第四十六章 生きている者
雨は、まだ降り続いていた。
木の杖が地面に落ちる音が、一つ、また一つ。
門の前に立つ老人が顔を上げた。
沈砚ではなく。
沈懐山を見る。
「二十三年」
「まだ生きていたか」
沈懐山は机に手をついたまま答えた。
「お前も生きていたか」
老人は笑った。
「当然だ」
「死んだら、誰があいつらの帳簿を覚えている?」
沈砚は、老人の手にある銅の指輪を見る。
「お前が南平令か?」
老人はようやく沈砚を見る。
「今は、もう違う」
「当時は?」
「そうだ」
その一言が落ちる。
部屋にいる全員が、静まり返った。
沈砚は刀を抜かなかった。
ただ尋ねる。
「二十三年前、船を焼けと命じたのはお前か?」
老人はすぐには答えなかった。
「私が命じたのは、南平の船着き場を封鎖することだ」
「火をつけたのは私自身ではない」
「だが、誰かが火をつけることは分かっていた」
沈砚の目が鋭くなる。
「つまり、認めるのか?」
「認める」
老人は門の脇に腰を下ろした。
「当時、河運司の中はすでに乱れていた」
「人を密かに運ぶ者がいた」
「戸籍を偽造する者がいた」
「子供を金に換える者までいた」
「私は、それを調べていた」
「それで?」
「そして気づいた」
老人は雨の向こうを見る。
「すべてを明るみに出せば、巻き込まれる人間が多すぎる」
「だから当時の私は考えた」
「大多数を守れるなら、少数を犠牲にしてもいいと」
沈砚が尋ねる。
「誰がお前に、そんな権利を与えた?」
老人は黙った。
「誰もいない」
「なら、何の権利があって他人の命を決めた?」
老人は答えない。
沈砚は続ける。
「誰を送り出していいのか」
「誰の名前を消していいのか」
「誰が死ぬべきなのか」
「何の権利があって決めた?」
老人が顔を上げる。
「当時の私は、南陵を救っているつもりだった」
沈砚は彼を見る。
長い沈黙のあと。
ようやく言った。
「当時、本当にそう思っていた可能性はあると思う」
老人が、わずかに目を見開いた。
沈砚は、それ以上責めなかった。
ただ終冊を机の上に置く。
「だが、その理由は受け入れない」
「なぜ間違えたのかを理解することと」
「その行為を許すことは、同じじゃない」
⸻
周明が突然、笑った。
「やっと、誰かがそれを言ったな」
南平令が彼を見る。
「お前もいたのか」
周明の顔は青白い。
「当然いる」
「当時死んだ人間を、お前だけが覚えていると思ったか?」
南平令は何も言わない。
周明はゆっくりと立ち上がる。
「十八歳の時」
「お前たちが船から人を連れ出すところを見た」
「俺は何もしなかった」
「黙っていれば、妹を助けてやると言われたからだ」
「後になって知った」
「妹の名前も、変えられていた」
南平令が低い声で言う。
「それは私がやったことではない」
「だが、知っていた」
周明は彼を見る。
「知っていたのに」
「止めなかった」
南平令は目を閉じた。
「そうだ」
それが。
二十三年ぶりに、彼が初めて認めたことだった。
言い訳もない。
責任転嫁もない。
⸻
沈砚は終冊を開く。
「ここには十二人いる」
「だが、一つ問題が残っている」
「蘇河は?」
南平令は、その二文字を見る。
「船の上では死んでいない」
「それは知っている」
「その後、彼は私を訪ねてきた」
「帳簿を私の机に置いた」
「すべてを公表するなら、証拠を渡すと言った」
沈砚が尋ねる。
「約束したのか?」
「しなかった」
「なぜ?」
南平令は長い間、黙っていた。
「その時には、もう分かっていた」
「帳簿を公開すれば、河運の仕組みそのものが崩れる」
沈砚が冷たく言う。
「だから、焼いたのか?」
「私は、全員を黙らせることを選んだ」
「蘇河も?」
「含まれる」
「沈知遥も?」
「含まれる」
「二人の子供も?」
老人は答えなかった。
沈砚には、それだけで十分だった。
本当に彼を黙らせていたのは、罪悪感ではない。
自分の行為を、もう「大局のため」という言葉では説明できなくなったことだった。
あの二人の子供は。
誰も脅かしていない。
ただ、生きていただけなのだから。
⸻
「火をつけたのは誰だ?」
南平令が顔を上げる。
「趙六だ」
沈砚は一瞬、固まった。
「趙六?」
「二十三年前の彼は、人殺しではなかった」
「ただの荷運びの雑役だった」
「誰かが彼に言った」
「船には帳簿が隠されている」
「船を焼けば、誰も困らない、と」
沈砚は二十三年前の事件を思い出した。
そして、今はもう死んでいる趙六を。
つまり、最初から。
彼らは、すでに死んだ人間を追っていた。
だが趙六も、最初の人間ではなかった。
彼もまた、最後に命令を実行した者の一人に過ぎない。
沈砚が尋ねる。
「では、本当に命令を出したのは?」
南平令は沈砚を見る。
「私だ」
部屋が、完全に静まり返った。
⸻
門の外から突然、武器がぶつかる音が響いた。
灰衣の男が部屋へ飛び込んでくる。
「来た」
沈砚が振り返る。
「誰が?」
灰衣の男は南平令を見る。
「こいつの元部下だ」
「奴らは口封じのために、人を殺しに来た」
南平令の顔色が、初めて変わった。
「奴らは、もう私の部下ではない」
灰衣の男が冷たく笑う。
「今はな」
「奴らが欲しいのは、最後の名簿だけだ」
沈砚は終冊を閉じる。
「なら、入れればいい」
蘇晩晴が沈砚を見る。
「正気?」
沈砚は首を横に振った。
「違う」
「奪おうとするなら、この書類が本物だということだ」
「もう逃げる必要はない」
彼は終冊を秦重に渡す。
「預かってくれ」
秦重は頷く。
陳旺が刀を握り直す。
「俺は?」
沈砚を見る。
「門を守ってくれ」
「だが、殺すな」
陳旺が一瞬、戸惑う。
「もし中へ入ってきたら?」
沈砚は答えた。
「まず止めろ」
「止まらないなら、倒せ」
「生きているなら、生かしておけ」
陳旺はしばらく黙った。
そして頷いた。
「分かった」
⸻
十数人の黒衣の男たちが、庭へなだれ込んできた。
矢が屋内へ飛び込む。
灰衣の男が手を上げ、一本を弾き落とす。
陳旺はすでに外へ飛び出していた。
刀の峰を、男の手首へ叩きつける。
男が悲鳴を上げる。
武器が地面に落ちた。
陳旺は追撃しなかった。
ただ男を壁際へ蹴り飛ばす。
「動くな!」
別の男が秦重へ飛びかかる。
蘇晩晴が横から体当たりした。
二人は同時に倒れ込む。
彼女は相手の腕を掴む。
「まだ人を殺すつもり?」
男がもがく。
「放せ!」
「先に刀を捨てて!」
「うるさい!」
蘇晩晴は歯を食いしばった。
だが、刃を突き立てなかった。
ただ、相手の刀を思い切り蹴り飛ばす。
戦いは、十分も続かなかった。
庭には七、八人が倒れている。
だが、誰一人死んでいない。
沈砚は、その光景を見つめる。
そして、ふと思った。
これが、二十三年前との最大の違いなのだ。
二十三年前。
皆が言っていた。
「これしかない」と。
今は。
少なくとも別の方法を選ぶことができる。
⸻
最後の黒衣の男は、陳旺に地面へ押さえつけられていた。
それでも、まだもがいている。
「俺を捕まえることはできない!」
「なぜ?」
沈砚が近づく。
男は歯を食いしばる。
「俺は何もしていない!」
沈砚はしゃがみ込む。
「なら、役所に調べてもらえばいい」
「本当に何もしていないなら」
「ここにいるだけで罪にはならない」
男は呆然とした。
沈砚は立ち上がる。
「だが、何かしたのなら」
「死ねば終わると思うな」
「生きろ」
「知っていることを全部話せ」
「そして、自分のしたことの責任を取れ」
南平令が沈砚を見る。
ふいに尋ねた。
「私を殺さないのか?」
沈砚が振り返る。
「なぜ殺す?」
老人は沈砚を見る。
「私は多くの人間を殺した」
「だから?」
「私を憎まないのか?」
沈砚は少し黙った。
「憎んでいる」
南平令は、明らかにその答えを予想していなかった。
沈砚は続ける。
「だが」
「お前を憎むことと」
「お前を殺すことは、同じじゃない」
老人は俯いた。
それから初めて。
何も言わなくなった。
⸻
雨が止んだ。
空が白み始める。
沈砚は庭の門に立っていた。
遠くで、南平の川がゆっくりと流れている。
二十三年間の秘密には、ようやく名前がついた。
人がいた。
証拠もあった。
そして、ようやく追及できる責任もあった。
だが。
まだ一つだけ、解決していないことがある。
蘇晩晴が背後に立つ。
「沈砚」
「ん?」
「もし、これから誰かが私に」
「私は蘇晩晴と呼ばれるべきじゃない、と言ったら」
沈砚が振り返る。
彼女は彼を見る。
「あなたなら、何て言う?」
沈砚は長い間、考えた。
そして答える。
「自分で決めればいい」
蘇晩晴は笑った。
「それなら、よかった」
彼女は手の中の七水銅片を見る。
「だって、今度は」
「自分で選びたいから」
遠くから。
最初の鶏鳴が聞こえた。
その時。
秦重が突然、屋内から駆け出してきた。
手には、あの終冊。
顔は青ざめている。
「沈砚」
「まだ一頁ある」
沈砚が振り返る。
秦重は巻物を最後まで開いた。
焼け落ちたはずの場所。
その火痕の下に。
一行の小さな文字が残っていた。
たった七文字。
「真正的第八个人,未死。」
沈砚は、その七文字を見つめた。
何も言わない。
なぜなら。
彼は突然、気づいたからだ。
そこに記されている名は。
南平令でもない。
沈懐川でもない。
そして――
沈知遥だった。




