二十
家に向かう坂を上がっていると、玄関前でうろうろとしているののかが見えた。ののかは祖父達の姿を見るとマズいという顔をしたが、祖父達の後から出てきた清把を見るとほっとした表情に変わった。清把はののかの元へ走り出した。
「清把ちゃん! あ……」
「ごめんののかちゃん! 黙って抜け出して、本当にごめんなさい!」
清把は何か言おうとしたののかの言葉を遮って、ののかに頭を下げて謝罪した。
「きっ、清把ちゃん!?」
いきなり頭を下げられたののかは慌てるが、すぐに頭を上げた清把の顔を見ると、何かを察した様ですぐに顔を変えた。
「もうっ、清把ちゃん! 私、怒ってるよ! トイレから戻って来たら清把ちゃんが何処にもいないんだもん! すっごく心配したんだから!」
「ごめんね、ののかちゃん」
清把は項垂れてまた謝った。
「ののか、もういい。早く家に入れ」
二人の背後で様子を見ていた健一が言う。
「わかった。でももうちょっとお説教してから入るよ。清把ちゃん、これで何回目かわかってるの?」
「ごめんなさい……」
清把はまた謝る。
「まあほどほどにしとけ」
健一はそう言い、後の二人も同じ様な顔で母屋に入って行った。
三人が母屋に入ったのを確認し、それでも念の為、母屋から少し離れた。
「清把ちゃん、何処行ってたの!? 帰って来たら誰もいないからすっごく心配したんだよ!? 携帯にかけても全然反応ないし……」
ののかは怒り半分、心配半分といった感じの声だった。
「うん、本当にごめん。ちょっと、ね」
何処に行って何をしていたかはののかには言えないので、曖昧に濁すしかない。
「でもよかったよ、ののかちゃんが怒られないで」
「んっ! ……それは……私もごめん」
ののかがきまり悪そうに謝る。
「いいよ、別に」
清把とののかはお互い顔を見合わせて苦笑した。
この話はこれでお終いだ。
「あ、でも清把ちゃん、兄ちゃん達と帰って来たけど、それって……」
またなんかやらかしたの? という目でののかは清把を見る。
「んっ、ははっ……。まあ、ちょっと、ね」
清把はののかから視線を逸らして答えた。本当の事など簡単に言えない。向かいの家で修羅場になってました、なんて。
「はあ……。清把ちゃん、気をつけなよ。父さんや祖父ちゃんが本気で怒ったらほんっっっとうに怖いからね」
「うん、気をつける」
清把は真面目な顔をして頷くが、その片鱗はついさっき身をもって体験してきたばかりだからよくわかる。
「よしっ! じゃあもうこの話はお終い。家に入ろ。もうすぐご飯になるよ」
「うん」
二人は仲良く母屋へと入って行ったが、清把は玄関の引き戸を閉めながら瑣高の家の方をちらりと見た。
(瑣高君……)
今すぐにでも傍に行って、もっと沢山話したい。
(瑣高君、大好きだよ)
瑣高へ募る想いを清把はもう止められない。止める気も無くなった。




