二十一
夕食を終えると健一と祖父は何処かへと出かけて行った。
義伯母や祖母は特に気にせず、普段通りに家事やら明日の農作業の準備をしていた。
里如は夕食後はすぐに部屋に引きこもり、ののかとももかは清把と少し雑談してから部屋へと引き上げた。
清把は離れへと行き、帰りの支度を始めた。
先にいた祖母は清把が帰ることを祖父から知らされていたが、義伯母達にはまだ知らせていなかった。
清把が荷物をダンボールやカバンに入れているかたわら、祖母はちゃぶ台にお茶やお菓子を用意していた。
「清把は何をやらかしたんだい」
祖母が突然問いかけた。
「えっ。…………まあ、ちょっと……?」
清把は瑣高達の事は言えず、言葉を濁すしかできなかった。祖母に言っていいものか、わからなかったのだ。
「そうかい」
祖母はあっさりと答えた。
「え。……気にならないの、お祖母ちゃんは」
自分から濁しておいてなんだが、ここまであっさり引かれるとは思わなかったので、思わずきき返してしまった。
「言わねえって事は話さねえって事だろ。それに必要があればじいちゃんがなんか言うからなあ」
祖母は自分でいれた熱い茶を、ずずっと一口飲んだ。
「まあ、ね」
歯切れ悪く清把は答えた。
「なら訊くだけ無駄」
「ははっ……」
全くもってその通りだと、清把は乾いた笑いを浮かべた。
祖父と健一は村長の所の離れにいた。
そこには村長と二人の中年男性がいた。
合わせて五人の男がちゃぶ台を囲んで座っていた。
「急に呼び出して悪いな」
がっしりした体格で少し太めの男が言った。
「俺は健攘から話しは聞いたが、もう一度皆にも話てやれや」
体格のいい男が祖父の顔を見ながら言った。
祖父—— 健攘は重い口を開いた。
「……うちの外孫の娘が、あの家の倅とできとった」
その言葉を聞いた二人の中年男性は驚愕の表情になり、固まった。
「俺はその場を実際に見たわけじゃあねえんだが、里如が言うにはかなりの仲らしい。孫娘からも話を聞いたが、友達として付き合ったと。だがまあ今はそれ以上の気持ちだろうよ」
健攘はちゃぶ台にある冷えた麦茶をぐいっと飲んだ。コップをちゃぶ台に置き、健攘は全員の顔を見る。
健一は腕を組み、渋い顔をしながら健攘の左隣に座っている。体格のいい男は右側に座り、健一同様渋い顔だ。向かいに座る男二人は、聞いた話が衝撃的過ぎたのか、まだ固まったままだ。
「孫娘の事はわかった。それで、これからどうなる、どうするんだ健攘」
体格のいい男が問う。
「まずあの倅はもう長くない。観ればわかる。だが次がいねえ。倅の選んだ女もいねえようだから、家のののかをやる」
「お前、いいんか? ののかちゃん渡して」
体格のいい男はさらに渋い顔をしながら言った。
「ああ。それが俺らの家の役目だ」
「とはいえ、あの家は今まで一度もお前んとこの血は入れなかったよな。他の家——池だけは目付の家からも嫁も婿も取ったが四は入れなかったな」
「だがあの母親が受け入れるとは思えねえなあ」
「そうであっても女はいれねばならねえ。あれが受け入れようが受け入れまいが、家はそうするしかねえ」
健一が苦々しい声で言う。
「——それと、今回の原因になった外孫は、村長の離れで暮らさせ、里如に面倒を見させる」
健攘が重い声で言った。
その言葉に健一以外の三人がさらに驚愕の表情で健攘の顔を見た。
「おまっ……、さっきも言ったが本当に本気か、健攘」
体格のいい男は信じられないとばかりに目を見開いて隣の健攘に身体を向けた。
「そっ、そうだぞ、健攘じいちゃん。外孫ってまだ若いあの子だろ!? 駄目だ駄目だ、やめとけ、考え直せってば!」
「そうだそうだ! いっくら外孫が原因だからって。それは流石に酷いべさ、なあ村長!」
正面に座る二人の男が健攘と体格のいい男——村長を交互に見ながら、反対した。
「俺もそう言ったんだ。確かにあの子はやらかしたが、知らずにやっちまった事だ。内孫ならまだしも外孫にはなあ……」
「内だろうが外だろうが関係ねえ。流澤の者がやらかしたんだ。俺らは責任を取らねばなんねえのさ。あれの目付役としてもだ」
健攘は考えを変える気は全くない様で、三人の言葉を頑として受け入れない。
「でも健攘じいちゃん、その子確か今年で高校卒業だろ? 大学だってもう決まってるはずさあ。今から変えさせるとかは、あんまりにも可愛いそうすぎるで。うちの子見てるからなあ、そこら辺は気い使ってやらんと」
「確かに。今時の子なら女でも大学ぐらいは行くからなあ。都会の娘っ子ならなおさらだ。離れに住まわせるとしても、せめて大学卒業ぐらいは待ってやろうや、な?」
向かいの二人は健攘の考えが変わらないのなら、せめて大学卒業までは待ってやれと言う。その間に健攘を考え直させようとの思惑もあるからだ。
「そうだぞ、健攘。ののかだって短大に行ってんだ。二人の言う通り、外の子なら大学ぐらい行くはずだ。離れは用意するが、時間はかかるんだ、なあ健攘」
村長も加勢してなんとか清把を離れに住まわせるのを遅らせようとする。
「高校卒業までは待つが、卒業したらすぐに離れに住まわせる。大学に行きてえなら、こっから通えるとこに行かせる」
三人は顔を見合わせ、駄目か……と肩を落とす。
「……まあ、今日はどうするかだけ伝えたかっただけだから。細けえ事はまた日をあらためて来るわ」
健一が今日はもう終いだと告げて立ち上がった。
健攘も続いて立ち上がる。
「時間取らせて悪かったな、竹之助、昇、昭郎」
健攘は座っている三人の顔を見ながら言って、健一とさっさと離れを出て行った。
二人の後姿を見送った三人は盛大な溜息を吐いた。
「どーすんだ、村長」
昇が声を出した。
「どうするもなあ……。健攘の言う事は筋が通ってる。この村の厄災を受ける家が絶たれるんだからな。穢れはまだ半分近く残ってる。それが徐々に村さ、ばら撒かれるんだからなあ」
「それは困る。だがじいちゃんには世話になったから、なんとかしてやりてえとは思うんだ」
昭郎が難しい顔をしながら、麦茶の入ったコップを両手でぎゅっと持つ。
「それは俺だってそうよ。健攘は再従兄弟だしなあ。……まあ手っ取り早いのは、あれの子を産ませる事だがな。それが上手くいかねえからこんな事になってんだ」
竹之助は麦茶をぐいっと飲み干し、ちゃぶ台に置いてあるボットを掴んでコップに注いだ。
「あれの母親がもっと産んどきゃあよかったもんを。……ん? なんならあの女にまた産ませればいいんじゃねえか? まだ産めるだろ?」
昭郎がニヤリといやらしい笑みを浮かべた。
「無理だ。あの女、あれを産んだ後、子宮を取っちまったんだ。病気とか言ってたが実際はどうだか」
「初耳だぞ、それ」
昇が驚き声を出す。
「そりゃあそこら辺の事は言えんさ。目付と家以外は知らせんわ。この話だって、ばあさんの方とのやり取りで発覚したんだ。あの女が言うわけねえ」
はあ、と大きな溜息を吐いてから竹之助は立ち上がった。
「俺らも今日はお開きにするで。そんでもう少し時間かけて考えるしかねえ」
「そうだな」
「ああ」
昇と昭郎も頷いて立ち上がり、帰って行った。
竹之助はまた畳に座り、麦茶を飲む。
「はあ……。健攘も潔癖というか融通がきかんというか。はあ……。離れに入れたらお前が一番後悔するんだぞ。しかもお山の子らしい。そんないい血の子を……なあ。はあ……」
溜息が止まらない竹之助はまた麦茶を飲んで、何度目かわからない溜息を吐いた。




