2−1 フィールドワーク①
十二月の半ば、大学のゼミの選考がそろそろ山場を迎えようとしている。
飯田隆は、今日のフィールドワークのために、リュックに荷物を詰めていた。スマホ、大学の講義で使うノートPC、念の為の予備の上着。
つけっぱなしにしていたテレビからは討論番組が流れている。ちらっとスマホの時間をみた。約束の時間まで、まだある。コーヒーを水筒に入れて、余った分をカップにうつす。そのコーヒーを飲みながら、テレビの方に目をやった。TV徹底討論と言う番組らしい。
テレビでは最近増えてきている熊被害に対して、「駆除すべき」派と「保護すべき」派の討論だった。
「熊と共存を考える会」の代表を名乗る女性が、テレビの中でヒステリックに叫んで、それを「駆除すべき」派の人たちが、諌めている、まあよくある光景だ。
そうだ、天気はどうだった? スマホの天気予報を確認した。大丈夫、全国的に晴れだ。
テレビでは、「駆除すべき」派の人たちは、人の命に関わるなら、駆除すべきという、当たり前の意見を主張している。それに対して「保護すべき」派の人たちは、もっと熊のことを勉強して共存できる方法を探すべきという意見が、ずっと平行線の議論を続けていた。この手の番組は、結論を出すのではなく、たんに議論している様をエンタメとして放送しているのだから、極端な意見の方が盛り上がる。
そうこうしているうちに、スマホに着信があった。同じゼミの春日徹だ。
「今ついた、下にいるぞ」
「わかった、今から降りる」
そんな短い会話をかわして、テレビのリモコンを取った。「論破」で有名なコメンテーターが「三歳の子供に何を教えれば熊に食われなくなるんですか?」という意見を出したところでスイッチを切った。
さて……。
リュックを肩にかけて、下に降りていく。実際に人が襲われているんだから、駆除するしかないよなぁとぼんやりと考えながら。アパートの前に、徹の青いシビックが停まっていた。
「徹、いつも悪いな」
「なーに、こっちこそ付き合ってもらっているようなもんだ、気にすんな」
「今からC県だと、昼前には着くだろう?どこかで昼飯でも食べてから行こうや」
了解の代わりに、サムズアップをして車を発進させた。隆と徹は、「郷土史研究学部」というところに所属し、今度の研究発表で「街に眠る神社仏閣の成り立ち」を発表する予定だった。
今日は、C県に今は誰も近づかない、忘れられた神社があるという話を聞き、そこのフィールドワークに行くことになっていた。
外は寒いが雲ひとつ無い空。車の中は暖房が効いていて、軽快なJ-POPが流れていた。
<つづく>




