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星色Tickets  作者: 風戸輝斗
第五章

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35/38

第35話 藤沢瑠奈

 クレイシアが単独で活躍するパートは短く、やがてステージ中央を照らしていた照明が舞台袖の方に動き、最後の登場人物に焦点が当てられる。


「クレイシア? 今日は目覚めの日だというのに、憂鬱な顔してどうしたんだい?」


 照明に釣られるように観衆は視線を動かし、そして多少なりとも驚いたと思う。


「シュピレシアさま……いえ、なんでもないのです」

「そう? ならいいけど」


 だってそこに立つのは腰付近まで艶やかな黒髪を垂らした女性で。

 なのに彼女はまるで女性に見えず、男性にしか見えないのだから。


「クレイシア。謁見がまだ済んでいないだろう? 早く起床報告に行きなさい」


 口調が、一挙手一投足が、男性そのもので。

 だけど、演じているのが女性であることは明白で。


 そんなからくりに観衆は目を疑い、そしてますます物語の世界に引き込まれていく……




『ねぇ恭司。私やっぱり、クレイシアがいい』

『ダメだ。シュピレシアは瑠奈以外にありえない』

『どうして? やっぱりふたりの方が好みの体格をしてるから?』

『監督が役者をそんな目で見るわけないだろ。というかその視点で見るなら……』

『見るなら?』

『……いやなんでもない。純粋に瑠奈が適任だからだよ』

『そう? アリシア役が雛鳥さんに好適ってことはわかるけど、私と青海さんは、どっちがどっちでもいいんじゃない? それに、クレイシアの方が台詞変更も多いし』

『いいや、すももじゃシュピレシアになりきれない。なりきれないっていうか、瑠奈が演じるからこそ客の目を惹くことができるんだよ』

『なるほど。衆人環視のなかで脱げと。それはちょっと抵抗あるかも』

『そんな非道な手段は使わないよ……、ウィッグなしでいけると思うんだ』

『長髪を靡かせながら、シュピレシアを演じろっていうの?』

『うん。間違いなく男性キャラクターなのに、演じてるのはどう見ても女の子ってギャップで、注目を掻き立てるんだ。瑠奈はこの面子でいちばん男っ気が強いからな』

『それ褒めてる?』

『褒めてるに決まってるだろ。それだけ頼りになるんだよ、瑠奈はさ』

『……はぁ、仕方ない。せっかく色情を催せそうな衣装を設定したのにさ……』

『瑠奈?』

『恭司、今度海行きましょ。はい、言質取ったから』

『なにも言ってないんだが? でも海か。……そうだな、終わったら気晴らしにみんなで行こうか』

『誰もみんなでなんて言ってないのに……』




 といっても、からくりは永遠には続かない。

 ここからは実力勝負。

 三人の演技力と、物語と、そして演出の戦い。


「ねぇクレイシア、なにか隠してるんじゃないか?」

「……」

「夏に太陽めがけて咲く向日葵の如く、君のふりまく笑顔は華やかで、魅力的で、ところがどうだ、最近はまるで花壇が田園と化したかのように、一輪の笑顔さえも見せない」

「シュピレシアさま……」

「いつも献身的な君のことだ、きっとぼくの知らないことを知っているのだろう。さぁ、わだかまりを打ち明けたまえ。どんな過失も、ぼくは許そう」

「……その、アリシ……春の精のことなのですが……」

「春の精? クレイシア、今は夏だよ?」


 そして物語は第四幕に差し掛かる。

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