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星色Tickets  作者: 風戸輝斗
第四章

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第26話 幼なじみは知っている

「――ってわけなんだけど、ふたりとも、また手を貸してくれないかな?」


「手を貸すもなにも、俺は、恭司と縁を切ったつもりはねぇよ。あいつは唯一の美少女ゲームに理解のある健全な男子高生だからな。久松、青海さんに音源渡してやってくれ」

「はいはーい。やっぱり恭ちゃんのあれは一時の気の迷いだったんだね。どうやら賭けは俺の勝ちみたいだ。ね、門ちん?」


「は? 俺もそっちに賭けてたけど?」

「いやなに言ってんの。恭ちゃんが諦めて残念だーって言ってたじゃん」

「やんのか、てめぇこら」

「上等じゃん。そろそろ白黒はっきりつけようよ」

「喧嘩はやめようよ……」

 そんなこんなで、一度はきーくんが軽音楽部に返した音源を取り戻して。


「ひーん。まだこんなにぃ~」

 家庭部に軽音楽部。これだけ回れば十分かと思いきや、吹奏楽部に演劇部に職員室に生徒会室に……


 きーくん、裏でこんなにがんばってたんだ。すごいなぁ……


「次は……吹奏楽部かなぁ」

 こうしてきーくんのしてきたことをなぞってみると、彼のバイタリティが如何に桁外れなのかがわかってくる。

 これに加えて周六でバイトまでしてたんだもん。そりゃ倒れるって。


 学業を捨てて。自由に過ごせる時間を削りに削って。

 それでもきーくんは、一切泣き言を吐かず、小波ちゃんのためにがんばってきた。

 度がすぎるシスコン野郎と言ってしまえばそれまでだけど、妹が好きだからって理由でここまでできる馬鹿はきーくんの他にいないだろう。


 それに、きーくんは元来、傷ついた誰かを前にして助けずにはいられない性分なのだ。

 雛ちゃんの気弱な欠点を克服しようと努め、わたしはよくわかんないけど、きっと藤ちゃんにもなにかしらの弱点があって、その弱さにきーくんは寄り添っているのだろう。


 そういう人間なんだ、わたしの知る岸本恭司って自慢の幼なじみは。


 ふたりだけじゃない。

 きーくんは校内で困っているたくさんの人を救ってきた。

 だから、信望が厚いのだ。きーくんは無自覚に助けるから。

 そうやって生まれた繋がりが、こうして時間差で彼を救っている。


 誰かのために。

 その行動原理が根底にあることに、きーくんは気づいていないのだろう。


 とはいってもだ。頑張りすぎたらいつかきーくんが壊れてしまうと思ったから、わたしは彼の抑止力となることにした。

 やりすぎな努力に制限をかけるために。

 いつも全力疾走で危険な彼の補助輪になるために。

 ……そう自認していながら、今回はきーくんが精神的に限界だってことに全然気づけなかったんだけどさ。


 幼なじみって関係は、基本的には有効に働いてくれて、だけどた~まにちょっぴり不便だ。


「ありがとうございました」

「お礼を言うのはこっちの方だよ。風高の吹部なんて知名度がほとんどないからさ。すごい演劇してぱーと知名度広めてきてよ」

「はい! まっかせてくださいな!」

 それに、一生懸命なきーくんについていくのは楽しくてストレスにならないんだ。


 だってさ、まったくの0から部を立ち上げたんだよ? 

 そんなこと、わたしにはとてもじゃないけどできないなぁ。


 わたしは、きーくんががんばる姿を誰よりも近くで見てきたから。

 だから、いつからか思ってたんだ。

 きーくんの夢を絶対に叶えたいって。


「うん、わかった。ここだけの話、恭司くんが演劇コンクールを辞退するって話はすぐに無くなるだろうなって思ってたから、辞退したふりをしてたんだ」

「よかったぁ。……いや良くないか。アリス先生、ほんとうにご迷惑をお掛けしました」

「いいよいいよ、きっとなにかあってのことだろうし。恭司くんは頑張り屋さんだけど、全然自分を褒めてあげないし、つらくても抱え込んじゃう悪い癖があるから、〝彼女〟の青海さんが寄り添ってあげてね?」


「はい。褒めまくりますし、お悩み共有しまくります。彼女ではないですけどね」

「あれ、そうなの? てっきりふたりは付き合ってるんだとばかり思ってた」

「付き合ってないですよ。……ご近所付き合いは今年で十七年目なんですけどねぇ」

 叶えてあげたい、ではなく、叶えたいって思ってしまうのがおもしろいところで。


 叶えることではなく、きーくんと一緒に夢を叶えるってことに誰もが意味を見出してる。

 自分にはなにもない、情熱しかないって本人は卑屈なことを言ってるけど、とんでもない。

 きーくんには人を惹きつける天性のカリスマ性がある。


 ……カリスマ性っていうよりも人間性なのかな? 

一生懸命な人を見ると、人は本能的にその人を応援したくなるから、そういう判官贔屓的スピリットが働いてるのかもだけど……まぁなんだっていっか。


 とにかく、きーくんは魅力的なんだ。

 だから、みんなついていく。

 きーくんの情熱にほだされて、気づけば同じ目標を、同じ熱量で、志してしまっている。


「みっちゃん先生、話があります」

「ん、どした青海っち?」

「来週からなんですが――」

 きーくんと同じ夢を志しているのならば、きっと四人の想いはひとつのはず。

 わたしは、夢が実現する確率を少しでも上げるために、きーくんみたいな馬鹿をする。


「……なるほどなぁ。うわぁ、クッソ怠いけどジョージの長年の目標のためだもんなぁ。……っし、わかった、うちがなんとかする」

「ありがとうございます」

「それで、演劇サークル部ってジョージと青海っち以外に誰がいたっけ?」


「二年A組の藤沢瑠奈さんと一年C組の雛鳥星さんです。那須あげはさんは……演劇部の方で忙しいのでこの件から除外して大丈夫です」

「ほ~い。……いや待て。男一の女三? え、これ大丈夫なの?」

「平気ですよ。きーくん、わたしたちのこと異性として認識してないんで」

「そ、そっか。……なんかごめんね? その笑ってるけど目が死んでるのやめて。めちゃこわくて泣いちゃいそう」

 アリス先生とみっちゃん先生と話をして。


「ふむ。了解した。私の手が必要になったらいつでも呼んでね」

「ありがとうございます、咲崎会長」

 咲崎会長とも話をして。


 これですべてのクエスト達成だ。

 校舎から出て、う~んと背中を伸ばすと、空は茜色に染まっていた。


 吹奏楽部の奏でる音色。運動部の掛け声。

 青春の音色に耳を傾けながら、わたしはそっと目を閉じ、大切なカチューシャを撫でる。


「髪を伸ばしたいから、だったかな。ほんと、なんでそんなでたらめを信じちゃうかなぁきーくんは」


 形式上は小波ちゃんからの誕生日プレゼント。

 正式には〝きーくんと小波ちゃんのお小遣いを合わせて買った〟誕生日プレゼント。


「大切な人がくれたものだから、わたしは肌身離さず大切にしてるんだよ?」


 あの日のことは今でもよく覚えている。

 きーくんはプレゼントを用意できなくてごめんって、何度も土下座していた。

 ……今と変わんないなぁ。きーくんはいっつも、誰かのために土下座してばっかり。


 小波がプレゼント代の入った財布落としちゃってさ、それで俺と小波、合わせてひとつのプレゼントになっちゃったけどいいかな? 

 ……って、素直に言えばいいのに。


「ほんと、きーくんはいつも優しすぎるんだよ」

 自分勝手に押しつけるのは良くないって言うけどさ、ちょっとくらい見返りを求めたっていいんだよ?

 なにがあっても、わたしは最後まできーくんの味方でいるよ?


 きーくんが頑張ってきたことも、ものすごくお人好しだってことも、わたしは知ってる。

 幼なじみとして誰よりも近くにいたから、わたしは彼の事ならぜんぶ知ってるんだ。 


「そんなきーくんのことが、わたしはずっとずっと大好きだよ」


 それが〝ひとりの男の子として〟大好きだってことに彼はずっと気づいてくれないけどね。

 そのくせ『俺はすもものことならなんでも知ってるぜ?(キリッ)』ムーブをかましてくるんだから、ほんとなんだかなぁ~って感じだよね。


 ……こういうのは、男の子の方から女の子にアプローチするものだとモモさんは思うのです。

 決してモモさんが日和ってるわけではないので、そのへんはしっかりとご理解ください。

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