第21話 つかめない満天の星
「恭くん、顔色悪いけど体調大丈夫?」
「大丈夫ですよ店長。俺、小三の頃にインフルに罹って以降、風邪引いたことないんです。馬鹿は風邪引かないってのはよく言ったもんですよね」
「ならいいんだけど……最近どうしたの? 演劇、興味なくしちゃった?」
「あぁ、いやその……間期って言いますか、ほら、たまには脳を休ませないと」
「なるほど。無理しちゃダメだからね? ウチはホワイト労働がウリだから」
「はは、他の店にも店長の志しを見習ってもらいたいもんです」
店長との雑談を終えたところで、本棚整理の作業に取り掛かる。
演劇サークル部が瓦解してからはや三日。
隣に住んでるすももはともかく、藤沢や雛鳥とは顔を合わせていなかった。
たった三日会えていないだけなのにこうも不安が込みあげるのは、ふたりと過ごすのがあたりまえになっていたからだろう。
藤沢は、また以前のように孤高の鬼才を演じられているだろうか。
雛鳥は、おどおどせずに逞しく過ごせているだろうか。
俺のことを忘れて、ふたりは以前までの生活に戻れているだろうか。
……なんて、どれだけふたりに固執してるんだ俺は。
「叶えたかったな、夢」
最強の陣営だった。
藤沢の脚本、雛鳥の演劇。それだけでも十分なのに、すももが素人とは思えないほどに技術を磨いてくれて、あげはちゃんのバックアップがあって、音響はネットでも知名度のある門田と編集の才に恵まれた久松が担当してくれて、衣装も米山さんをはじめとする家庭部が手を貸してくれて……
改めてこうやって羅列すると、0からよく頑張ったよな俺。
毎日毎日、バイトしてさ。
人脈を広げるために、先輩後輩問わず、声を掛けまくってさ。
「……はは、ははは」
頑張ったんだけどなぁ。
本気、だったんだけどなぁ……
けど、いつかあげはちゃんが言っていた通り、情熱だけでは夢が叶わないのが現実。
だからこれは、そうなって当然の末路。
夢を追う九十九パーセントがたどる既定路線。
「……あれ?」
不意に視界が揺れ動いてることに気づいた。
地震だろうか。
けど、足裏を通して地面の揺れは伝わってこないし、本棚から本が落ちてもいない。
「……んだよ、これ……」
鈍い衝撃が全身を走る。
コーティングされた床材が眼前にあった。
倒れた、のか?
徐々に意識が遠のきはじめる。
悪寒が背筋を這っている感覚だけがある。
「すごい音がしたけどだいじょ……恭くん!? 恭くん、しっかり!」
あぁ、なるほど。これが風邪。
すごいな風邪って。こんな幻覚症状まで催すのかよ。
「……あぁ、満天のほしだ」
目の前に広がる星々は、俺の、無意識が想像した幻想だろう。
伸ばせば手の届く距離にある無数のほし。
けれど、何度握りしめても、そのほしは掴めず……
「これはまずいな……。待ってて、今、救急車呼ぶから」
それでも、何度も何度も、諦めずにほしを掴もうとして……
「……ちくしょう」
ついにほしを掴むことのできないまま、俺は、まどろみの底へ落ちていく。




