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星色Tickets  作者: 風戸輝斗
第三章

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第18話 脱稿と言葉にできない想い

 六月最終日。

 日に日に下がっていく冷房の温度は、まるで締め切りという名の巨人の足音のようで。


「終わったぁ~」

 しかしそんな不穏な跫音に悶々とする日々とも、今日でお別れのようだ。


「ついにやったんだな、俺たち……」

 予告していた通り、藤沢は二週間ちょっとで原稿を仕上げた。

 まだ最終完成稿を含めて何枚になるかはわからないけど、今の時点で既に五〇枚以上の原稿が、机上にうずたかく積まれてる。


「感涙にむせび泣いてるところ申し訳ないけど、早くプリントアウトしてきてくれる?」

「な、泣いてないやい!」

 気が昂って目頭を熱くしてしまったけど、涙を流して肩の荷を下ろすのも、打ち上げするのも、脳内で『栄光の架け橋』を流すのも、まだ早い。


 だって俺たちの物語は、ここからが本番なんだから。


「はいはい、忸怩くんって案外泣き虫よね。ほわぁ~、じゃ私はここで寝てるから。USBは使い終わったらパソコンのケーブルにでも差しといて。じゃ下校時間までおやすみ」

「あぁ、お疲れさま。ゆっくり休んでてくれ」


「あと、寝込みの好機に乗じて襲ってくれても一向に構わないけど、そのときはしっかりカーテンとドアを閉めてね。バレたら面倒だから」

「しませんけどそんなこと?」

 今日は、旧校舎で活動している他の部活がことごとくオフで、実は今、旧校舎にいるのって俺と藤沢だけだったりする。

 ……だからどうしたって話だけど。


「あっそ。……ほんと忸怩くんって忸怩すぎて一周まわってダンゴムシ以下だわ」

 突っ伏して枕に顔を埋めた藤沢は、きっと至極不機嫌な顔をしているに違いない。


 ちなみにこの枕は、部室に常備されている藤沢就寝グッズその一だ。一以降は存在しないよ。


「毒舌がいつも通りの切れ味を持っててなによりだ。藤沢が健康だって証明するなによりの証だからな」

「……これだから天然の忸怩虫は」

「そうだよ。俺は忸怩虫だよ」

 ずっと前からわかってることだ。


「ひとりじゃなにもできない。恥じることを厭わないで誰かの手を借りなきゃなにもできない無能だ。けど、藤沢がいて、すももがいて、雛鳥がいて、あげはちゃんがいて、アリス先生がいて。俺の夢を応援してくれるたくさんの仲間がいるから、俺は今、こうして夢を現実にする目前までくることができた。ありがとな藤沢。努力の天才のお前を選んでほんとうによかった」

「……」

「……寝ちゃったか。と、冷房の温度を少し上げて毛布掛けなきゃ風邪ひいちゃうかもだな」

 何しろ、脚本が完成するまでの期間は睡眠時間まで削ってくれたみたいだし。


 ほんと、つっけんどんな態度に反して良い奴すぎるよ、藤沢はさ。


「あとは俺に任せろ。お前の脚本を最高の形で世に送り出してやる」

 USBを握りしめて、俺は、職員室に駆け出す。


 夢が叶うまで、あと少しだ。



☆  ★  ☆



「あ~あ。あのタイミングで不貞寝を決め込むなんてもったいない。演劇馬鹿の岸本と雖も、あのタイミングなら落とせたかもしれないのに」

「……本当に趣味が悪いわね、あなた」


「お、ようやく蛾から出世できた。いやぁ聞き耳頭巾しようと思ってしたわけじゃないんだよ? ほら、この部って人数少ないから撤去時間大丈夫かなって思ってさ。演劇コンクールって、どれだけ作品の質がよくても、三〇分以内に舞台装置を撤去できないと失格になっちゃうんだよ」

「それをわざわざ忸怩くんに助言しに?」

「そそ。まぁ岸本ならその辺も把握してそうだけど、もし人手が足りなさそうなら、あたしに加えて妹たちにもお手伝いお願いしようかなと思ってね。……それで藤沢さん、いいの?」

「なにがよ。はっきり言ってくれないとわからないわ」

「告白、しなくていいの?」


「……」

「好きなんでしょ? 岸本のこと」

「……」

「はい、無言の肯定いただきました~」

「うっさいなぁ……」

「今ならまだ、誰とも競わずに岸本を独占できる。けど、雛鳥ちゃんとすももちゃんも、直に彼のことが好きになる。いや、既に好きなのかもね。いいの? 今しかないんだよ? あんまり焦れったいとあたしも本格参戦しちゃうよ?」


「……好きにすればいいじゃないの」

「ん、まさかあたしが好き勝手やってないと思ってた? こうやって恋敵に塩を送ってるのも勝率を上げるための戦略だよ? ほら、ライバルを蹴落として躍り出る娘よりも、弱るライバルに親身になってる娘のほうが好きそうじゃん岸本って」

「わざわざ戦略を明かしちゃうのね」

「うん。岸本はあたしのこういう残念なところを好いてるみたいだからね」


「……なんでこうも漏れなく強敵ばかりが集うのよ。高すぎるでしょ忸怩くんのお隣倍率」

「今はふたりっきりだから、ボソボソつぶやいても丸聞こえなんだよねぇ」

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