肆拾肆
田舎に行く当日。
清把と母親は町ノ原の駅で佳奈恵と待ち合わせた。
一般車両の送迎用のレーンに佳奈恵の車があり、清把と母親は佳奈恵の車に向かうと、二人に気づいた佳奈恵が車から出て来た。
「佳奈恵さん、おはようございます」
「おはよう、清把ちゃん。今年もよろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
清把は頭を下げた。
「あ、佳奈恵さん。えっと私の母です」
清把は隣に立つ母親を佳奈恵に紹介した。
「初めまして、篠原さん。清把の母で久桷実夏子です。娘が随分世話をかけたようで申し訳ございません。あの、それで今日の二人分の交通費と今までご迷惑をかけた分としてこちらを受け取って下さい」
母親はバッグから茶封筒を出して佳奈恵に差し出す。
「ありがとうございます。では遠慮なく頂きますね」
佳奈恵はにこりと笑顔で茶封筒を受け取った。
「あ、ご挨拶が遅れましたが私、篠原佳奈恵です。息子の瑣高がお嬢さんと友人で、息子と一緒に時々ランチをしたりしてまして」
「はい、娘から聞きました。色々良くして頂いた様でありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ楽しい時間を過ごさせて頂きありがとうございます。立ち話する時間もありませんから車に乗りましょう。荷物、トランクにどうぞ」
佳奈恵はトランクを開けて清把達の荷物を入れた。
まだ葬式ではないから喪服でなくてもいいと言われたので清把と母親は黒のワンピースで来たが、念の為母親は喪服、清把は制服を持って来たが、佳奈恵は普段着だった。車の運転もあるからラフな格好なのだろう、多分。
佳奈恵は運転席に、清把はいつも助手席だったので習慣で助手席に座ってしまったが、今日は母親も一緒だという事を思い出し、後部座席に行くべきか振り返ってみたが「そのままでいいわよ」と母親が言ったので清把は「あ、うん」と答え、シートベルトを締め、佳奈恵は車を動かした。
今の時期の下りの高速道路なので、さほど混んではいなく、予定通りに瑣高の家につきそうだ。
サービスエリアで休憩に入り、清把と母親はトイレに行った後、外で少し話をした。
佳奈恵は康太に電話をするため少し離れた場所にいる。
「清把、篠原さんと随分仲がいいわね。満知子と同じぐらいかしら?」
「え?」
母親がチラリと佳奈恵のいる方に視線を向けた。
「まあ、仲はいいと思うよ。話が合うっていうか、色々な事を知ってて話してて面白いって感じかなあ」
清把は考えながら話した。
「そうねえ、お母さんから見てもそんな感じね」
母親は軽く寄りかかっていたポールから身を離し、同じ様に隣で軽くポールに寄りかかっている清把の方へ身体を向ける。
「……清把。田舎に行ってもしお祖父ちゃん達に見つかって捕まりそうになったらすぐに篠原さんと逃げるのよ」
真剣な顔で母親は清把にそう言った。
清把は突然そんな事を言われて驚いたが、すぐに顔をこわばらせ「うん」と頷いた。
清把自身も母親と同じ様な事は思っていた。
祖父達に見つかって捕まったら、自分一人で逃げる事はかなり厳しいと。だからそこらへんの事も事前に佳奈恵とは話していて、もしまずい事態になったら佳奈恵か康太を頼るという手筈になっている。
ただ母親から真剣な顔で言われると、なんというか本当の本気で気を引き締めなければと思ってしまうのだ。
「お母さんはどうするの?」
清把は篠原夫妻に助けてもらうとして、母親はどうなるのかがわからない。
「ああ、私なら大丈夫よ。強く怒られてお説教されて、追い出されるだけよ。村に災いをなしたのは清把だから。獲物——標的にされているのは清把だけ。お母さんも関係者だけど、あの家の人達に直接どうこうしたわけじゃ無いからね」
母親は辛く、やるせない表情で言い、清把の顔を見た。
「お母さんもね、こんな事は言いたくなかった。しかも自分の娘になんてね。でもね、思い出しちゃったのよ」
母親は軽く一息吐いた。
「お母さんが小学生の多分一、二年生頃の事だったと思うんだけど、同じクラスにいた女の子がある日突然いなくなっちゃったの。先生は引っ越したって言ってお終い。特に仲が良かったわけでもないからそうかと思ったのよ。で、家に帰ってお祖母ちゃんに言ったの。お祖母ちゃんは確か仕方ないなとかそんな感じだったんだけどお祖父ちゃんがね。村から出られただけでも感謝するんだな、みたいな事を言ったのを思い出したのよ。その時のお祖父ちゃんがあんまりにも怖くてね……。この話はもうしちゃいけないなと子供心にも思ったわ。今だからわかるけど、その家族は村の掟に関わる事でなんかやらかしたと思うのよね。それで村から追い出された。そして追い出したのはお祖父ちゃん、というか村の大人達だろうなって。お祖父ちゃん達は孫だからって容赦しない。むしろ孫だから厳しい扱いをするわ、絶対に。だからね清把、身の危険を感じたら絶対すぐに逃げるのよ。わかったわね」
母親は清把の両手をぎゅっと握って言った。
「うん、わかった」
清把も真剣な顔で頷いた。
「お待たせしましたー」
タイミング良く、明るい声が清把達の間に入って来た。重い雰囲気だったが、その声で霧散した。
「佳奈恵さん」
「夫にあと一時間半ぐらいで着くと連絡しておきましたので。あ、何か軽く食べていきます?」
佳奈恵は外にある自動販売機にチラリと視線を向ける。自動販売機でポテトフライ等が販売されているのだ。
「いえ、私は大丈夫です。清把は? 何か食べるならお金あげるから買って来ていいわよ」
「うーん、私も別にいらないかな。佳奈恵さんは?」
「うん、私もいいかな。ならそろそろ行きますか? もう少し休んで行きます?」
「私達はいつでも大丈夫ですが、篠原さんこそお疲れならまだ休憩していてもいいんですよ?」
「そうだよ、佳奈恵さん。運転疲れるでしょ?」
「ありがとう清把ちゃん。このぐらいの距離ならそんなでもないかな。これよりも長距離をちょこちょこ運転するしね。じゃあ皆大丈夫なので行きましょうか」
「そうですね。よろしくお願いします」
「お願いします、佳奈恵さん」
「はい。じゃあ出発しましょう」
佳奈恵は笑顔で言って、三人は車へと向かった。




