表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星色Tickets  作者: 風戸輝斗
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/38

第12話 あれ? 勉強ってこんなに楽しかったっけ?

 かくして幕開けとなった、赤点回避をすべく、勉学に心血を注ぐ日々。


 たった二週間。されども二週間。

 勉強を嫌う俺にとっては拷問にも等しい過酷な時間だった。


 ところが、俺はあっさりとこの地獄を抜け出すことができた。

 GW前日の放課後、俺はいつも通りノートに軽快にペンを走らせていた。


「できた! 見て見て藤沢合ってる?」

「どれどれ……うん合ってる。基礎も応用もバッチリね。これなら赤点回避どころかクラス首位も狙えるんじゃないかしら」

「だってさ、すもも。俺、GW期間中も勉強ガチって本気で頂点狙うわ」

「う、うん……。藤沢さんの洗脳術すごいなぁ。きーくん、すっかり勉強大好きっ子になってるじゃん」


「藤沢せんぱい、わたしのも見てください!」

「いいわよ。ま、雛鳥さんは優秀だから確認せずとも結果は目に見えてるけどね」

「まさか、あのドSの藤ちゃんが勉強においては褒め伸ばしの方針を取るなんてなぁ」


 今でこそペケ印よりも丸印のほうが圧倒的に多いノートだけれど、勉強会をはじめたての頃は、それはもう血だまりかってくらいに真っ赤なノートだった。一日で赤インクなくなったし。


 そんなおバカな俺に藤沢は一切罵倒を浴びせることなく真摯に寄り添ってくれた。

間違ってしまった原因を明確にし、どうすれば正しい道筋をたどれるのか、俺が理解できるまで何度も教えてくれた。


 藤沢は、普段はえっちでドSだけど、教える立場になった途端に常人の感性を備えた天使と化した。

 間違ったら、優しく教えてくれて。成長できたら、褒めてくれて。


 俺は段々と藤沢に褒められたくて勉強に傾倒するようになっていた。

 勉強って楽しいなぁ。


「はい、そろそろ休憩にしましょ」

「ヤだ。もっと勉強するもん」

「忸怩くん、頑張りすぎは反って毒よ。雛鳥さんもペンを止めなさい。青海さんはまだ不安があるからもう三〇分追加ね」

「わたしだけ待遇が違い過ぎませんかねぇ!?」


「だって、あなただけ未だに基礎的な問題でかなりの頻度で躓くんだもの」

「そ、それは藤ちゃんがきーくんと距離感近くて気になるから……だぁ~もう、わかったよ! やりゃいいんでしょやれば! すいへーりーべーぼくのふね!」

 お前まだ元素記号で止まってんの? アボガドロ定数まで来てる俺のずっと後ろじゃん。


 藤沢の指示に従って俺と雛鳥は勉強を中断し、雛鳥が用意してくれたザッハトルテに舌鼓を打ってひと息つく。

 ……ところで雛鳥の用意するお菓子、日に日にクオリティ上がってね?

 藤沢は、ごくんと喉を鳴らすと、フォークを置いて俺に視線を投げてくる。


「さて、赤点回避って課題はここまで時間を割けば問題ないでしょうから、次の問題に意識を割きましょうか。演劇部があるのにどうして演劇サークル部が必要なのか」

 そういえば、赤点を回避して、みっちゃんに承認判子をもらうってのが、勉強会をはじめた理由だったっけ。

 藤沢に褒めてもらえるって副産物があまりにも魅力的すぎたから完全に目的を見失ってたぜ。


「あの、いいですか?」

 と、おずおずと手を挙げたのは雛鳥だ。珍しいな、雛鳥が先陣を切るなんて。


「どうぞ雛鳥さん」

「はい。……その、現状わたしたちが把握してるせんぱいの夢って、泣ける演劇をつくること、じゃないですか。けど、これまでの演劇部の公演を確認したところ、どれも喜劇だったんです。だから、やりたい演劇の方向性が違うから演劇サークル部を設立したい……って意見で生徒会長さんを納得させることはできませんか?」


「もしかして俺たちのために演劇部の実績を確認してくれたの?」

「うん。こっそり那須せんぱいとお話をして、必殺の一手を探ってたんだ。出来損ないのわたしだけど、少しくらいは演劇サークルのお役に立ちたいから」

「ありがとう。雛鳥は出来損ないなんかじゃないよ」

 人付き合いが苦手なのに、攻略の糸口を探すため自らあげはちゃんのもとに出向いてくれた。


 その事実が、俺の胸をあたたかくする。

 この難題には俺といっしょに立ち向かってくれる心強い仲間がいるんだなって。


「うん、根拠まで用意されているし悪くない意見だわ。それにあの生徒会長さん、忸怩くんに甘いから多少は意見に粗があっても許容してくれるでしょう」

「ん、どうして藤沢が咲崎会長が俺に甘いって知ってるんだ? 接点ないよな?」


「っ! そんな気がしたから言っただけよその話題にこれ以上踏み込んだら処すからわかった?」

「あ、うん、わかったからちゃんと息継ぎしてゆっくり話そう?」

 藤沢ってたま~にポンコツ化するけど、何に起因してるのか全然わからないんだよなぁ。


「とはいえ、念には念を入れるに越したことはないわ。そこでひとつ提案なのだけれど、蛾と不仲だから演劇部に属したくないっていうのはどうかしら?」

「蛾って誰のことですか?」

「チョウチョみたいな名前してる幻の五人目に決まってるでしょ」

 藤沢、あげはちゃんのこと嫌いすぎじゃない? 

 雛鳥、反応に困って引き攣り笑いしてるじゃん。


「部申請用紙に名前が綴られてるのに不仲ってのはさすがに無理がないか?」

「そこはちゃんと考えてある。蛾が自分で文字を綴ったのではなく、勝手に書かれたって風を装うの。シナリオはこう。忸怩くんが生徒会長さんと話してる途中で蛾が激昂して乗り込んでくる。除名してほしいって蛾の懇願を忸怩くんは泣く泣く聞き入れる。そうすると、お人好しの生徒会長さんは自分が五人目になろうかと提案してくるはずよ。そして部員五人の条件達成。哀れな忸怩くんに同情した生徒会長さんは判子を押してくれる。どう、完璧な計画でしょ?」


「しれっとあげはちゃん離脱してね?」

「いらないでしょあの蛾は」

 やっぱり藤沢、あげはちゃんのこと嫌いすぎじゃない?

 俺が反応に困って引き攣り笑いしていると、部室の扉が勢いよく開かれた。


「岸本っ、この後かGWのどこかであたしとデートしよ!」


「「「……」」」

 ン~、タイミング悪すぎぃ!


 俺がだらだらと汗を流し、三人の部員が部長に冷凍ビームを突き刺す氷河期を思わせる凍土に、あげはちゃんは臆することなくズカズカと入ってくる。

 ザッハトルテを指でつまんでひょいと口に投げ、うまうまと頬を幸せそうに緩めたのちに、藤沢の肩に腕を乗せてあげはちゃんはからかうように言った。


「で、誰が蛾だって?」

「チッ」


「あははっ、ほんと可愛いなぁこの子。やっぱ好きだわ~」

「私は大嫌いよ。不愉快だから失せてくれる?」

「まぁまぁそう言わずに。あたしもこのサークルの一員なんだし。で、岸本デートどうする?」

「この空気でその話を進めるとか正気ですか?」

 最悪の場合、演劇サークル同好会が部に昇格する前に空中分解しちゃうよ? 

 藤沢が不機嫌なのはいつも通りだけど、雛鳥もすももまで真顔になってるのはさすがにヤバいよ?


「違うんだみんな! あげはちゃんはデートって言ってるけど、正確にはカップル限定割引のあるスイーツ店にカップルを装っていこうって意味合いでさ。あげはちゃんに五人目になってもらったときに、行こうって約束してたんだ」

「カップルを装う……ふぅん。まぁわかってたし。せんぱいが女を誑かすおおかみだって」

「食べちゃわないよ!?」


「もういっそのこと生徒会長さんに岸本ハーレムをつくりたいから演劇サークル部を設立したいですって正直に伝えたほうがいいと思うんだ。まぁその瞬間、モモさんは離脱するけど」

「ハーレムとか狙ってないから! たまたま男女比が偏ってるだけだから!」


「なるほどね。恋愛感情がないのに蛾とデートするってことは、私とも後日デートしてくれるのよね? するよね? しなかったら喉元引き裂くわよ?」

「わかったわかった! わかったからフォーク下ろして藤沢さん!」


「あははっ、指摘がことごとく岸本の急所突いてて草」

「この修羅場の原因が自分だって自覚ありますあなた!?」

 今さら気づいたけど、メンバー全員が一堂に会するのはこれが初めてだ。


 う~ん、藤沢とあげはちゃんの不仲改善は無理かもなぁ。

 どうか、いがみ合ってばかりだけどほんとは仲良しっていうマンガとかでよく目にするオチでありますように。


 こうして、GW連休目前の部室での勉強会の時間は幕を閉じた。



☆  ★  ☆



 その翌日。

 あげはちゃんとカップルを装ってカップル限定割引が適応された状態で特大パフェを満喫したことは、みんなにはナイショでお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ