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王都遺品整理局タキウス・サイデルの憂鬱  作者: 高遠雪斎
第一部 嘘をつく遺品

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7/14

呪われたパンツは誰のものか

死者の遺品袋から出てきた下着は、どう見ても死者のものではなかった。

「どこが違うんですか」

受入係がまじめに尋ねる。

「まず、寸法だな」

「縮んだ可能性は?」

「そこまで縮んだら、布じゃなくて革紐になる」

タキウスは机に品を広げず、受領時の覆い布をかけたまま目録を見た。共同宿の遺品から、術式の残った衣類が一つ見つかった。死者は壮年の細身の男だが、衣類は明らかに寸法が違う。名前札もない。

厄介なのは、下着の縫い目に細い魔術糸が走っていることだった。収納先を覚えて、非常時に衣類を手元へ呼び戻す帰還術式の一種らしい。普通に扱えば大した危険はない。しかし印がまだ生きていて、誰かが不用意に触れれば、局の封緘袋ごと引っ張られるおそれがある。

「持ち主へ返す前に、まず止めます」

エレナが言った。

「術式が反応しても、この建物から勝手に飛んでは困りますから」

「持ち主に自分から帰ってくれるなら、むしろ助かるのに」

「誰の手を経由するか分かりません」

彼女は細い針状の器具を使って術式の末端を仮固定した。タキウスの前に置いた状態図には、縫い目の位置だけが示されている。

「触って調べるのはこれから。持ち主が見つかるまでは、品名も『帰還術式付き布衣』で」

「『パンツ』の方が分かりやすい」

「記録では?」

「……布衣で」

身元不明者の遺品袋が局へ来たのは、共同宿の寝具と荷物が混じったまま回収されたためだった。亡くなった男の所持品は本人の着替えと帳面でほぼ確定している。問題の布衣だけは、袋の収容時に誰の荷だったか分からなくなっていた。

共同宿の主人が持ってきた受渡帳には、洗濯物の数が記されていた。客ごとの衣類を小袋へ分け、業者が大きな包みで一度に運ぶ。戻ったときに、洗濯場の札を見て仕分ける。

「混じることがあるんですか」

「めったにありませんよ。うちは昔から札を替えません」

主人は威張っていたが、タキウスが札を見せると、さっと顔をそらした。

片面には共同宿の印。裏面には、うっすら別の印の跡がある。紐を通す穴は二つで、片方だけが毛羽立っていた。昔使った札を裏返し、穴を開け直したのだろう。

「替えたことはない?」

「札そのものは、替えておりません」

「使い道は替えた」

「細かい話を」

タキウスは笑いをこらえた。笑われるべきは、持ち主でも品物でもない。札の方だ。

同じ便に出した客の品を一つずつ比べると、布衣の持ち主らしい人物は二人いた。

受入係は遺品袋に付いた札を立て、札の表と裏を交互に読んだ。

「亡くなった人の部屋番号だと思ってました」

「表はそうだな。裏に残っている印は、別の部屋の古い番号だ」

「前の荷物の印を消さず、また使ったんですか」

「宿の主人に聞いてみよう」

札の穴の片方だけが毛羽立っている理由も、そのとき分かった。裏返すたびに新しい穴を開けたため、紐が引っかかり、片方の小包から札が抜けやすくなっていたのだ。小さな手間を惜しんだ結果、局の帳簿が何枚も増えた。一人は衣服に同じ赤糸を使い、もう一人は洗濯物の数が一つ少なく戻っている。

ところが赤糸は広く売られている。数の不足も、業者が補填した品によって解消済みと記されていた。どちらも決め手にならない。

タキウスが気にしたのは、縫い目の修理だった。左側の布を補強するため、青みのある灰色糸で三度ほど荒く縫ってある。仕立て屋の印でもなければ、上手な仕事でもない。

「こんな修理、誰でもするでしょう」

宿の主人が言う。

「誰でもする。だから縫い方ではなく、いつ直したかを調べたい」

下着を含んだ洗濯札の受領時刻は、宿の帳簿と合っていない。洗濯場へ運ぶ前、宿で持ち物を修繕していた客がいたことになる。

宿の炊事係が、話を聞いて片手を上げた。

「運送の手伝いをしてる人ですよ。二日前、糸を借りに来た。針が折れたからって」

「その人の服だと分かりますか」

「そこまでは。糸を一本ずつ抜いて、こぼれた小銭を拾ってたのは覚えてる」

炊事係は棚から糸の台紙を出した。灰色の糸が短く残っている。貸したとき、台紙の角が破れたという。修理をした人物は宿にまだいる。朝は荷運びに出るが、夕方戻る。

本人が帰る前に、タキウスは洗濯場の記録も見た。大きな受渡簿には共同宿の品のほか、同じ便に複数工房の作業衣があったと書かれている。洗濯物を細かい注文ごとに包み直す途中、別々の束が一度同じ台へ載せられた。

「台を拭いたら済んだのに」と洗濯場の女主人は言った。

「毎回拭いてますよ。粉がつく工房の品は別に置くんですが、その日は運送係が順番を変えて」

タキウスは下着の縫い代に、青い粉が一粒ほど付いているのを見つけた。彼は取ろうとせず、付着位置を状態図の余白へ描き込んだ。

「これは染料ですか」

「さあ。ここじゃ布の色落ちしか調べません」

洗濯場の主人は、あっさりそう言った。知らないことを知らないと言える人で助かった。

「それ、取った方がいいですか」

「いいえ。今はそのまま。布の持ち主を確かめる話と、粉の正体を調べる話は、別にしておきたい」

「粉が危ないと分かったら、うちの洗濯物を全部調べるんでしょうか」

「分かってから相談します。工房の作業衣を同じ便へ載せること自体が悪い、と決まったわけではありません」

洗濯場の主人は不安そうな顔のまま、受渡簿の該当する便へしおりを挟んだ。

夕方、灰色の糸を借りた荷運び人が戻った。日に焼けた腕の太い男で、帰還術式の説明を受けると大きくうなずいた。

「その布、俺のだ。宿の棚へ戻るように仕込んでもらったんだが、戻らなかったから諦めた」

「どういう場面で使うんです」

「仕事のあと、水浴び場に忘れたとき。着替えを全部持っていくのは大変でね」

男は宿の控え帳から、術式の設置を頼んだ仕立て屋の店名と注文日を示した。修理の件も覚えている。宿の炊事係が返した糸の端と補修箇所の色は一致する。ただ、それだけで本人の品と決めず、術式の収納先が宿のその男の棚になっていることをエレナが確認した。

「それで、なぜ死んだ方の袋に入ったんですか」

「俺が聞きたい」

洗濯場の受渡札を二つ並べると答えは簡単だった。同じ日に届けられた二つの小包の札が裏返しで使い回され、収容係が昔の印を読んだ。男の着替えが、故人の荷へ加わったのだ。

「間違って入れた者を叱りますか」と宿の主人が尋ねた。

「次から札を片面だけで使ってくれれば十分です」

エレナが帰還術式を安全な状態へ落とすと、男は品を受け取り、包みを脇へ抱えた。

「ほんとに、ご迷惑を」

「こっちも勉強になりました。死者の遺品を増やさない方法を」

「減らす方法じゃなくて?」

「両方だな」

宿の主人が、先ほどまでの威勢を失って肩を落としていた。エレナは受領控えに署名をもらい、札を新しいものに替えるよう念を押した。

机へ戻ったタキウスは遺品目録を訂正した。故人の荷から一件削除。正しい持ち主への返還一件。青い付着物は「由来未同定、共同洗濯便に複数工房の作業衣あり」とだけ書く。

「大げさに記録しますね」と受入係が言った。

「大げさに書いたつもりはない」

「布衣一つですよ」

「布衣一つを返すのに、何枚札が必要だったと思う?」

係は黙って数え始めた。タキウスはそれを待たず、紙の束を重ね直した。明日の洗濯日は忘れずに帳面へ書いておこうと思ったが、自分の下着を誰が洗うのかは、そもそも覚えていなかった。


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