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星色Tickets  作者: 風戸輝斗
第二章

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第6話 演劇サークル同好会結成!

 空が暮れなずむ十七時。

 藤沢に、すもも以外の役者を連れてこいと無理難題を出された約束の時刻。


「それで忸怩くん。その子があなたの運命の相手ってことでいいのかしら?」

「お前、わざと誤解させるような言い回ししてるだろ」

 舞台は、演劇部……の部室の裏手にある駐輪場。

 というのも、昨日は偶然オフだったから厚意で部室に招いてもらえたけれど、今日は活動日だから邪魔をするなと部長に釘を刺されたからで。


 通りすがりの生徒がこちらをチラチラと見ている。いい意味でも悪い意味でも有名人である藤沢が誰かと話している場面があまりに珍奇だからだろう。


「取り巻きの視線が煩わしいわね。不愉快だから蒸発してくれないかしら」

「横暴がすぎるって。あの藤沢瑠奈が誰かと関わってるって場面が希少だからみんな気になってるんだろうよ」

「そりゃ人間だから私だってお話くらいするわよ。まぁかなり選り好みするのも事実で、今のところ校内の九割九分九厘は家禽と大差ないけれど。……例外は忸怩くんだけなのよ?」

「ほぼ全滅じゃねぇか」

「チッ」

 藤沢さん、今、舌打ちしませんでした?


「ねぇ忸怩くん、イラっときたから息絶えて異世界転生してくれないかしら」

「俺どこで地雷踏んだ?」

 おかしいな、問題なくコミュニケーション取れてたよな?


「それで、如何にも家禽側に区分されそうな硬直してるあなたの名前は?」

 俺ではなく、俺のうしろに隠れて小鹿のように身体を震わせる少女に。


「え、えと……ひ、ひな、ひななっ、雛鳥、星……って言います」

「せい? 変わった名前ね。どう書くの?」

「お、おほしさまの星で……せい……です」

「へぇ、素敵な名前じゃない。もっとも立派すぎて名前負けしてるけれど」

 お前に温情はないのかよ……と思っていたら、藤沢は駐輪パイプに腰掛け、足を組み換えるというリロードを終えた後にさらなる砲火をはじめる。


「終始目を合わせない。声に張りがない。今だって、私が罵倒しているのにそれを甘んじて受け入れている。……ねぇ雛鳥さん、あなた本当に演技できるの?」

 まずい、と思ったときには既に遅く。

 こっぴどくこき下ろされた雛鳥は、俯いたままスカートの裾を強く握りしめている。


「おい藤沢。そこまで言う必要は……」

「忸怩くんは黙って。私は今、雛鳥さんに返答を求めているの。それで、どうなの? 演技、できるの?」


 できないはずがない。

 だって俺は、舞うように演技する雛鳥を昨夜この目で見ている。


 しかし、演技中と演技外の雛鳥はまるで別人だ。

 まるで鶏がひよこに戻るように、雛鳥本来のポテンシャルは見る影もなくなる。


「……伝え忘れてたけどさ、俺は既に雛鳥の演技を見てて」

「黙ってって言ったでしょ。次、許可なく口開いたら脚本の件は破談だから」

「……」


 朝令暮改なんて藤沢らしくないが、そう言われた以上、俺は無言に徹するしかない。


 くそ、誰でもいいんじゃなかったのかよ……

 しかし、藤沢が不安になる気持ちもわかる。ほんとに雛鳥に演技なんてできるのかって、今の委縮した姿を見れば誰もが疑うことだろう。


 十秒。三〇秒――。

 予期した通り、続くのは重苦しい沈黙。

 俯いて黙り込んだままの雛鳥を見るに堪えず、口を開こうとしたそのとき。


「……決めたんです」


 ひとつの声が静寂を切り裂いた。

 その声は、蚊の鳴くような弱々しい声ではなくて。


「輝くって。星って名前に劣らないくらい輝くんだって」

 覚悟と意志が強く感じられる芯の通った声で。


「約束したんです。せんぱいといっしょに夢を叶えにいくって……!」

 気弱なんてどの口が言うんだよって、呆れてしまうくらいに立派な姿で。


「だから藤沢せんぱい。わたしはこんなところで立ち止まれないんです」

 藤沢の鋭い眼光に臆することなく輝かしい瞳を向けるその姿は、昨夜のたくましく輝かしく、そして一番星にも負けないくらいに眩しい少女の姿を彷彿とさせる。


「普段のわたしは頼りないけど……でも、演劇なら話は別。わたし、誰にも負けませんから」

「雛鳥、お前……」


 早くも瓦解の危機に瀕した演劇サークル部(仮)だが、どうやら女優の奮闘によってその危機は免れた……はずだけどどうだろう。


 藤沢は、まんじりともせず雛鳥を射抜くように見つめている。

 やがてふっと相好を崩し、俺に視線を流してきた。


「脚本、引き受けてあげる」

「ほんとうか!?」

「えぇ。あなたのために脚本を書くし、あなたのために演劇サークル同好会に入部してあげる。……遅いのよ。こっちはずっと前から準備してたのに」

「ありがとう藤沢!」

 募る興奮を抑えきれず、俺は藤沢の繊細な手を両手で包み込んだ。


「ふぇ?」

 と、いつもの凛とした声が嘘のような可愛らしい声を漏らした藤沢は、か~っと顔を赤らめ俺の脛を思い切り蹴ってきた。

 俺、悶絶。


「な、なによ急に! 心臓止まるかと思ったじゃないのばかっ!」

「いっつ~……俺、なんか悪いことした?」

「いえ悪いことじゃないしむしろ私としては嬉しい誤算だったけれどその急なことだったから感情の処理が追いつかなくて……あぁもうっ! 忸怩くんっ、次、気安く私に触れたら死刑だから! いいわね!?」

 なにやら早口でボソボソ言っていた藤沢は、無理やり話を帰結させビシッと指を突き立てる。


「はい、気をつけます……」

 どうやら小波やすももが当然のようにボディタッチを許してくれるから感覚が麻痺してしまっていたようだ。

 藤沢がご立腹になるのは妥当だと思い、俺はぺこりぺこりと頭を下げつづける。


「ぷふっ」

 と吹き出したのは、そんな部長と新入り脚本家のやりとりを遠巻きに見ていた新入りの役者。


「せんぱいたちは仲良しなんですね」

「「どこが?」」

 あ、ハモった。

 なんとなく嬉しくなって藤沢に目をやれば、整った顔立ちがすぐ目の前にあった。ふとすれば鼻先と鼻先が触れ合う距離だ。


「~~っ! 死ねっ!」

「いっつ! ……理不尽だよぅ」

 ふたたび脛を蹴られて涙目になる俺を見て、雛鳥は楽しそうに肩を揺らしている。


 雛鳥星。演劇サークル同好会の適正Sランク。

 藤沢瑠奈。頂点だからそもそも査定の必要なし。


 痛みに悶えつつ、俺はふたりがこの先うまくやっていけそうなことに安堵していた。すももは誰とでも仲良くなれるから問題ないだろうし。

 ……問題ないよな? 信じてるぞすもも。



☆  ★  ☆



 そして、若干の懸念を抱きつつ迎えた、演劇サークル同好会部室での三人の顔合わせは……


「青海すももです。きーくんのお隣さんです。よろしくお願いします」

「お、お隣さん? それって教室で席が隣ってことですか?」

「いやいや、そんな偶然マンガでしか起こりえないよ~。家がお隣さんで物心ついた頃から幼なじみってだけだよ~」

「そちらの方が非現実的だと思うのだけど。……チッ、羨ましい」

 あ、よくわかんないけど藤沢さんが不機嫌になってる。

 やっぱり藤沢、何故かすももを嫌ってるんじゃ……


「時に女優ちゃんや、名はなんというのかね?」

「あ、はい。えとえと、ひ、雛鳥……です。下の名前はおほしさまの星で『星』です。よろしくお願いします。青海せんぱい」

「先輩……ああ、なんて甘美な響き。まさか、きーくんがこんなマトモちゃんを連れくるなんてなぁ。モモさん以外、全員変人サークルになるんじゃないかって懸念してたぜ」

「どの口が言うのよ」「どの口が言うんだ」

 あ、ハモった。

 なんとなく嬉しくなって(以下略)。

 十分前の焼き直しで悶絶する俺がいましたとさ。


 さすが人付き合い巧者のすももさん。今のはもちろん藤沢とアイスブレイクするための冗談だよな? そうだよな? お前も立派に変人だぞ?


「あのその、わ、わたしは、青海せんぱいが一番変わってるんじゃないかって思いましゅ。……思います」

「おいおいこの後輩可愛すぎんだろ。好き(きーくんの胸の内)」

「(すももの胸の内)の間違いだろ。あと藤沢さん殺気立たないで?」

「案外、青海さんの指摘は当たらずとも遠からずだと思うのよね私」

 まぁ好きか嫌いかで言えばそりゃ好きだけどさ……

 というか、ここに招いている時点で全員そっち側に決まってるだろ。


「ともあれ雛ちゃんや、冗談はおよしなさいな。藤ちゃんは学校きっての変態で、きーくんは学校きってのヘタレくんだよ? モモさんなんか足元に及ばないって」

「すもも、今の発言は地雷だぞ」

「へ?」

「聞き捨てならないわね青海さん。私が、どのように変態なのか、懇切丁寧に説明してくれる?」

 おもむろに立ち上がり、腕を組んで藤沢がすももに押し迫る。


 余談だけど、腕を組むという行為は相手を警戒、または拒絶していることを意味している。

 もしやこのふたりは水が合わないんじゃと懸念していたけど、やっぱりそうなのかなぁ。


「あ、あー、あぁ~……ひ、雛ちゃんもそう思うよね?」

 マジかよ、こいつ後輩を道連れにしようとしてやがるぞ。


「へ? ……ま、まぁ……うん、風変わりな人だな、とは思います」

「はぁ、ほんとみんな私をなんだと思ってるんだか」

 藤沢はやれやれとばかりに肩をすくめ、キリっとした瞳で毅然と言い放った。


「せっかく無駄に豊富な性知識をひけらかす好機が訪れたと思ったのに」

「そっちかよ!?」

 変人を否定しないで肯定する方かよ!?

 まぁ、昨日もむっつりだって指摘したら肯定してたからなぁ。


「ほ、逆鱗に触れたわけじゃなかったか。……てか藤ちゃんってこんな話しやすい子だったんだね。あのねあのねっ、わたし藤ちゃんネット連載してる小説一話から欠かさず読んでるよ!」

「へぇ。……作品のタイトルと主人公の名前は?」

「タイトルは『青と恋情』。主人公の名前は楠本将司くすもとまさし

「よろしく青海さん」

 ドヤ顔をするすももと、涼しい顔をする藤沢が固い握手を交わす。


 おぉ! さすがすもも! 

 お前ならやれるって、俺ははじめから信じてたぜ!

 ……いやほんとうに。疑った瞬間とか一瞬だってないから。


「ふ……藤沢せんぱいは、小説家さん、なんですか?」

「えぇそうよ。私は文才に愛されてかつ人格も優れた才女なのよ、ポコ鳥さん」

「ぽ、ポコ鳥?」

 雛鳥が豆鉄砲を食らったみたいに目を丸くしている。


「いや実際そうだけど自分で言うかそれを。まぁ藤ちゃんらしくてモモさんは好きだけどね、その高慢な姿勢」

「カキヨムってサイトで去年から連載してるの。良かったら読んでみて頂戴」

「あ、はい。……あの、ポコ鳥ってなんですか?」

「あなたのあだ名よ。雛鳥なんて名前は贅沢すぎるからポンコツの鳥、略してポコ鳥よ」

 こいつ、さては湯婆婆なのか? 

 俺も恭司は贅沢すぎるから忸怩くんなのか?


「ポコ鳥……」

 そうボソッとつぶやく雛鳥は、それはもう見るに堪えない痛ましい顔つきをしていて……


「出来損ないのわたしにぴったりなあだ名をありがとうございます。すごくうれしいです」

「目が死んでるよ? 言葉と表情が完全不一致だよ?」

「ふふ、雛鳥さんはほんとうにからかい甲斐がある子ね。安心なさいな。虐めるのは忸怩くんだけだから」

「俺も虐めないでよ?」

 余談だけど、藤沢が誰かをあだ名で呼ぶのはめちゃくちゃレアだ。というか、忸怩くん以外知らない。


 だからまぁ、雛鳥の瞳からハイライトが消えてこそいるが藤沢は彼女を好いているのだろう。

 すももとも実は波長が合いそうだし、なんだかんだでこの四人でうまくやっていけそうだな。


 こうして演劇サークル同好会は、明日部申請用紙をもらってみんなに名前を書いてもらえば、演劇サークル部に昇格できる状態となった。

 顧問以外にも生徒指導とか生徒会長にも承認判子をもらわなくちゃいけないけど、ここは特に問題なく突破できるだろう。


 夢のスタートラインはすぐ目の前に迫っている。

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