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河灯未明  作者: 亀


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第十一章 誰が彼を守るのか

夜明けが近づいた頃、雨が止んだ。


倉庫の外のぬかるんだ地面には、乱雑な足跡がいくつも残っている。


沈硯は一台の古びた馬車の中に座っていた。

左腕には、蘇晩晴が布を巻き直してくれた。


傷はそれほど深くない。


だが、血はすでに布を赤く染めていた。


「動かさないで」


蘇晩晴が彼の手を押さえる。


「動かしたら、傷口が開く」


沈硯は彼女を見る。


「包帯を巻けるのか?」


「できない」


「……」


「昔、他の人がやっているのを見たことがあるだけ」


沈硯はしばらく黙った。


「それでも、さっきのは上手かった」


蘇晩晴が顔を上げる。


「ただ布を巻いただけよ」


「それで上手いのか?」


「少なくとも、あなたの血は止まった」


沈硯は小さく笑った。


倉庫を出てから、二人が笑ったのは初めてだった。


だが、それもすぐに終わった。


馬車の隅では、あの十二歳の少年が身体を丸めている。


彼はずっと何も話さなかった。


倉庫を出てから、泣くこともなくなった。


ただ、沈硯の傷口をじっと見つめていた。


しばらくして。


少年が突然尋ねた。


「おじさん、僕のせいで怪我したの?」


沈硯は少年を見る。


「違う」


「あの人は、あのお姉さんを殺そうとした」


少年が蘇晩晴を指差す。


沈硯は頷いた。


「だから、俺が一度、間に入っただけだ」


少年は俯いた。


「どうして?」


「何が?」


「どうして、僕たちを助けるの?」


沈硯は答えなかった。


蘇晩晴も答えなかった。


しばらくして、沈硯が口を開く。


「もし、あの時、誰も前に出なかったら」


「お前も、彼女も死んでいた」


少年は顔を上げる。


「だから、助けたの?」


「うん」


「それで……よかったの?」


沈硯は少年を見つめた。


「分からない」


「でも、あの時は考えている時間がなかった」


少年は、それ以上何も聞かなかった。


⸻


馬車は府衙には戻らなかった。


向かったのは、城南にある古い屋敷だった。


そこには秦検視役が住んでいる。


沈硯が馬車を降りると、秦検視役がちょうど門の前に立っていた。


沈硯の腕を見ると、秦検視役は眉をひそめる。


「誰にやられた?」


「青袍の男だ」


秦検視役は、それ以上聞かなかった。


ただ門を開ける。


「中へ」


家の中はひどく散らかっていた。


薬箱、古びた衣服、検視道具の入った木箱が、すべて壁際に積まれている。


沈硯が腰を下ろす。


秦検視役が、改めて傷の手当てをした。


「刃は深くない」


「数日休めば治る」


沈硯が尋ねる。


「昨夜、どこへ行っていた?」


秦検視役の手が、一瞬止まった。


「城北だ」


「なぜ?」


「人に呼ばれた」


「誰に?」


「死人に」


沈硯は彼を見る。


だが、秦検視役はそれ以上説明しなかった。


蘇晩晴が眉をひそめる。


「死人が、あなたを呼んだの?」


秦検視役が顔を上げる。


「死体は人を呼ばない」


「だが、死人が残した物は、人を呼ぶことがある」


そう言って、彼は棚から一つの布包みを取り出した。


そして机の上に置く。


包みを開く。


中から出てきたのは、すでに黒ずんだ木牌だった。


沈硯は一目で分かった。


七道の水紋。


秦検視役が言う。


「これは二十三年前、ある死体から見つけたものだ」


沈硯は手を伸ばさなかった。


「なぜ今まで出さなかった?」


「昔は、怖くて出せなかった」


「では、なぜ今になって?」


秦検視役は沈硯を見る。


「気づいたんだ」


「こういう物は、今出さなければ」


「本当に誰の記憶からも消えてしまう」


部屋の中が静かになった。


その時。


少年が突然、木牌のそばまで歩いてきた。


木牌を見た瞬間、顔色が変わる。


「これ……」


秦検視役が振り返る。


「見たことがあるのか?」


少年は頷いた。


「趙六おじさんの部屋に、同じものがあった」


「触るなって言われた」


秦検視役は、それ以上尋ねなかった。


ただ木牌を包み直す。


そして言った。


「この子を、ここに置いておくことはできない」


沈硯が尋ねる。


「なぜ?」


「ここを知っている人間がいる」


秦検視役は窓の外を見る。


「それに、奴らはお前たちが俺を訪ねてくることも知っている」


蘇晩晴が眉をひそめる。


「では、府衙へ?」


「駄目だ」


秦検視役は即座に答えた。


沈硯が彼を見る。


「なぜ?」


「府衙の中に、情報を漏らしている人間がいる」


「確かなのか?」


「確かじゃない」


秦検視役は首を横に振る。


「だからこそ、賭けるわけにはいかない」


沈硯は反論しなかった。


昨夜、倉庫に突然現れた青袍の男。


あのことだけでも、それを示している。


自分たちの行動は、すでに誰かに知られている可能性が高かった。


⸻


その時。


外から、扉を叩く音が聞こえた。


長く三回。


短く二回。


秦検視役の顔色が変わる。


「誰だ?」


外から返事はない。


もう一度、同じ音が響く。


長く三回。


短く二回。


秦検視役が扉へ向かう。


そして、開けた。


そこに立っていたのは、陳旺だった。


服には昨夜、河で濡れた跡がまだ残っている。


顔色も青白い。


「どうしてここへ?」


秦検視役が尋ねる。


陳旺は家の中を見る。


「誰かにつけられた」


全員が立ち上がった。


陳旺はすぐに続ける。


「下役じゃない」


「男が二人」


「城西からずっと、ここまでついてきた」


沈硯が門のところまで歩く。


通りは、がらんとしている。


人影はない。


だが陳旺は安心しなかった。


「もう行ったはずだ」


沈硯が尋ねる。


「なぜここへ来た?」


陳旺は沈硯を見る。


「考え直した」


「何を?」


「昨夜、俺はあの人との約束を守るべきじゃなかった」


沈硯は黙っていた。


陳旺は懐から、一通の手紙を取り出した。


雨に濡れて、すっかり湿っている。


それを机の上に置く。


「これは二十三年前、ある人から預かった」


秦検視役は封筒の文字を見た瞬間、手を伸ばして押さえた。


「お前、正気か?」


陳旺は彼を見る。


「秦兄貴」


「二十三年前は、あんたの言うことを聞いた」


「でも今は、もう聞きたくない」


秦検視役は何も言わなかった。


陳旺は続ける。


「当時、あんたは言った」


「船を決められた場所まで送ったら、何も聞くなって」


「俺は約束した」


「二十三年間」


「ずっと何も言わなかった」


声が、次第に小さくなる。


「でも昨日、あの子が縛られているのを見て……」


陳旺は顔を上げた。


「急に思ったんだ」


「約束だって、長く守りすぎれば」


「人を死なせることがあるんじゃないかって」


誰も何も言わなかった。


蘇晩晴が陳旺を見る。


「どうして、今になって考えが変わったの?」


陳旺は苦笑した。


「俺も年を取ったからだ」


「若い頃は、自分の手で人を殺さなければ、人を害したことにはならないと思っていた」


「でも後になって分かった」


「時には、ただ船を向こう岸まで走らせただけでも」


「その一度の船で、二度と帰ってこられなくなる人間がいる」


彼は手紙を沈硯のほうへ押し出した。


「だから今回は」


「自分で一度、決めてみたい」


沈硯はすぐには手紙を開かなかった。


代わりに尋ねる。


「この手紙を俺に渡せば、どんな結果になるか分かっているのか?」


陳旺は頷いた。


「分かっている」


「死ぬかもしれない」


「そうだ」


「それでも渡すのか?」


陳旺は少年を見る。


「二人目は、もう見たくないからだ」


少年は俯いた。


小さな指で、服の裾を強く握っている。


⸻


秦検視役が突然、口を開いた。


「今は開くな」


沈硯が彼を見る。


「なぜ?」


「ここは安全じゃない」


「なら、どこへ行く?」


秦検視役はしばらく黙った。


「城南だ」


陳旺が驚いたように顔を上げる。


「まさか……」


「そうだ」


秦検視役は頷いた。


「あの人を訪ねる」


沈硯が尋ねる。


「誰だ?」


秦検視役は答えなかった。


ただ、少年を見る。


「この子には、本当にこの子を引き渡さない人間が必要だ」


蘇晩晴が尋ねた。


「誰?」


秦検視役は、ついに一つの名前を口にした。


「周婆だ」


「昔、河運司で飯炊きをしていた周婆」


陳旺の顔色が変わる。


「まだ生きているのか?」


「生きている」


「どこに?」


秦検視役は沈硯を見る。


「城南、白石巷」


「ただし、あの人はお前たちを信用しない」


沈硯が尋ねる。


「なぜ?」


秦検視役は少し黙ってから言った。


「二十三年前」


「彼女の息子が、あの七隻の船の中で死んだからだ」


沈硯は、それ以上何も聞かなかった。


ようやく分かった。


この老人は、ただの「証人」ではない。


彼女もまた、二十三年前のあの事件が残した、生きている人間なのだ。


今、自分たちがすべきなのは、彼女から答えを聞き出すことではない。


まず、彼女自身に決めてもらうことだ。


もう一度、あの過去に触れるつもりがあるのかどうかを。


沈硯は机の上の濡れた手紙を手に取った。


「行こう」


蘇晩晴が彼を見る。


「開かないの?」


「開かない」


「どうして?」


沈硯は手紙を懐にしまった。


「今の俺たちに一番大切なのは、そこに何が書いてあるかを知ることじゃない」


そして少年を見る。


「まず、こいつを生かすことだ」


秦検視役は沈硯を見つめた。


何も言わない。


ただ、静かに頷いた。


扉の外では、もうすっかり夜が明けていた。


南陵城の通りにも、人の姿が増え始めている。


朝食を売る者が荷を担いで通り過ぎる。


朝市へ向かう人々が店の戸を開ける。


誰も知らない。


一台の目立たない古馬車が、四人を乗せて白石巷へ向かい、ゆっくりと走っていることを。


そして、雨に濡れたあの古い手紙は。


沈硯の懐の中で。


静かに彼の胸元に寄り添っていた。


まるで、二十三年間も待ち続けた秘密のように。


だが、それが開かれる時は――


まだ来ていなかった。

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