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河灯未明  作者: 亀


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第三十七章 船の上の第八の人間

川辺の火は、すでに燃え上がっていた。


夜風が炎を水面へ押しつけ、船体から絶え間なく、ぱちぱちと音が響く。


「火を消せ!」


陳旺が真っ先に堤防を駆け下りた。


秦重が桶いっぱいの水を掴み、蘇晩晴もその後に続く。


だが沈砚は、ふと足を止めた。


船首を見る。


青い旗が炎の中で翻っている。


旗に書かれた「八」の字は、すでに半分が焼け落ちていた。


「船に近づくな!」


沈砚が叫ぶ。


陳旺が振り返る。


「なぜだ?」


「火が問題なんじゃない」


沈砚は船室を指差した。


「中に人がいるかもしれない」


全員が同時に足を止めた。


次の瞬間――


船室から、鈍い音が響いた。


誰かが木板にぶつかったような音。


「人がいる!」


蘇晩晴が船へ飛び乗ろうとする。


沈砚が咄嗟に彼女の腕を掴んだ。


「待て!」


「中に人がいる!」


「分かっている」


沈砚は彼女を見る。


「だからこそ、いきなり入るな」


蘇晩晴が手を振りほどく。


「じゃあ、どうするの?」


沈砚は答えなかった。


素早く周囲を見渡す。


船は半分ほど焼けている。


だが、火は船尾に集中していた。


船首には、まだ大きな炎がない。


「陳叔」


「いる」


「船をこっちへ寄せてくれ」


「秦重、俺と来い」


「晩晴、お前は岸に残れ」


蘇晩晴が沈砚を見る。


「私は行かないの?」


「行くなと言ってるわけじゃない」


沈砚は一度、言葉を止めた。


「今回は、別のことを頼みたい」


「何?」


「川面を見ていてくれ」


「火に紛れて逃げようとする奴がいたら、教えてくれ」


蘇晩晴は数秒、沈砚を見つめた。


やがて頷く。


「分かった」


今回は。


彼女は反論しなかった。


沈砚が自分を除外しているわけではない。


自分にも役割を与えているのだと、分かっていたからだ。


――


陳旺が長い鉤を船首に引っかける。


何人かで力を合わせ、船を岸へ引き寄せた。


沈砚が甲板へ足を踏み入れた瞬間。


足元から「カチッ」と音がした。


見下ろす。


木板の隙間から、一枚の銅の留め具が転がり出てきた。


七つの水紋。


だが、今回は。


「七」でもない。


「八」でもない。


ただ一本。


誰かが刻み込んだような横線だけがあった。


秦重がしゃがみ込む。


「これは……」


沈砚が拾い上げる。


銅の留め具の裏側には、さらに小さな文字が刻まれていた。


「送下船」


送り出して、船から降ろす。


沈砚の顔色が変わる。


二十三年前。


灰衣の男が言った言葉と同じだった。


――第八の人間は、消えたのではない。


――船から降ろされた。


まさか……。


これは今日になって初めて出てきた話ではないのか。


二十三年前から、すでに存在していたのか。


――


「中だ!」


陳旺が突然叫んだ。


船室の扉は、火で歪んでいる。


沈砚と秦重が同時に体当たりする。


扉が開く。


中に人はいなかった。


ただ、一つの木箱だけが置かれていた。


箱は半分ほど焼けている。


秦重がそれを引きずり出す。


沈砚が蓋を開ける。


中に入っていたのは、三つ。


古い衣服。


河運司の古い木札。


そして、水に浸かってしまった一冊の帳簿。


沈砚が開く。


前のほうは文字が滲んでいた。


だが、最後の数ページはまだ読める。


最初のページ。


そこには一文だけ。


「九月初六、七号船」


その下。


「役工六名」


「送行者二名」


沈砚が眉をひそめる。


「送行者?」


秦重がその文字を見る。


「船員じゃない」


「護送でもない」


「一時的に加えられた身分のようだ」


さらにめくる。


一行が墨で塗り潰されている。


その下に、かろうじて残っている文字。


「……一人留船……」


「……一人下船……」


陳旺の手が震え始めた。


「八人……」


沈砚は答えなかった。


さらにページをめくる。


最後のページ。


そこに初めて、完全な名前が現れた。


周明。


その隣には、日付。


九月初七。


陳旺が勢いよく沈砚の手首を掴んだ。


「これは、どういう意味だ?」


沈砚はそのページを見る。


「つまり……」


「少なくとも九月初七の時点で、周明には記録が残っていたということだ」


陳旺の目が、一瞬で赤くなる。


「じゃあ、本当に生きていたのか」


「少なくとも、これまでの記録だけで死んだと判断することは、もうできない」


――


その時。


川面から水音が聞こえた。


岸に立つ蘇晩晴。


「沈砚!」


沈砚がすぐに顔を上げる。


遠くに、一艘の小舟が見える。


南へ向かっている。


船には一人しか乗っていない。


笠をかぶっている。


蘇晩晴はすでに短刀を抜いていた。


「追う?」


沈砚はその船を見る。


すぐには答えなかった。


陳旺がすでに船を降りている。


「追うぞ!」


だが沈砚は彼を止めた。


「待て」


「なぜだ?」


「わざと俺たちに見せている」


陳旺が呆然とする。


沈砚は川面を指差した。


その人物は、速く漕いでいない。


むしろ。


異様なほど遅い。


まるで、こちらを待っているようだった。


蘇晩晴も気づく。


「私たちを誘っている」


「そうだ」


沈砚は帳簿を強く握る。


「それでも行く」


陳旺が彼を見る。


沈砚は言った。


「今の俺たちに必要なのは」


「あいつが何を教えようとしているのか、それを知ることだ」


――


小舟はやがて、南平の旧埠頭で止まった。


その人物は逃げなかった。


船首に立ったまま。


沈砚たちが近づくのを待っている。


陳旺が真っ先に船へ飛び乗った。


「周明!」


男は答えない。


ただ、ゆっくりと顔を上げた。


笠の下。


そこには、二十三年前よりはるかに歳月を重ねた顔があった。


陳旺は立ち尽くした。


まるで、体を杭で打ちつけられたように。


「本当に……お前なのか」


周明は彼を見る。


長い沈黙のあと。


ようやく言った。


「お前も老けたな」


陳旺の目から涙が落ちた。


「お前だって、老けたじゃないか」


周明が少し笑う。


「お前は来ないと思っていた」


陳旺の声は震えていた。


「二十三年間、お前を探した」


周明は首を振った。


「違う」


「お前は探していない」


陳旺の顔が固まる。


周明は彼を見る。


「お前は、俺がまだ生きていると知るのが怖かっただけだ」


その一言で。


陳旺は完全に黙り込んだ。


沈砚は二人を遮らなかった。


分かっていた。


これは事件を調べる人間が、代わりに清算できるものではない。


彼ら自身が向き合うべきものだった。


――


しばらくして。


陳旺が尋ねた。


「なぜだ?」


「なぜ戻ってこなかった?」


周明は川面を見る。


「戻れなかった」


「誰が戻らせなかった?」


周明は答えなかった。


ただ、逆に尋ねる。


「どこまで調べた?」


沈砚が答える。


「七号船まで」


周明が頷く。


「他には?」


「第八の人間」


周明の表情が、初めて変わった。


沈砚を見る。


「誰に聞いた?」


「お前は、沈懐川を知っているか?」


周明は黙った。


「知っている」


「父は何をした?」


「一人を救った」


沈砚の胸が締めつけられる。


「誰を?」


周明はすぐには答えなかった。


「もう、分かっているはずだ」


沈砚はそれ以上、聞かなかった。


なぜなら突然、思い出したからだ。


九月初六の戸籍記録。


名前のなかった、あの七歳の子供。


そして九月初七に突然現れた――


蘇晩晴。


――


蘇晩晴は船尾に立っていた。


ずっと黙っている。


だが周明は、突然彼女を見た。


長い間、その姿を見つめる。


「お前……」


蘇晩晴が眉をひそめる。


「私を知っているの?」


周明は答えない。


ゆっくりと懐に手を入れる。


取り出したのは、黒ずんだ古い銅牌だった。


七つの水紋。


その縁には、一箇所だけ欠けた跡がある。


蘇晩晴がそれを見た瞬間。


頭の中に、一つの光景がよみがえった。


炎。


川の水。


一人の女。


そして、一人の幼い少女。


少女が何かを彼女の手に押し込む。


そして言った。


「姉さんって呼ばないで」


蘇晩晴の顔が青ざめる。


「これは、誰の?」


周明が答える。


「お前の姉さんのものだ」


船上が一瞬で静まり返った。


沈砚が周明を見る。


「沈知遥?」


周明は首を振った。


「違う」


「じゃあ、誰だ?」


周明は蘇晩晴を見る。


「彼女は、お前に知られたくない」


蘇晩晴が一歩、前へ出る。


「なぜ?」


周明はしばらく黙った。


やがて言った。


「二十三年前」


「彼女は、お前の父親とまったく同じことをした」


蘇晩晴が呆然とする。


「何を?」


周明は沈砚を見る。


「彼女も、一人の人間の名前を変えた」


沈砚の胸が、大きく沈んだ。


周明は続ける。


「だから、お前たちはずっと探し方を間違えている」


「二十三年前、身分を変えられた子供は一人だけだと思っている」


「違う」


周明は銅牌を船板の上に置いた。


「あの夜」


「少なくとも二人の子供がいた」


「二人とも、名前を変えられた」


蘇晩晴は銅牌を睨みつける。


「もう一人は、誰?」


周明は答えなかった。


ただ、沈砚を見る。


「これが、お前の父親が最後まで教えなかったことだ」


沈砚は黙っていた。


川風が吹き抜ける。


銅牌が、船板の上でかすかに回転した。


その裏側に。


すり減ってほとんど見えなくなった二文字が現れる。


――沈七。


そして周明は、最後にこう言った。


「もう一人の子供が誰なのか知りたいなら」


「あの時、『蘇晩晴』という三文字を本当に書いた人間を探せ」


「なぜなら……」


周明は遠くを見た。


「そいつは、まだ生きている」

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