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河灯未明  作者: 亀


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第四十四章 最後の名簿

門にあの顔が現れた瞬間。


沈砚は、息をすることさえ忘れそうになった。


あまりにも、父親に似ていた。


肖像画で見るような、ただの顔立ちの類似ではない。


眉も、目も、鼻筋も。


話す時に、わずかに顎を上げる癖まで。


沈懐川に、あまりにもよく似ている。


だが、この老人は明らかに父親よりも年上だった。


こめかみは真っ白で。


左目の下には、深い傷跡が一本走っている。


沈砚は、刀を握った手を下ろさなかった。


「お前は誰だ?」


老人は沈砚を見る。


「お前の父親の兄だ」


部屋にいた全員が、言葉を失った。


沈砚は、父親からそんな人物の話を一度も聞いたことがない。


「沈懐山」


老人は自分の名を告げた。


「二十三年前、私は死人として登録された」


沈砚は彼を見つめる。


「なぜ?」


「死人のほうが都合がいいからだ」


沈懐山が部屋の中へ入る。


外にいた黒衣の者たちは、中へ入ってこなかった。


「死人なら、説明する必要がない」


「死人なら、誰も調べない」


「死人なら、誰にも追及されない」


沈砚が冷たく言う。


「だから、ずっと生きていたのか?」


「そうだ」


「なぜ姿を現さなかった?」


沈懐山は木箱を見る。


「私が姿を現せば」


「死ぬのは、私一人では済まなかったからだ」


⸻


沈知遥は現れなかった。


灰衣の男も姿を見せない。


この瞬間、部屋にいるのは彼らだけだった。


沈砚が尋ねる。


「二十三年前に何があったのか、知っているのか?」


沈懐山は頷いた。


「知っている」


「なら、なぜ話さなかった?」


「当時、話せば二人の子供が死んでいた」


沈砚は黙った。


「今は?」


沈懐山は沈砚を見る。


「もう、十分すぎるほど人が死んだ」


「これ以上黙っていても、意味がない」


その言葉に。


秦重は俯いた。


二十三年。


死んだ者は、あまりにも多い。


河の上で死んだ者。


火の中で死んだ者。


そして、生きていながら二十三年間、秘密を背負い続けた者。


⸻


沈砚は、あの古い名簿を取り出した。


「ここには書いてある」


「一人の大人を送り出さなければならなかった、と」


「誰だ?」


沈懐山は名簿を見る。


「私だ」


沈砚は息を呑んだ。


「あなたが?」


「正確には」


沈懐山は言った。


「当時の私だ」


「どういう意味だ?」


「二十三年前、河運司の人間が密かに人を運んでいることを知った」


「名前は登録しない」


「番号だけを記録する」


「七号旗も、その一つだった」


沈砚は彼を見る。


「なぜ人を運んでいた?」


沈懐山はしばらく黙った。


「逃亡した罪人もいた」


「借金を抱えた者もいた」


「そして……」


そこで言葉を止める。


「売られた子供もいた」


蘇晩晴の顔が青ざめる。


沈懐山は彼女を見なかった。


「二十三年前」


「その中に、一つの身分がある事件とつながっていることが分かった」


「誰かが、その事実を隠そうとした」


「だから記録を書き換え始めた」


「死亡記録を変え」


「名前を変え」


「船に乗った人数まで変えた」


「最後には、生きている者まで死人として記録された」


沈砚が尋ねる。


「沈知遥は?」


「彼女は気づいた」


「だから、殺されなければならなかったのか?」


沈懐山は首を横に振った。


「本来なら、死ぬはずではなかった」


「彼女自身が、残ることを選んだ」


⸻


蘇晩晴が突然、口を開いた。


「どうして残ったの?」


沈懐山は彼女を見る。


「彼女は知っていた」


「自分が行けば」


「二人の子供が、どちらも生きられないことを」


「だから残った」


「自分が焼死したと思わせるために」


蘇晩晴の手が、ゆっくりと握り締められる。


「じゃあ、私は?」


沈懐山は、すぐには答えなかった。


「お前は、彼女が救おうとした者の一人だ」


「一人?」


蘇晩晴が呆然とする。


沈懐山は頷いた。


「もう一人いる」


沈砚が彼を見る。


「俺?」


「そうだ」


沈懐山は言った。


「お前たち二人とも、沈懐川の実の子ではない」


沈砚の胸に、昨日のような激しい衝撃はなかった。


ただ尋ねる。


「じゃあ、俺の実の両親は誰だ?」


沈懐山は黙った。


長い沈黙のあと。


口を開く。


「お前の父親だ」


沈砚が眉をひそめる。


「さっき、あなたは……」


「沈懐川のことではない」


沈懐山が低い声で言った。


「お前の実の父親だ」


「彼も、あの船に乗っていた」


「そして、死んだ」


沈砚は何も言わなかった。


その答えは、かえって話を複雑にした。


沈懐山は続ける。


「お前の母親も死んだ」


「二人とも、河運による人身売買事件の被害者だった」


「当時の沈懐川は、ただ事件を調べていた若い書吏だった」


「全員を救うことはできなかった」


「だから、二人の子供を残すことを選んだ」


⸻


陳旺が突然尋ねた。


「じゃあ、周明は?」


沈懐山が彼を見る。


「周明は生きている」


「それは知っている」


「だが、彼は第八の人間ではない」


「じゃあ、何なんだ?」


沈懐山は少し黙った。


「証人だ」


「そして、共犯でもある」


陳旺が固まる。


「共犯?」


「船の上で、人が送り出されていることを知っていた」


「だが、止めなかった」


「従えば、自分の妹を守れると思っていたからだ」


陳旺の顔色が変わる。


「妹?」


沈懐山は頷いた。


「周明には、妹がいた」


陳旺は呆然とする。


「俺は、そんなこと一度も……」


「知らないのは当然だ」


「彼女も、名前を変えたからだ」


蘇晩晴が突然、顔を上げる。


「名前は?」


沈懐山は彼女を見る。


「周娘子」


部屋の中が、一瞬で静まり返った。


秦重が勢いよく立ち上がる。


「そんなはずがない」


沈懐山が彼を見る。


「なぜ、そう思う?」


秦重の声は震えていた。


「周娘子は周明より年上だ」


「それに……」


「もう死んだはずだ」


沈懐山は首を横に振った。


「死んだのは、彼女ではない」


秦重は完全に動きを止めた。


沈砚は、ようやく理解した。


なぜ周娘子は、あの言葉を残したのか。


「私が善人だと証明しようとするな」


なぜ彼女は、あれほど死者に名前を残すことに執着したのか。


なぜなら。


彼女自身が。


名前を変えられた人間だったからだ。


⸻


沈砚は、突然もう一つの疑問に気づいた。


「では、本当の周娘子は?」


沈懐山は答えなかった。


彼は木箱の前まで歩く。


そして最後の書類を取り出した。


表紙には、二文字だけ。


「終冊」


「これが、あの時の本当の名簿だ」


沈砚は受け取った。


最初の頁を開く。


そこにあったのは、七人でも。


八人でもなかった。


――十二人。


十二の名前。


六人の大人。


四人の子供。


そして、名前のない二人。


沈砚は一枚ずつ頁をめくっていく。


そのうちの一つの名前で、手が止まった。


蘇河。


その横には。


「死亡」


二つ目。


沈知遥。


その横には。


「失踪」


三つ目。


周明。


だが、その横に書かれていたのは。


たった二文字だった。


「待帰」


陳旺がそれを見た瞬間。


顔色を変えた。


「待帰?」


沈懐山は頷く。


「だから、二十三年後になっても」


「彼を探し続ける者がいる」


沈砚はさらに頁をめくった。


最後の頁。


そこには、名前のない二人。


一人目。


「女、八歳前後」


二人目。


「男、八歳前後」


その横に、一行の注記があった。


「二人の身分を入れ替える」


沈砚の手が止まった。


蘇晩晴も、それを見ていた。


何も言わない。


沈砚はゆっくりと顔を上げる。


「つまり……」


「俺たち二人は」


沈懐山が頷いた。


「お前たちは、あの日」


「身分を入れ替えた」


「だが、誰かを騙すためではない」


「二人とも生き残るためだった」


⸻


外から突然、馬蹄の音が響いた。


沈懐山の顔色が変わる。


「来た」


沈砚が尋ねる。


「誰が?」


「この名簿を本当に握っている者だ」


「誰だ?」


沈懐山は答えなかった。


ただ最後の頁を破り取った。


そして沈砚に渡す。


「覚えておけ」


「誰かがお前に、自分の身分を教えたとしても」


「誰も信じるな」


「私も含めてだ」


沈砚は紙を受け取った。


「なぜ?」


沈懐山は沈砚を見る。


「二十三年前」


「私も、一つ間違えた」


「何を?」


「一人の子供を、船に乗せた」


沈砚の顔が変わる。


「誰を?」


沈懐山は答えなかった。


その瞬間。


扉が突然、叩き破られた。


一本の矢が飛び込んでくる。


沈懐山が手を伸ばす。


沈砚を突き飛ばした。


矢が彼の肩をかすめる。


鮮血が、一瞬で衣服を赤く染めた。


陳旺が刀を抜いて外へ飛び出す。


秦重は蘇晩晴を庇った。


沈砚が振り返る。


「大丈夫か?」


沈懐山は歯を食いしばった。


「行け!」


「あなたは?」


「私は行けない」


「なぜ?」


沈懐山は沈砚を見る。


その顔に、初めて疲労が浮かんだ。


「奴らが本当に探しているのは」


「お前じゃない」


沈砚が固まる。


沈懐山は蘇晩晴を指差した。


「彼女だ」


蘇晩晴の顔色が変わった。


その時。


門の外から、聞き覚えのある声が響いた。


「沈知遥」


「出てこい」


「お前がまだここにいることは分かっている」


沈砚が勢いよく振り返る。


沈知遥?


だが、彼女はここにいない。


次の瞬間。


沈懐山が笑った。


「やっと来たか」


壁の向こうから。


ゆっくりと、一人の人影が現れた。


沈知遥ではない。


右手首に赤い糸を巻いた女。


女は斗笠を外した。


沈砚を見る。


それから、蘇晩晴を見る。


そして静かに言った。


「二十三年よ」


「もう、本当の名前を返す時が来た」


蘇晩晴はその場に立っていた。


後ずさりはしない。


ただ尋ねた。


「私の名前は、いったい誰のものなの?」


女は答えなかった。


沈懐山を見る。


「あなたから話して」


沈懐山は長い間、黙っていた。


そして、ようやく口を開いた。


「蘇晩晴という名前は……」


「もともと、すでに死んだ子供のものだった」


蘇晩晴は目を閉じた。


泣きはしなかった。


ただ、小さな声で尋ねる。


「じゃあ、私は?」


沈懐山は彼女を見る。


「お前の元の名前は――」


その時。


門の外から、突然、激しい馬蹄の音が響いた。


一人の男が馬を走らせて庭へ飛び込んでくる。


馬から飛び降りた。


周明だった。


全身、血まみれ。


手には、半分焼けた巻物を握っている。


彼は沈砚を見る。


そして、ただ一言だけ言った。


「最後まで言わせるな」


「本当の真相は、名前の中にはない」


「火事が起きる前にある」

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