二十八
夏休みも終わり、二学期が始まった。
睦美からテーマパークのお土産を貰い、行った感想を聞いたりなどして初日は終わった。
懸念していた原田を見かける事もなく、無事家に着いた。
数日後、休みの日に佳奈恵と会う約束をしていたので、佳奈恵の夫が経営する喫茶店で会った。清把も何度も訪れていて、今は慣れた場所だ。
喫茶店に人はまばらにいる程度でさほど混んではいない。
佳奈恵は奥の席に清把を案内した。
「何にする、清把ちゃん」
佳奈恵がメニューを渡す。
清把はメニューを受け取り、悩む。
「どれも美味しいから迷っちゃうんですよね……」
ページを捲っては戻し、捲っては戻す。
「うーん。……よし、決めました。卵と野菜のサンドイッチセットで、烏龍茶とオニオンスープで、デザートはレアチーズケーキで」
「オッケー」
佳奈恵は手元にあるオーダーシートに注文を書き込み、カウンターにいる康太に渡した。康太は受け取ると、奥の厨房へと入って行った。
「お待たせ。さて、と。早速だけど、汞の事だけど。私もね、夏休みに行ったきり、連絡は取れてないの。凛子さんからメッセージが来てね、しばらく連絡はしない、もし何かあったら連絡するってね。メッセージ通り、こっちが電話してもメッセージを送っても反応なし。でも気になるから私は無視してメッセージを送ってるけどね」
佳奈恵は苦笑した。
「私も同じです。瑣こ……あ、汞君にメッセージを送っても何の反応も無いです」
「あ、瑣高って呼んでいいわよ。今はこっちにいないし、本名なんだからね。気にしないで」
「わかりました。すいません、佳奈恵さん」
「やだ、謝る事じゃないわよ清把ちゃん。ふふっ」
佳奈恵は軽く笑って答える。
「瑣高君からは連絡は無いですけど、祖父が高校卒業したらこっちに住めって言われてます。勿論断りましたけど」
清把は苦笑しながら言う。
「えっ!? いきなりなんでそんな事になったの!?」
思わず大きな声になった佳奈恵だが、奥の方にある席だし、近くの席には誰もいない。皆、常連らしく、佳奈恵を一瞥しただけでまた自分の世界へ戻って行った。
「あ、瑣高君に関わったからですね」
「え?」
「理由はそれしか無いですよ」
清把は乾いた笑いを溢しながら言う。
「信じられない……」
「あはは……。田舎ってそういうものですよ。佳奈恵さんもなんとなくはわかるんじゃないですか?」
佳奈恵は眉間に皺を寄せた。
「うん。そう、だね」
きっと瑣高の母親との事を思い出しているのだろう。こっちで生まれ育ったなら、田舎の閉鎖的で独自のしきたりなんかは理解され難いだろう。
「お待たせしました」
少しの沈黙が漂っている空間に、康太がオーダーした注文を持って来た。
「清把ちゃん、どうぞ」
「わあ、ありがとうございます」
清把は水の入ったコップを端に寄せながら礼を言う。テーブルにはボリュームのあるサンドイッチがきれいにのった皿が置かれた。それからサラダ、スープと次々とテーブルに並べられていく。
「佳奈恵、お待たせ」
「わあ、美味しそう。流石康太! ありがとう」
「ああ」
佳奈恵はオムレツセットで清把と同じサラダとスープが並べられていく。
「じゃあごゆっくり」
康太は小さく笑ってカウンターへと戻った。
「話は後にして、先に食べちゃおうか。ね、清把ちゃん」
「はい」
こんなに美味しそうな食事を目の前にして話などできるわけもない。
「「いただきます」」
二人は笑顔を浮かべながら、目の前にある料理を食べ始めた。
食事もデザートも終わり、一休みした所で話を再開したが、祀賀偂親子に連絡を無視され続けている現状、自分達から何かをできる事もないので、しばらくは現状維持になった。定期的にメッセージを送って返事を待つ、だ。
その後は原田の事を佳奈恵に訊かれた。
「清把ちゃん、あれからストーカーの方は大丈夫? 何も無い?」
「はい。今のところは」
「そっか、よかった。あ、私また清把ちゃんのお迎えに行ってもいいかなあ?」
「え、それはもちろん嬉しいですけど、佳奈恵さんも忙しいんじゃないですか? 無理とかして欲しくはないので……」
清把は申し訳なさげに答える。
「ありがとう、清把ちゃん。心配してくれて。でも大丈夫、無理とかはしてないから安心して」
「本当ですか? 嘘は駄目ですからね?」
「本当本当、問題無いよ」
清把はじっと佳奈恵の顔を見てから「……じゃあまたお願いします」と言った。
「オッケーオッケー。任せてね」
佳奈恵は笑顔で清把のお迎えを引き受けた。
それからまた少し雑談をした後、清把は佳奈恵に最寄り駅まで送られ帰宅した。




