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河灯未明  作者: 亀


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第四章 第七埠頭

翌朝、まだ空が明るくなる前に、沈硯は河辺へ向かった。


七番埠頭は、ほかの埠頭よりも人目につきにくい場所にある。


もともと旅客船が停泊する場所ではなく、木材の積み下ろしだけに使われていた。


城壁に近く、流れも速い。


そのため、夜が明けたばかりの時間帯には、ほとんど人の姿がなかった。


沈硯は埠頭の端に立っていた。


その隣では、周成がしゃがみ込み、川面を眺めている。


「ここが、昨日の子供が言っていた場所ですか?」


「ああ」


「ですが、何もありません」


「だから見るんだ」


沈硯は河岸を指差した。


「誰かがここで船に乗り降りしたなら、何かしら痕跡が残る」


周成は辺りを見回した。


「昨日は雨でした」


「だからこそ、痕跡は残りやすい。……同時に、流されやすくもある」


「それじゃあ、どうやって探すんです?」


沈硯は答えなかった。


ただ、川面へ目を向けた。


川は増水していた。


何枚かの木板が、水の流れに揺られながら、軽くぶつかり合っている。


そのときだった。


沈硯の目に一本の縄が入った。


縄の一端は杭に結ばれている。


もう一端は、水の中へ沈んでいた。


「引き上げろ」


二人の差役が力を合わせる。


縄はゆっくりと水面から姿を現した。


その先には――


小さな木箱が結びつけられていた。


木箱は水を吸って黒ずんでいる。


蓋には、刃物で切りつけたような傷が一本残っていた。


周成が木箱を見た。


「これは……何でしょう?」


「分からない」


沈硯はすぐには蓋を開けなかった。


「許仵作を呼べ」


「ただの木箱ですよ? 仵作まで呼ぶんですか?」


「箱を調べるためじゃない」


沈硯は川面を見つめた。


「水を見てもらう」


周成は、ますます困惑した顔をした。


「水……ですか?」


「そうだ」


⸻


半刻ほどして、許仵作がやって来た。


沈硯の頼みを聞くと、眉をひそめながら河岸にしゃがみ込む。


「何を知りたい?」


「この箱が、いつ頃水に落ちたのか」


「正確には分からんぞ」


「おおよその時間でいい」


許仵作はしばらく黙って木箱を調べた。


それから縄の色にも目を向ける。


「木が水に浸かっていた時間は、それほど長くない」


「どれくらいだ?」


「長くても二、三日だろう」


沈硯は頷いた。


「趙六が死んだ時期と近いな」


周成が尋ねる。


「開けますか?」


沈硯は答えず、箱の蓋に残った刃物の傷を見つめた。


傷は新しい。


しかも、一度だけ斬りつけたようだった。


「誰かが開けようとした」


「ですが、開けられなかった」


「ああ」


沈硯が手を伸ばす。


「こじ開けろ」


木箱が開いた瞬間。


中から生臭い匂いが一気に漂ってきた。


中に入っていたのは、金銀でも武器でもなかった。


古びた服が一着。


そして――


子供用の靴が一足。


周成の顔色が変わった。


「子供のものですか?」


沈硯は答えなかった。


靴を手に取る。


靴底には泥が付着していた。


その泥には、白い粉のようなものが混じっている。


「これは、河辺の泥じゃない」


許仵作が言った。


「石灰のようだ」


沈硯が顔を上げる。


「城内に石灰を扱っている場所は?」


周成がすぐに答えた。


「城南に三軒あります」


「調べろ」


「今からですか?」


「今すぐだ」


⸻


その頃。


蘇晩晴は医館の入口で朝食を取っていた。


目の前にあるのは、粥が一杯だけ。


まだ二口ほどしか食べていない。


そのとき、一人の小さな女の子が街角から駆けてきた。


「お姉ちゃん」


蘇晩晴が顔を上げる。


「どうしたの?」


少女は何かを彼女の手に押し込むと、そのまま振り返って走り去った。


蘇晩晴は手の中のものを開く。


小さな木の玉だった。


表面には、歪んだ傷が一本刻まれている。


それを見つめた瞬間。


蘇晩晴の顔色が、ゆっくりと変わった。


彼女は、この木の玉を知っていた。


三日前。


あの見知らぬ船室で見たものだ。


そのとき、あの十二歳の子供は彼女の向かいに座っていた。


少年はずっと、木の玉を連ねた数珠を握りしめていた。


その中の一つが――


まさにこれと同じだった。


蘇晩晴は立ち上がった。


「待って!」


だが、少女はすでに遠くへ走り去っている。


蘇晩晴は数歩追いかけた。


そして、突然足を止めた。


街角に、一人の男が立っていたからだ。


灰色の長衣。


頭には斗笠。


男は蘇晩晴を一瞥すると、そのまま身を翻し、路地の中へ消えていった。


蘇晩晴は追わなかった。


追いつけないと分かっていたからだ。


それ以上に――


あの男が、わざと自分に姿を見せたのかどうか。


それすら分からなかった。


⸻


正午。


沈硯が府衙へ戻ってきた。


三つの石灰窯はすべて調べ終わっていた。


そのうち一軒では、昨夜、石灰を一車分売っていた。


店主によれば、買った者はいた。


だが、誰だったのかは分からない。


「調べはついたか?」


沈硯が尋ねる。


周成は首を横に振った。


「相手は偽名を使っていました」


「荷はどこへ運ばれた?」


「城西です」


沈硯は眉をひそめる。


「城西のどこだ?」


周成が住所を書いた紙を差し出した。


沈硯は一目見る。


そして、黙り込んだ。


そこは――


趙六の住んでいた場所から、半里も離れていなかった。


「行くぞ」


⸻


城西の石灰窯の裏手に、一軒の廃倉庫があった。


扉の錠は壊れている。


中には埃が積もっていた。


周成が中へ入ると、すぐに声を上げた。


「大人!」


沈硯が中へ入る。


床には、いくつもの足跡が残っていた。


その近くには、途中で切れた麻縄が一本。


壁際には、古びた木桶が置かれている。


桶の中には水が入っていた。


すでに腐って、ひどい臭いを放っている。


そして、一番奥には――


小さな寝台が置かれていた。


幅は狭い。


まるで子供が眠るためだけに作られたようだった。


沈硯は寝台の前に立った。


何も言わない。


そのとき、周成が突然口を開いた。


「大人」


「何だ?」


「これを」


寝台の下。


そこには、一つの刻み跡があった。


文字ではない。


単純な図柄だった。


七本の短い線が、半円を描くように並んでいる。


沈硯はゆっくりとしゃがみ込んだ。


指先を、その図柄の上へ伸ばす。


だが、触れることはなかった。


――青い布にあったものと同じだ。


今度ばかりは。


沈硯も、それを偶然だとは考えられなかった。


⸻


その夜。


沈硯は再び蘇晩晴と会った。


場所は府衙ではない。


一軒の茶楼だった。


沈硯は差役を連れていなかった。


蘇晩晴も一人だった。


二人は一枚の卓を挟んで向かい合う。


沈硯は青い布を卓上に置いた。


蘇晩晴が一目見る。


「何か分かったの?」


「まだだ」


「それなのに、どうして私を呼んだの?」


「一つ、見つけたものがある」


沈硯は一枚の紙を差し出した。


そこには、七本の短い線が描かれている。


蘇晩晴はそれを見た瞬間。


指先を、ほんのわずかに震わせた。


「……見たことがあるな」


「どこで?」


「趙六の家だ」


蘇晩晴は黙った。


「もう一カ所ある」


沈硯が彼女を見る。


「一人の子供が閉じ込められていた可能性のある場所だ」


彼女が顔を上げる。


「……あの子?」


「まだ断定はできない」


「どこにいるの?」


「分からない」


「それなのに、どうして私に話すの?」


沈硯はすぐには答えなかった。


長い沈黙のあと。


ようやく口を開く。


「お前は、この図柄を知っている」


「そして俺は、これが何なのか知らない」


蘇晩晴は沈硯を見つめた。


それが――


二人にとって、初めての本当の意味での協力だった。


信頼ではない。


ただ、互いに情報を交換する。


それだけだ。


「この図柄……」


蘇晩晴が低い声で言った。


「七水紋って呼ばれている」


「どういう意味だ?」


「分からない」


「見たことがあるのか?」


「子供の頃に」


「誰に教えられた?」


「一人の女の人」


沈硯の目つきが鋭くなる。


「誰だ?」


蘇晩晴は首を横に振った。


「名前は知らない」


「どんな顔だった?」


「覚えていない」


「それなのに、どうしてこの図柄だけ覚えている?」


蘇晩晴は黙り込んだ。


そして、静かに言った。


「その人が死ぬ前に、ずっと私に一つのことを言い聞かせていたから」


沈硯は急かさなかった。


「何を?」


彼女は卓上の青い布を見つめた。


「第七の旗を持つ者を、決して信用するな」


沈硯は息を止めた。


「なぜだ?」


蘇晩晴は首を横に振った。


「それ以上は、何も言わなかった」


二人の間に沈黙が落ちる。


しばらくして、沈硯が尋ねた。


「今、お前は俺を信じているか?」


蘇晩晴は彼を見る。


「信じていない」


「それでいい」


「どうして?」


「俺も、お前を完全には信じていない」


蘇晩晴は、初めて小さく笑った。


ほんのわずかな笑みだった。


「じゃあ、私たちは今、何なの?」


沈硯は青い布をしまった。


「協力関係だ」


「いつまで?」


「真相が分かるまで」


「もし最後に、私が犯人だったら?」


沈硯は彼女を見つめた。


「捕らえる」


蘇晩晴は頷いた。


「分かった」


怒る様子はなかった。


むしろ、立ち上がった。


「じゃあ、協力しましょう」


彼女が振り返り、部屋を出ようとしたとき。


沈硯が突然、彼女を呼び止めた。


「蘇晩晴」


彼女が振り返る。


「あなたは、一体何を恐れている?」


蘇晩晴は答えなかった。


ただ、扉の前に立ったまま。


長い時間が過ぎてから、ようやく口を開いた。


「私は、彼らに殺されることを恐れているんじゃない」


「私は……」


彼女は一度言葉を止めた。


「彼らに、あの子を見つけられることが怖いの」


扉が閉じた。


沈硯は一人、茶楼に残された。


卓上の茶を見つめる。


そのとき初めて。


沈硯は思った。


この女が本当に気にかけているものは――


自分自身の生死ではないのかもしれない。


失踪した、あの子供なのだ。


⸻


同じ頃。


城西。


灯りのない馬車が、廃倉庫の前に停まった。


車簾が上がる。


一人の男が降りてきた。


男は倉庫の中には入らない。


ただ、入口から中を一瞥する。


そして尋ねた。


「見つかったか?」


隣にいた男が首を横に振る。


「まだです」


「子供は?」


「それも、まだ」


男は黙った。


「なら、引き続き探せ」


「もし先に官府が見つけたら?」


男は南陵府の方角へ目を向けた。


「なら、先に見つけさせろ」


隣の男が呆気に取られる。


「どういう意味です?」


男は答えなかった。


ただ振り返り、馬車へ乗り込む。


車輪が泥水を踏みしめる。


馬車はゆっくりと夜の闇へ消えていった。


だが――


廃倉庫の中。


子供用の寝台の下には。


まだ誰にも見つかっていない木箱があった。


その中には――


黄ばんだ一通の手紙。


そして、その差出人の名は。


たった三文字だった。


沈知遥。

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