二十九
秋も深まったとある日曜日。
清把は近所のコンビニに買い物に行って帰って部屋に戻ると、携帯電話がチカチカと光っていた。
メッセージと電話、両方の通知だった。
(え……? まさか瑣高君……?)
その名を想うだけで、清把の心臓は高鳴る。
あの夏の日に別れてからずっとメッセージを送っているが、返事は一度もない。
同じ様にメッセージを送っている佳奈恵の方にも、瑣高からも凛子からもまだ何の連絡も無いそうだ。
だが通知の光を見ると、瑣高のものでは無い。
この色は里如やののか達、田舎の人達の色だ。
清把は残念さを感じながらも、どこかほっとしながら携帯電話を開けた、と同時にののかからの着信が入り清把は驚く。とりあえず通話ボタンを押して電話に出る。
「もしもし?」
『きっ、きよはぢゃん!? や、やっどで、でたあ……ゔっ……』
泣きながら電話をかけてきたののかに只事では無い事を感じた清把だが、どうすればいいか悩む間も無く、ののかが一方的に喋り出した。
『あっ、あのねっ、さっき、父さんにっ、隣に連れて行かれた、のっ。そっ、そしたらっ、そこでっ、お前はこの家の男の子をっ、はっ、はっ、はらっ、めっ、てっ……。ゔっ……。私、あっ、頭、真っ白になって、父さんをっ、責めたの。そしたら、そこの家の人が、出て来てっ、ひっ、酷いことっ、いっぱい、言わっ、れたのっ。そんでっ、お兄ちゃんも来てっ、色々文句言って、怒って、そしたらっ、全部清把が悪いんだっ、清把のせいだって言って、また、家に帰ってきたのぉ……っ』
泣きながら喋るので聞きづらい所もあったが、要するに、ののかは瑣高の家に連れて行かれ、何の説明もなくただ瑣高の子を孕めと言われたが、家から出て来た瑣高に帰れとあしらわれた所に里如が来て口論になり、全部清把が悪いと罵ったという事らしい。
(やっぱり本気だったんだ、お祖父ちゃん達……)
祖父達ならほぼ確実に実行するとは思っていたが、それでも内孫のののかをそんな目にあわせる事なんてしないと信じたい気持ちもあったのに。清把は祖父達に落胆したが、まずはののかをなんとかしなければいけない。
「ののかちゃん、ちょっと落ち着いて。今、何処にいるの?」
『んっ、そっ、外。車でっ、のっ、中っ、ゔっ……』
とりあえず近くに里如達はいないらしい。
「えーっと、ののかちゃんは今どうしたい?」
『どう、? わっ、わっかんないっ、よっ』
ののかはぐずぐず泣きながら答える。
「でも私に電話してきたのはなんかあるからだよね?」
『わっ、わかっ、んな、いっ。お、兄ちゃ、が、清、把ちゃんのせいだって、言うから……ゔっ……』
「うーん……」
清把は困ったなあと面倒くさいなあと思いながらもどうにかしないとなあと考える。
ののかにはまず流澤の家の事を知ってもらわないと話ができない。そこが全ての原因だからだ。本当はののかが伯父達に直接訊けばいいのだが、はぐらかされたり嘘を言われる可能性もある。だから先に清把から話したいが、話すにしても電話ではうまく通じない可能性もあるので、できれば会って話たいが、清把一人では田舎に行けない。出禁をくらっているし、交通費という現実的な問題もある。ならば、ののかにこちらに来てもらう方がいい。車の運転もできるし、お金もあるはずだ。
「ねえ、ののかちゃん。ののかちゃん、こっちに来れる?」
『えっ、なっ、なんで?』
「電話だとうまく伝わらない気がするんだ。それぐらいすごく信じられない話なんだよね」
『えっ、無理だよお。そっちまで一人なんて、絶対無理ぃ。きっ、清把ちゃんがこっちに来てよぉ……んっ……』
「え、それは無理だよ。お金ないし、伯父さん達に来るなって言われてるし。でもののかちゃんは車あるし、私よりお金あるでしょ? だからののかちゃんに来てもらう方がいいんだよね」
『むっ、無理ぃ〜。そっ、そんな長距離走ったこと無いし、一人は無理ぃ……。あっ、お兄ちゃん、一緒なら……』
「それこそ無理だよ。私、里如君に嫌われたし、里如君がののかちゃんをこっちには来させないよ」
『じゃっ、どうすればっ……ゔっ……』
「だからののかちゃ……」
『だからそれは無理い……。清把ちゃんの、意地悪っ、ゔっ、う……』
「意地悪っ……」
清把ははあ、と盛大に溜息を吐いた。
どっちが意地悪なんだと清把は内心で毒づく。
ののかはこっちに来たいという割には、絶対に一人では来ないのだ。不安なのか、必ず誰かと一緒でないと来ないらしいと、以前満知子が言っていた事を思い出す。
「なら話はできないよ、ののかちゃん」
『そっ、そんなあ。酷いよ、清把ちゃん』
ぐずぐずしながらののかは清把を詰る。元々の原因は村のせいなのに。
「だってできないものはできないもん。私にはこれ以上できないから、ののかちゃんが自分で伯父さん達に訊きなよ」
清把はののかの態度に苛立ちながらも突き放す様に答える。
『きっ、訊いたって教えて、くれないよっ……』
「かもね。だから伯父さん達にこう言いなよ。私から聞いたから全部知ってるよって。だから黙ってたり嘘ついても無駄だからね、って。そう言えば教えてくれるよ。多分」
『そっ、そんな事、言えないよお。だって、清把ちゃんが……』
「私の事なら別にいいよ。じゃああとは頑張ってね、ののかちゃん」
『あっ、き……』
清把はののかの返事を待たず、一方的に電話を切った。これ以上、ののかの相手をしたくなかったからだ。
「はあ……。酷いのはどっちよ」
せっかくの休みをののかの電話で台無しにされてムカムカするが、それよりも瑣高の方が気になった。酷いことを言われたそうだが、何を言われたのだろうか。だが清把は酷い目にあわされたののかが羨ましかった。何故なら瑣高と会えたのだから。会いたくても会いに行けない清把からすれば、瑣高の姿を見れたののかが羨ましくて妬ましい。
「ん?」
握ったままだった携帯電話から着信メロディが流れ出した。ディスプレイを見るまでもなく、相手はののかだとわかる。
清把は電話に出る事はなく、ベッドにぽいっと携帯電話を投げた。
そして、清把は部屋を出て行った。




