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星色Tickets  作者: 風戸輝斗
第五章

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第30話 その夢はようやく現実に

「えっと、A7、A7……」

「こんにちは。岸本小波ちゃん……で合ってるかな?」


「あっ、こ、こんにちはっ! はい、岸本小波です! ということは……うわぁ~お兄ちゃんから聞いてたけど、思ってた以上に綺麗な人だなぁ……」

「ふふ、思ったことがすぐ口に出ちゃうのはお兄ちゃん譲りかな?」


「っ! す、すいません! つい見惚れちゃって……! えぇと、千代崎アリス先生、でいいですよね?」

「はい、千代崎アリス先生です。アリスちゃんって呼んでくれてもいいよ」

「いやぁ、それはちょっと馴れ馴れしすぎるのでアリス先生で」

「はは、そう気を使わなくていいのに。……ところで小波ちゃん、座らないの?」


「その、ここって来賓の人とかが並ぶ席ですよね? 改めて考えてみたら、わたしなんかが末席を汚すような真似していいのかなって思っちゃって……」

「末席を汚すって、中学三年生なのによくそんな難しい言葉知ってるね。……これは内緒なんだけどね、この席は恭司くんが主催の人に頭を下げて用意してもらった席なんだよ」


「そんな気はしてたけど、お兄ちゃん、またわたしのために無理して……」

「小波ちゃんが落ち込んでいたら、恭司くんの苦労が報われないよ? それに、恭司くんだけじゃない。青海さんも藤沢さんも雛鳥さんも、みんなみんな、小波ちゃんを思って最高の演劇を作り上げた。私は昨日、既にリハーサルで観てるんだけど……いやぁすごかったなぁ。あれならきっと、小波ちゃんもこころを打たれるはずだよ」


「……涙を流せるかな、わたし。お兄ちゃんのためにがんばらないと……」

「気張らなくても大丈夫だよ。だってあの子たちは、これから小波ちゃんのために演技するんだから」

「わたしのため……」

「うん。役者が観客のために演技するのは当然のことでしょ?」



☆  ★  ☆



 舞い落ちる桜の花びらを部室からぼんやりと眺めていた放課後。

 まるで昨日のことのように思い出せる寂寞たる日々だけど、この瞳の裏に映る景色は三か月以上も前のもの。


 あの頃は、夢を抱き、周囲に熱烈に夢を語りながらも、胸のどこかで疑っていた。

 俺についてくる奴なんていないんじゃないかって。


「お待たせしました。すいません、時間を掛けてしまって」

 自信満々で向こう見ずに突っ走りながらも、俺は不安に駆られていた。


「いいや、全然早いよ。米山さんがいなきゃ、間違いなく着付けにもっと時間かかってた。ありがとう、夏休みの貴重な時間を割いてまで手伝ってくれて」

「とんでもありません。むしろこの場に呼んでいただけたことを感謝したいです。努力を怠らなかった岸本さんの青春劇がどんな結末を迎えるのか。非常に興味深いです」

「はは、それは三人の女優次第かな」

 だから、舞台衣装に着替えた三人の姿を見てほんのり涙ぐんでしまう。


 あぁ、ほんとにここまできたんだなって。


「……しくじったなぁ。シュピレシア役は青海さんにでも押し付ければよかった」

 作中、唯一の男であるシュピレシアを演じる瑠奈は、糊の効いたタキシードを着ていて、今の彼女は俺なんかよりよっぽど男らしく見える。

 ここに演技が加われば、誰もが彼女を男と見間違えることだろう。


「ひーん。肩からうなじまで全開だよぉ~。これはちょっと恥ずかしいなぁ……」

 シュピレシアに好意を抱く夏の精、クレイシアを演じるすももは、顔を赤らめながら自分の身体を抱き締めている。

 その体勢を取っても、背中に変化は訪れないんだよなぁ……


 レースとフリルがふんだんにあしらわれた空色のドレスは、まさに俺が理想としていたもの。ここまで完璧に要望に沿ってドレスを仕上げた米山さんと家庭部の技量には脱帽してしまう。


 ちなみに肩からうなじまで大きく開けるようにしてほしいと頼んできたのは脚本家で、そこにどんな意図があるのかは最後まで教えてくれなかった。

 天才の考えることは、凡人にはわからんのですよ。


「うわぁ……すごい、すごいすごいっ!」

 きゃっきゃっと騒ぎながらくるくる回る雛鳥は、まさしくアリシアそのもの。

 雛鳥にあてがわれた桃色のドレスは、すももが着ているものと構造がほとんど変わらないが、さすがというべきか、露出云々などと言うことなく衣装の完成度に興奮している。


「どうでしょう? どれも私たち家庭部の自信作ですが」

「あぁ、最高だよ米山さん。みんな最高に似合ってる」


 たった三人。

 けれども、これで総キャスト。


 三人で物語を完結させたいっていう脚本家の大言壮語にも思える初志は、結局最後まで揺らぐことなく、最高の物語を紡ぎ終えてしまった。


 だからこれが俺たちのベスト。

 他の演劇部に比べて圧倒的に人数が少なく、練習量が少なく、そんな少ない尽くしの俺たちだけど、この二週間だけは誰よりも血反吐を吐いたって自負してる。


「すもも、瑠奈、雛鳥。絶対勝とうな、俺たち。俺たちなら、優勝も夢じゃないっ!」

「「「……」」」

「……え、みんな反応薄くない? 勝つ気満々なのって俺だけ?」


「なわけないでしょ、私たちも優勝しか見えていないわよ。そんな今更な激励よりも、衣装を見て恭司がどう思ったか感想を伝える方が、断然効果があると思うのだけれど」

「? まぁいいけど」

 瑠奈の助言に従って、三人の衣装を見ての率直な感想を告げると、すももと雛鳥は照れて、瑠奈はむくれた。


 なんで発案者の反応がイマイチなんだよ……

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