2−5 フィールドワーク③
「徹、何か感じないか?」
「何かって?」
「誰かに見られているような」
「おいおい、心霊とか勘弁してくれよ」
「いや、そんなんじゃないんだけどな」
徹と隆は周囲を見渡した。山にはうっそうとした木々が広がり、昼間でも暗い感じがする。二人が登ってきた山道も草木に隠れて見えないくらいだ。木々が揺れる僅かなノイズが聞こえるが、それ以外は一切の音がしない。まるで文明から隔離された場所のようだ。
車道から、そんなに登ってきたわけではないのに、車道は見えず、徹のシビックはおろか、家や街並みも見えない。
徹が顔に手をやって、鼻を擦っていた。
「それより、なんか変な臭いがしないか?生臭いというか、生ゴミみたいな」
注意深く空気を吸い込んでみる。僅かな嫌な臭いが鼻腔を刺激してきた。
「そうだな。生ゴミというか、腐敗臭とでも言うのか?」
「誰かが不法投棄したとか、動物の死骸でもあるのかもな?」
周囲を見渡すように首を動かし、もう一度大きく息を吸い込んでいた。
「こんな森の中だ、野生動物がいても不思議じゃないな」
「イノシシとかだったらヤバいな」
イノシシに遭遇して重傷を負うケースがあるという話は聞いたことがある。
「イノシシか……流石にこの季節は出ないとは思うが、最近は人間のゴミがあるから冬眠しないって話も聞くけどな……野良猫ぐらいなら心配はないけど」
目の端に、何かがよぎった感じがした。祠の向こうのほうに目を凝らす。
「隆、どうした?」
「いや、祠の向こうで何かが動いたような気がして」
「マジか?」
徹も一緒になって祠の向こうを見る。相変わらず音は、木々のノイズ以外は聞こえない。
「カラスとか?」
「多分……」
気のせいか、先ほどの異臭が強くなっているような気がしてきた。
「さ、これ以上収穫は無さそうだし、市役所か図書館に行こうぜ」
「ああ、そうだな」
違和感を抱きつつ、祠を後にした。祠のもっと向こう、森の奥から、誰かに見られているような感じ……。森の奥がフレームに入るように撮影を始めた。
単なる森だ。何もない。ただその奥に、何か得体の知れない雰囲気を感じていた。
<つづく>




