3−2 帰り道①
「あー、遅くなっちまったな。腹減ったー」
徹がうんざりしたように呟きながらハンドルを握っていた。
「まあ、未解決事件の真っ只中に来たらしょうがないよ。教授も地域貢献を欠かすなって言っているしな」
「これが地域貢献か?」
徹がブツクサ言いながら車を走らせる。街灯もほとんどない。人っこひとりいない。徹のシビックのライトだけが暗い夜道を照らしていた。車からは、相変わらず場違いなJ-POPが流れていた。
「この時間になると、本当に誰もいないな。不気味なぐらい」
「あんな事件が起こっているんだ、外出を控えているんだろう」
徹の声が、暗い車内に響いていた。
やがて車は街灯が全くない暗い道を走っていた。シビックが唯一の明かりだ。横も後ろも、真っ暗で何も見えない。たまにポツンポツンと、遠くに明かりらしきものが見える程度だ。来た道を戻っていくと、今日訪れた最初の場所に差し掛かった。
突然、徹が車を停めた。
「徹?どうした?」
「……なあ、あそこに誰かいなかったか?」
徹が後ろを振り返りながら、問いかけてきた。つられて後ろを見るが、あるのは暗闇とポツンと光る薄暗い街灯だけだった。
「おい、やめろよ、そういうの」
「いや、確かに人が。今日の山道に入っていった」
ギギッとパーキングブレーキの音が暗闇に響いていた。
「まあいいじゃないか、ほっといて行こう」
「いや、気になるな。もしかしたら行方不明の老人かもしれない」
そういうと、徹は後部座席から懐中電灯を取り出した。
「ちょっと見に行ってみようぜ」
「マジかよ!?」
「なんだよ、お化けが怖いってわけでもないだろう。お前はスマホで撮影してくれ。これもフィールドワークだよ」
ドアを開けて、ドアロックもせずに山道の方に向かっていってしまった。その背中を追いかけるように声を出す。
「おい、ちょっと待てって、ライト付けたままで……車ロックしなくて良いのか?」
「こんなところ、誰も通らないだろ? ちょっとぐらいなら平気だろう? それより行くぞ?」
暗闇の向こうから徹の声が響いてくる。慌ててスマホを録画モードにして後を追った。茂みの中を進んでいく徹の懐中電灯の光が、スマホの画面の中で揺れている。
「おい!フレームアウトしているぞ!もっと……」
スマホの画面から顔をあげると、徹の持っていた懐中電灯の光がどこにも見えず、闇が広がっていた。
<つづく>




