表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星色Tickets  作者: 風戸輝斗
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/38

第27話 忸怩ちゃんは決意する

「この場面のいい回しなんだけど、語呂が悪いように感じるのよね。恭司はどう思う?」

「……んぅ」

「ふふ、なぁに寝てるのよ監督さん」

 舟を漕ぐ彼の頬に指先を当てても、彼はこくこくと首を上下に振るばかり。


「……」

 弱虫な私がここぞとばかりに舞い上がって背中を押してくる。

 今が彼の〝はじめて〟を奪うチャンスだぞって。


「……うたた寝しちゃうあなたが悪いんだから」

 免罪符は得た。

 そっと彼の頬を撫で、私は少しずつ顔を近づけていく。


〝コンコン〟


 大丈夫、彼は眠っている。

 ここで私がキスしても、その事実は決して第三者に明るみにならない。


「恭司、入るぞ」

 あと十センチだ。

 残り十センチを埋める勇気を振り絞れば、私は彼の〝はじめて〟になれる。


「……好きよ恭司」

「え?」

「っ!?」

 すぐ後ろから聞こえた動揺の声に、私は光に劣らぬ速さで振り返る。

 そこにいるのは、どこか私の恋する男の子の面影があるラフな服装をした男性だった。


「ご、ごめん、邪魔するつもりはなかったんだ。……えと、僕は気にせず続きをどうぞ」

「できるわけないじゃないの……。もしかして恭司くんのお父様ですか?」

「はい、恭司の父です。そう訊ねてくる君は恭司の彼女さんかな?」

「まだお友達です」


「あ、そうなの? でも今、キスしようとしてたよね?」

「見なかったことにしてください」

「……あ~、なんとなく状況は察した。オーケー、僕はなにも見なかった。だからそんな怖い顔しないでよ」

 眉根を寄せ、降参だとでも言うように両手を上げている。


 恭司に似て優しそうな雰囲気をまとった人だった。

 だから、恭司が忌み嫌っている娘を捨てた父親とはとても思えなかった。


「じゃ僕は帰るね」

「え、もう帰るんですか?」

「うん、僕は恭司にひどく嫌われているからね。息子の無事さえ確認できれば充分さ」

 颯爽と身を翻して去ろうとする。

 私は背中を追いかけて手首をつかんだ。


「良ければ教えてくれませんか? どうして娘さんに酷い言葉を吐き捨て、家族の元を去ったのか」

「……話してどうなる」

「私が架け橋になります」

 恭司は超がつくほどの頑固で、それが良い方向に働くこともあれば、悪い方向に働くこともある。今回の件に関しては後者の可能性があるように思えた。


 恭司は言っていた。演劇に関わったみんなを幸せにしたい、と。

 彼の中で、その〝みんな〟から父親は除外されていた。私もそれは仕方がないことだと諦めていた。


 だけど今、息子を想うあたたかな父親の顔を見て考えが変わった。

 私はこの人も〝みんな〟の中のひとりにしたい。

 お父様はふっと顔をほころばせた。


「さすが僕の自慢の息子だ。素敵な子を友人にしているじゃないか」

「小波ちゃんは自慢の娘ではないんですか?」

「いいや、小波も自慢の娘だよ」


「では、どうして酷い言葉を吐き捨てたんですか?」

「理由なんてないさ。ただ、思っていた言葉がポロっと口から転げ出ただけなんだ」

 寂しげに笑う顔を見て私はしみじみ思った。


「ずっと後悔してる。あの時、どうしてその言葉で小波が傷つくってことに気づけなかったんだって。僕って奴は最低だからさ、愛してる息子にも娘にも嫌われて当然なんだよ」

 この人は恭司の父親だって。


「ひとつ聞かせてください」

「なんだい?」

「お父様が理想とする幸せな未来はなんですか?」


「そんなの決まってる。恭司と小波と和解して、もう一度、父親と認めてもらうことだ」

「ま、そりゃそうよね」

 ふっと笑み、私はお父様に手を伸ばした。


「あなたのその理想、演劇サークル部脚本家の藤沢瑠奈が現実にしてみせましょう」

 部長のオーダーを実現するために全力を尽くすのは部員として当然のことだからね。

 それに、ここで恭司とお父様を和解させることが成功したら、私の株が急上昇してライバルたちから大きくリードすること間違いなしだし。

 ……実はこれが大本命ということは秘密の方向で。


「現実にするって、どうやって? 恭司はここ四年、僕からの電話に出てすらくれないんだよ?」

「そこは私が洗脳してなんとかします。家族は大事だ、ってね」

 恭司は影響されやすく、おまけに私の作品をこよなく愛してくれている。


 演劇コンクール当日までに短編を仕上げ、彼に目を通してもらって、父親に復讐するという目的を、父親と和解するという目的に変化させる。

 恋という難敵には手こずってばかりの私だけれど、慣れ親しんだこの土俵でなら、必ず成功できる自信があった。


 演劇コンクールの地区予選で優勝し、小波ちゃんの瞳から涙をこぼさせ、長年嫌っていた父親とも和解する。

 幸せの三点セットを彼に贈ってみせると、私は固く誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ