十
お盆が終わってお母さんは先に帰った。
私は夏休みギリギリまで田舎にいる。
あと二週間近くはこっちだ。
こっちの方が家より涼しいし、あいつもいない。何より汞君がすぐ近くにいる。
まあ、会えないけれど。
でも昨日、佳奈恵さんから連絡が来た。
汞君の家に行ける事になった。
ただやっぱり汞君のお母さんは最初は拒否したそうだけど、『流澤の子』だという事を言ったらあっさりOKが出たらしい。
でも佳奈恵さん曰く、流澤の名を出した時の汞君のお母さんの様子が変だったから気をつけてほしいと言われた。
それを聞いてやっぱりそうかと思った。
これでお祖父ちゃん家と汞君の家は何か因縁があるんだろう事が確定した。
毎年毎年田舎に来ては、どんな因縁、理由があるのか調べてみても全くわからなかった。蔵を調べても、その類いの資料は何も無かった。……お母さんの残念なテストの答案用紙は見つかったけど。国語は私より悪いようだった。
まあ、そういう古新聞や雑誌があった程度で、あとは普段使わない大きな笊とかがあったぐらい。
やっぱり見つかったらまずいものは、手元とか絶対に安全な場所に隠しているんだろう。
じゃあ自分の足で捜せばいいかと適当に歩き回っていたら、今まで誰もいなかったのに、気づけば何処からともなく人が来て、そっちに行くな、どこの者だと詰問されて最後には伯父さんやお祖父ちゃんに怒られた。ただそのおかげで、今はもう不審者扱いはされなくなった。いや、身元がわかる不審者になっただけだけど。
なので結果としては何もわからない、だ。
けどやっと今回、うちと汞君の家の関係がわかる。いい関係じゃないのはわかってるけど。多分私は知らなくていい事なんだろうけど。
でも私はもう汞君と知り合って、交流して、六年近く経つ。無関係ではいられない。
それに……私はもっともっと汞君の事を知りたい。汞君の事が好き、だから。
汞君だって、私の事を好きなはず、だから。
あんなモデル顔負けの汞君なのに、仲良くしている人は私だけだから。
…………なんて思ってた頃も少しあったけど、現実は違う。汞君が私に付き合ってくれるのは、何かあってもいい家の子だからだ。だってそうじゃなきゃ、汞君は付き合わない。他人に『何か』を撒き散らさないために、汞君は普通の人付き合いをしないんだから。
そんな汞君が私と『だけ』、付き合ってくれるのは『何か』をばら撒いてもいい相手だから。もちろんそれは私も理解した上で汞君の近くにいるわけだから。それに、もし私に『何か』が起こって、何かあった場合、きっと汞君は責任を感じる。そうすれば、汞君の心の中に長く私はいられると思ってたから。
でも、因縁のある家の子に何かあっても喜びはしても悲しむことはないだろう。
私は母屋の縁側に座り、コッコと時折り聞こえる鶏の鳴き声を耳にしながら汞君の家の方角を眺める。今日もいい天気で、時々そよ風が吹いて気持ちいい。
佳奈恵さんが来るのは明後日。
明後日の私は何をしているかはわからない。
私があんまりにもひょいひょいと出かけるから最近はよく留守番をしてろと言われる。今もそうだ。伯父さん達は留守番がいると、誰かが留守番しなくていいから心置きなく仕事に行け、かつ私を外出させないですむから一石二鳥だ。
佳奈恵さんからは着いたら連絡する、こっちに来る時は連絡して欲しい、そうしたら汞君のお母さんが迎えに行くって言ってた。
とりあえず明後日の事は明後日になんとかするしかない。
「汞君……逢いたいよ」
私はただただ、汞君を想いながら、汞君の家の方を見つめていた。




