↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
河灯未明  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/51

第十八章 船の上の子供

白石横丁には、一晩中雨が降り続いていた。


翌朝。


沈硯は再び周婆の家を訪れた。


扉は開いていた。


周婆は軒下に座り、古びた衣服の山を整理している。


沈硯を見ると、驚いた様子もなく尋ねた。


「何か見つかったのかい?」


沈硯は単刀直入に言った。


「周明が残したものを見せてほしい」


周婆の手が止まった。


長い沈黙のあと。


彼女は尋ねた。


「どうして?」


「周明が、ある言葉を残していた」


「何て?」


沈硯は彼女を見る。


「母さん、船にはもう一人、子供がいる」


周婆は俯いた。


「知っている」


沈硯が目を見開く。


「知っていた?」


「本人から聞いた」


「いつ?」


「船が出る前だよ」


沈硯は眉を寄せる。


「出る前?」


周婆は頷いた。


「あの夜、あの子は忘れ物を取りに戻ってきた」


「船に、急に一人子供が増えたと言っていた」


「私は、どこの家の子なのか聞いた」


「でも、知らないと言っていた」


沈硯が尋ねる。


「周明は、その子を見たのか?」


「見た」


「何歳くらい?」


周婆は首を横に振る。


「よく見えなかったと言っていた」


「それなのに、どうして子供だと分かった?」


周婆は外を見た。


「ずっと泣いていたからだよ」


沈硯は、しばらく黙っていた。


「男の子か、女の子かは言っていた?」


「女の子だと言っていた」


部屋の空気が、一瞬で静まり返った。


沈硯の後ろに立つ蘇晩晴は、何も言わない。


だが、沈硯には分かった。


彼女の指が、わずかに強く握り締められている。


七歳の少女。


七号船。


八人。


九月初六。


また、すべての線が交わった。


だが、林秋娘はすでに言っている。


七号船にいた子供は、蘇晩晴ではない。


つまり、今分かっているのは。


二十三年前の七号船に、確かに七歳前後の少女がいたということだけ。


その少女が誰なのかまでは、まだ分からない。


沈硯が尋ねる。


「周明は、その子の名前を聞いたか?」


「聞いていない」


「誰が船に連れてきたのかは?」


周婆は首を横に振る。


「何も言っていない」


「なら、なぜそんなにはっきり覚えている?」


周婆は長い間、黙っていた。


そして、ようやく言った。


「帰ってきてから、あの子が初めて言ったんだよ」


「怖かった、って」


沈硯が顔を上げる。


周婆は彼を見る。


「私の息子は、水を怖がらなかった」


「死体も怖がらなかった」


「小さい頃から、ずっと川のそばで暮らしてきた」


「でも、あの夜だけは違った」


「あの子が、ずっと同じことを聞いてきたと言っていた」


沈硯が尋ねる。


「何を?」


周婆の唇が、わずかに動いた。


「その子は……」


「お兄ちゃん」


「私たち、死ぬの?」


沈硯は、それ以上何も言わなかった。


⸻


周婆が立ち上がった。


そして、奥の部屋へ入っていく。


しばらくして。


一つの布包みを抱えて戻ってきた。


机の上に置く。


布は硬くなっていた。


長い年月を経ていることが分かる。


周婆は、一枚ずつ布を開いていった。


中には、価値のあるものなど何もない。


歯の欠けた木櫛。


古びた銅銭が二枚。


破れた布靴が一足。


そして、短い麻縄が一本。


沈硯は、その麻縄を手に取った。


結び方が妙だった。


普通の結び目ではない。


三つの輪が連続している。


陳旺が一目見るなり、顔色を変えた。


「船の結び方だ」


沈硯が尋ねる。


「どういう意味だ?」


「荷物を固定するときに使う」


「なぜ周明が持っていた?」


陳旺は首を横に振った。


「荷物を固定するためじゃない」


彼は結び目に触れた。


「人を縛るためのものだ」


蘇晩晴が顔を上げる。


「本当に?」


「間違いない」


陳旺が言う。


「船員が人を縛るときは、逃げられないように手首のところをこう結ぶことがある」


沈硯は麻縄を見つめる。


「つまり、周明は縛られていた人間を見ていた?」


陳旺は、すぐには答えなかった。


麻縄を裏返す。


縄の中に、小さな白いものが挟まっていた。


石灰のように見える。


沈硯はすぐに気づいた。


「白石の粉だ」


陳旺が頷く。


「七号埠頭の近くに、こんな石はない」


秦重が麻縄を受け取る。


しばらく注意深く調べた。


「石灰じゃない」


「石灰窯の粉だ」


沈硯が尋ねる。


「城南か?」


秦重は頷いた。


「城南の古い窯場だ」


沈硯は、すぐには動かなかった。


ただ、その麻縄を見つめている。


そして突然、周婆に尋ねた。


「これは、いつ残された?」


「周明が船に出る前だよ」


「帰ってきた後じゃない?」


「違う」


周婆ははっきり答えた。


「出ていくとき、捨てないでくれって」


「私に預けていったんだ」


沈硯が顔を上げる。


「ということは……」


陳旺が言葉を引き取った。


「周明は七号船に乗る前から、誰かが縛られることを知っていた」


部屋の中が静まり返る。


これまでの判断が。


初めて、大きく覆された。


彼らは、周明が船に乗ってから子供の存在に気づいたと思っていた。


だが、今分かった。


船に乗る前から。


周明は、船に縛られた子供が現れることを知っていた。


ならば――


七号船の航海は、最初から偶然ではなかった。


誰かが、事前に仕組んでいたのだ。


⸻


周婆が突然言った。


「もう一つある」


彼女は戸棚の底から、小さな木製の笛を取り出した。


古びている。


表面には一本のひびが入っていた。


「これは周明のものだ」


陳旺が受け取る。


一目見た瞬間。


さらに顔色が悪くなった。


「これは、あいつのじゃない」


周婆が目を見開く。


「違う?」


「七号船にあったものだ」


陳旺は笛を机の上に置いた。


「船員は、それぞれ自分の笛を持っていた」


「周明のは銅製だった」


「これは木製だ」


沈硯が手に取る。


笛の底には。


ごく浅く、数字が刻まれている。


――七。


蘇晩晴が突然尋ねた。


「どうして、これが周婆さんのところにあるの?」


誰も答えなかった。


だが、周婆が突然何かを思い出した。


「周明は、一度戻ってきた」


「何?」


「あの夜だよ」


「家の中には入らなかった」


「門の前から、これを私に投げてよこした」


沈硯がすぐに尋ねる。


「何と言った?」


周婆は目を閉じ、長い間思い出そうとした。


「確か……」


「母さん、もし明日俺が戻らなかったら」


「これを河運司に渡してくれ」


沈硯の目が鋭くなる。


「渡したのか?」


周婆は首を横に振った。


「渡していない」


「なぜ?」


「次の日、本当にあの子が戻ってこなかったから」


「怖かったんだよ」


周婆は俯いた。


「河運司の人間も怖かった」


「これを持っている理由を聞かれるのも怖かった」


「だから、隠しておいた」


誰も彼女を責めなかった。


沈硯は笛を布袋にしまう。


「それでよかった」


周婆が顔を上げる。


沈硯は続けた。


「あのとき渡していたら、これすら残っていなかったかもしれない」


⸻


白石横丁を離れたあと。


四人はかなり長い距離を歩いた。


陳旺は、ずっと黙っていた。


橋のたもとまで来たところで。


ようやく足を止めた。


「思い出した」


沈硯が振り返る。


「何を?」


陳旺は川面を見つめる。


「あの夜だ」


「周明は、確かに俺に聞いてきた」


「何を?」


「船には、まだ誰かいるのかって」


沈硯が尋ねる。


「お前は何と答えた?」


「知らない、と」


「本当に知らなかったのか?」


陳旺は目を閉じる。


「あのとき、船倉から物音がしていたのは知っていた」


「だが、開けなかった」


「なぜ?」


「誰かに言われたんだ」


陳旺は一瞬、言葉を止めた。


「俺の知ったことじゃない、と」


沈硯は何も言わなかった。


その言葉は。


もう何度も聞いている。


俺の知ったことじゃない。


趙六が死んだときも、誰かがそう思った。


周明に何かが起きたときも、誰かがそう思った。


あの人たちが船に乗せられたときも。


誰かが、そう思った。


陳旺が低い声で続ける。


「後になって知った」


「あの夜、周明はこっそり一度、船倉を開けていた」


沈硯が尋ねる。


「何を見た?」


「子供だ」


「それだけ?」


陳旺は首を横に振る。


「あいつは何も教えてくれなかった」


「ただ、一言だけ言った」


「何て?」


陳旺は沈硯を見る。


「あの子は、一人じゃない」


⸻


雨は止んでいた。


橋の下を、川がゆっくりと流れていく。


蘇晩晴が突然尋ねた。


「どういう意味?」


陳旺は答えなかった。


沈硯はすでに考えていた。


縛られていた七歳の少女。


そのそばに、もう一人いる。


その人間は誰だ?


大人か?


もう一人の子供か?


それとも――


沈硯は突然、林秋娘の言葉を思い出した。


「蘇河の娘は七号船に乗っていない」


もし、それが本当なら。


七号船にいた少女は、蘇晩晴ではない。


では、なぜ何度も蘇晩晴と七号船が結びつけられるのか?


まさか――


あの頃、子供は二人いたのではないか。


一人は本当に船に乗った。


もう一人は、乗ったことにされた。


そして誰かが、意図的に皆に信じ込ませた。


蘇晩晴こそが、その子供だと。


そこまで考えたところで。


沈硯が突然、足を止めた。


「秦重」


「何だ?」


「お前が当時、義荘で見た少女」


「一人だけだったのか?」


秦重は黙った。


長い沈黙のあと。


答えた。


「私が見たのは、一人だけだ」


沈硯が尋ねる。


「本当に?」


秦重が顔を上げる。


「どういう意味だ?」


沈硯は彼を見る。


「もし七号船に、本当に二人の子供がいたとしたら」


「お前が義荘で見た少女は」


「そのうちの一人だったんじゃないか?」


秦重の顔から、少しずつ血の気が引いていった。


そして。


二十三年前の一場面が、突然、脳裏に蘇る。


あの夜明け前。


義荘の裏門。


誰かが、一人の少女を抱いて入ってきた。


少女は意識を失っていた。


手首には、縄の跡が残っていた。


そして。


その人間が背を向けて去っていくとき。


秦重は、ある言葉を聞いた。


当時は、自分の聞き間違いだと思っていた。


だが今。


その言葉が、はっきりと蘇った。


「もう一人は、先に送り出した」


秦重が、勢いよく顔を上げた。


「思い出した」


沈硯は彼を見る。


「何を?」


秦重の声は、低かった。


「あの夜……」


「運び込まれた子供は、一人じゃなかった」


「少なくとも――」


「私は、二人の子供の声を聞いていた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。