二十二
翌日、昼前に清把は母屋の玄関前で、伯父の車に荷物を入れてもらっていた。
ダンボール一つ。着替えや重さのある荷物やお土産が入っている。
清把はリュックサックを後部座席に入れてドアを閉めた。
「清把ちゃん、気をつけて帰んなね。電車は一人でしょ?」
「はは。ありがとうののかちゃん。大丈夫だよ」
ののかが心配そうに見ながら言う。
「ももかちゃんもまたね」
「うん。清把ちゃん、またね」
ももかの方はあっさりと挨拶して終わる。
玄関にいるのはののかとももかだけだ。
里如は仕事、祖父母と義伯母は畑。
いない人達とは朝に挨拶してある。祖父も里如も表面上は何事も無い風を装っていたが、里如は結構清把に対する嫌悪感が顔に出ていた。それでも祖母も義伯母も不自然さに気づいてはいない様だった。
一応帰る理由は、父方の祖母が怪我をしたから早めに帰って見舞いに行く、という風にした。
本当は怪我所か鈴花達と元気に遊び回っているのだが。
「よし。じゃあ駅に行くぞ、清把」
挨拶が終わると伯父が声をかけてきた。
「うん。じゃあね、バイバイ」
清把は手を振って、車の助手席に行く。シートベルトを締め、鍵をロックする。
健一も運転席に座り、シートベルトを締めて車を出した。
ゆっくり坂を下り出した車の中から、ののか達に手を振った。そして小さな畑を見、雑木林の奥にある瑣高の家の方にも視線を向けた。
(瑣高君……)
今の清把には心の中でただ、名前を呼ぶしかできなかった。
車は駅へと向かうが、車内は無言だった。
清把は窓の外の風景を眺め、伯父は運転に集中している。
昨日の今日だ。
清把も何をききたいのかすらわからない。まだ頭の中が整理できていない。
伯父も今すぐ清把に言える様な事は何も無い。
もうすぐで駅につきそうな距離にきた時。
「清把」
伯父が正面を見たまま声をかけた。
「何」
清把は窓の外を眺めたまま、返事をする。
「……お前は、あの家に近くづくなと言われていたら近づかなかったか」
「うん。小さい頃、私が瑣高君の家の事を訊いた時に、変に隠さないで言ってくれてたら近づかなかったよ。瑣高君に会った事もちゃんと話した」
「……そうか」
「うん」
清把は正直に答えた。伯父達が禁じる事だ。子供だから素直に信じ、その通りに行動する。
だが変に隠した事で、清把は疑問と興味を持ってしまった。何も知らない清把がその後、瑣高と仲良くなり、好意を抱いた事を責められても、清把からすれば理不尽なだけだ。
答えた伯父の声は何処か後悔の滲む様な声だった。
車は駅につき、清把はリュックサックを背負って伯父に挨拶する。
「今までありがとうございました。今も、駅まで送ってくれてありがとうございます」
清把は頭を下げた。
「ああ」
伯父はそれだけしか言わなかった。
今までならもっと会話をして名残を惜しんだが、今はもうそんな事はできなかった。
伯父は村の禁忌に触れた姪をもう可愛がれない。
姪は瑣高に対する酷い対応をし続けた伯父や村を好意的にみれない。
当然の結果だ。
「じゃあ、行きます」
「ああ」
清把は窓口で切符を買い、後を振り返らず改札を通った。伯父も改札を抜けた姪を見届けると、すぐに駅を出た。
もう、以前の様な関係には戻れなくなった事を互いに淋しく思うが、互いの大事なものが違う以上、仕方のない事だった。




