという間に俺の部屋を『配信用スタジオ』へと作り変えていく。


「……なあ雪乃」

「何?」

「炎上とか、しないよな?」

「するに決まってるでしょ♡」

「……は?」


 ネットの伝説ギタリスト『Kanato』と、最強の限界オタク兼・正妻マネージャー『氷室雪乃』。

 この二人がタッグを組んだ配信が、ネットの海にどれほどのバズと炎上を、そして甘すぎる騒動を巻き起こすことになるのか。


 この時の俺は、まるで知る由もなく、新たな戦い(配信)の日々が、今ここに幕を開けたのだった。

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