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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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195 2026年5月29日(金)_01 正義の破壊が始まる

文翔館地下ドック。


先日の戦闘で大量に消費された銃器や各種消耗品の補充申請をまとめるため、

施設警備一班の嘉藤伸二と、狙撃手の更家景三は、

端末に向かい黙々とキーボードを叩いていた。


無機質な入力音だけが、広い空間に淡く響く。


その背後から、足音。


振り返ると、会計担当の斎藤が、

新人の武藤恵子を伴って歩いてきていた。


どうやら施設案内の途中らしい。


武藤は周囲を見回し――

すぐに、顔をしかめた。


ラックに整然と並ぶ銃器。

対物ライフル、突撃銃、見慣れない機構の兵装。


そのどれもが、“現実”から一歩外れた存在感を放っている。


その反応を見て、嘉藤は内心で苦笑する。


(……ああ、そうか)


(この人、普通の人か)


思い出すのは、

同じ光景を前にして目を輝かせながら、


「これいくらですか!?」


とハイテンションで聞いてきた片桐一葉の姿。


(……あれが異常なんだよな)


しみじみと、そう思う。


そのとき。


分厚い防音扉が開き、

射撃場と格闘訓練場のあるフロアから、

矢口、鈴木、那須が戻ってきた。


訓練後のわずかな熱気をまとっている。


斎藤が書類を軽く持ち上げる。


「消耗品の発注申請、確かに受け取りました」


事務的な口調。


だがすぐに、少しだけ声色が変わる。


「……しかし、今回。緊急とはいえ、1班に加えて狙撃班を出動させた児島さんの判断は正解でしたね」


一拍。


「最悪、死亡者が出てもおかしくなかった」


空気が、わずかに沈む。


嘉藤が短く答える。


「薬師如来の符と、治癒系ルーンを多めに持ってたのが効いた」


「助かったのは、あれのおかげだ」


少しだけ間を置いて。


「……あと少し遅れてたら、危なかったな」


矢口が、吐き捨てるように言う。


「まだ制服着てる年齢の女の子ですよ?」


「後頭部に鈍器で一撃、そのあと刺すとか……」


顔をしかめる。


「殺意、高すぎでしょ。胸糞悪い」


更家が静かに続ける。


「こっちが被害者を庇ってるの、分かってましたね」


「あの位置取り」


少し目を細める。


「狙撃のとき――あいつ、多分、笑ってましたよ」


空気が、さらに冷える。


「こっちが深追いできないの、理解してる動きだった」


視線が那須へ向く。


「……どう見る?」


那須が頷く。


「双眼鏡越しだけど、同じ印象」


「矢口が治療に入るタイミング、明確に潰しに来てた」


「更家さんの一発で止めたけど」


小さく息を吐く。


「いつもの“ちょっかい”じゃないね」


「明確な殺意があった」


鈴木が腕を組む。


「今回、新型の強化外骨格、テストも兼ねて嘉藤さんと矢口に着てもらいましたけど」


「鎌田さん調整の強化外骨格二体、それに更家さんの対物ライフル狙撃」


首を振る。


「それ回避してピンピンして逃げましたからね」


低く言う。


「……性質、悪いですよ」


斎藤が小さく頷く。


「予算の方は、こちらで何とか回します」


「対策、引き続きお願いします」


そして、少しだけ表情を緩めた。


「それと――」


「怪我をした女の子ですが」


全員の視線が向く。


「汚染がかなり強くて、山大医学部では対応が難しいとの判断です」


「渡部さんの手配で、聖メアリー・ティーチング大学病院へ転院が決まりました」


「カルテはすでに送付済みです」


一拍。


「おそらくですが、後遺症はほぼ、残らない見込みです」


――静寂。


そして。


わずかに張り詰めていた空気が、

ゆっくりと緩む。


誰も大きな声は出さない。


だが、確かに、

全員が安堵していた。


---


東京都千代田区永田町、

議員会館。


渡部信也の事務所の執務室。


控えめなノック。


「渡部議員」


秘書の木村が、書類を抱えて入ってくる。


「まもなく、青山教官と大沼教授が到着されます」


一拍。


室内を見回して、苦笑する。


「しかし……なかなか引っ越せませんね、この部屋」


渡部は老眼鏡を外し目を揉みながら

タブレットから目を離し、軽く肩をすくめた。


「すまんな」


「連中が来るのは助かる。総理から内閣府の大臣補佐官に任命されてな、部屋は用意されたんだが……」


タブレットを指で弾く。


「盗聴対策だの、会議室接続用の専用回線だの」


「改装に手間取ってるらしい」


ふっと息をつき、

ふいに画面を木村の方へ向ける。


「それより、これを見てみろ」


「なんです?」


木村が身を寄せ、タブレットを覗き込む。


表示されているのは、

信頼性の低い、いわゆる“グレーゾーン”のニュースサイト。


だが。


見出しだけは、妙に目を引いた。


「――現役国会議員、田中恒一議員に突撃インタビュー!」


木村の眉がわずかに動く。


「これは……?」


渡部は淡々と続ける。


「若手の小林くんに教えてもらってな」


「田中さんの息子――恒一議員だ」


一拍。


「なかなか面白いことをしてきた」


木村は記事をスクロールする。

数行読んだだけで、違和感に気づく。


「……これ」


「表現が妙ですね」


渡部は頷いた。


「ああ」


「“会議室”のことが、うっすら書いてある」


「だが怪異だの、超常だのは一切出てこない」


「戦争のパワーバランスや、経済干渉」


「“見えない勢力”としての弊害だけを、うまく切り取ってる」


少しだけ口元を歪める。


「着眼点がいい、だがな」


「この文章、彼本人が書けるとは思えん」


渡部はタブレットを軽く指で叩いた。


「秘書もな、優秀なのは全部、田中さんの指示で引き上げてる」


一拍。


「次の選挙に出る予定の次男の方に回してるらしい」


木村は静かに頷く。


「……なるほど」


視線を画面に落としたまま、短く言う。


「だとすれば」


わずかな間。


「外から補っているか」


「あるいは――」


ゆっくり顔を上げる。


「誰かに、書かされているかですね」


渡部はコーヒーのタンブラーを手に取り、ひと口飲む。


「世襲の連中はな」


「1999年の件も、“会議室”の存在も」


「うっすらとは聞いてるらしい」


「どれだけ志を高く持とうが、私腹を肥やそうが、人類が滅べば終わりだからな」


木村は静かに言う。


「弾薬か、食糧か」


「本当に命を預かる立場になりますからね」


一拍。


「人類同士の戦争ならまだしも……」


視線を落とす。


「それ以外は、正直、想像したくもありません」


そして、少しだけ肩をすくめた。


「だから私は議員にはなりたくないですね」


「先生のお手伝いができないなら、田舎に戻って……文翔館の地下にでも」


渡部が即座に返す。


「こら、“先生”はやめろ」


「性に合わん」


わずかに笑う。


「俺の地盤、いずれ君に継いでもらうつもりなんだからな」


木村は苦笑するが、何も言わない。


渡部は視線をタブレットへ戻す。


「話を戻す」


「裏で糸を引いてる奴がいる」


短く断じる。


「十中八九――奈良透」


「ナイアルラトホテップだろうな」


木村はすぐに応じる。


「奈良透」


「YouTuber“奈良トオル”、VTuber“混沌める”、成田仁……」


「確認されているだけでも四つの人格」


「同時出現の事例もあり、対応が追いついていません」


渡部の表情がわずかに険しくなる。


「位相遮断領域下の制限下で、山形ロボの複合装甲を剣山に変えた」


低く言う。


「……あれは一柱だけ、格が違う」


木村が一歩踏み込む。


「この記事、会議室経由で削除依頼を出しますか?」


渡部は、コーヒーを口に含んだまま、首を横に振る。


「いや」


「それは悪手だ」


「むしろ削除ストップをかけさせる必要がある」


木村の眉が上がる。


「なぜです?」


渡部は苦々しく笑う。


「記事の最後に書いてある」


指で画面を示す。


「“もしこの記事が削除された場合、それは会議室の存在の証明である”」


一拍。


「消すのは簡単だ」


「だが、消した瞬間、こっちの存在を証明することになる」


静かに吐き出す。


「……厄介な仕掛けだ」


そして、もう一つ。


タブレットの画面を切り替える。

アプリストア。


表示される名前。


――“Luthcoルスコ


「娘に教えてもらってな」


「このSNS、知ってるか?」


木村が画面を確認する。


「……10時間で投稿が消えるタイプのSNS?見たことないですね?」


「スポンサーも、大手コンビニや飲料メーカー」


「一見すると、普通のサービスですが」


渡部は静かに言う。


「その記事に書いてあった」


「制作総指揮――田中恒一」


木村の目がわずかに見開かれる。


「……え?」


渡部は続ける。


「会議室が提供したAIは、怪異関連の情報を削除する」


「YouTubeは約6時間周期」


「一般WEBは10時間周期」


「大手SNSなら4時間で対応」


一拍。


「……10時間なんだよ」


木村が小さく繰り返す。


「10時間……」


渡部は、ゆっくりと視線を上げた。


「偶然にしちゃ、出来すぎだ」


短く、吐き捨てるように言う。


「……嫌な予感がしないか?」


木村はすぐには答えなかった。


タブレットの画面に映る、

記事とアプリの情報。


それらを、何度も行き来する。


点と点を繋ぐように。


渡部は、その様子を横目で見ながら、

タンブラーを口に運ぶ。


一気に、飲み込む。


「……誰にとっての“旨味”がある仕掛けなのか」


わずかに眉を寄せる。


「まだ、読み切れんな」


静かに言った。

木村が、ゆっくりと口を開く。


「……少なくとも」


「“会議室”にとっては不利です」


「削除すれば存在を証明し、放置すれば認知が広がる」


一拍。


「どちらに転んでも、負け筋を引かされている形です」


渡部は、軽く鼻で笑う。


「盤面を固定された、ってやつだな」


「動いた時点で、負ける」


視線をタブレットに落とす。


「そして、動かなくても削られる」


木村が続ける。


「……となると」


「“会議室”を直接どうこうする目的ではなく」


「反応を観測する仕掛け、の可能性もあります」


渡部は小さく頷く。


「あるな」


「誰がどう動くか」


「どのルートで圧力がかかるか」


「どの企業が従うか」


「全部、炙り出せる」


一拍。


「……踏み絵だな」


木村の表情が引き締まる。


「では、仕掛けている側は――」


渡部は、かすかに笑った。


「奈良透なら、やりかねん」


「“面白がってる”可能性も含めてな」


沈黙。


部屋の中で、機材の微かな作動音だけが響く。

渡部は、もう一度タブレットを見る。


「……ただな」


低く言う。


「もう一つ、気になる点がある」


木村が視線を向ける。


「10時間で消えるSNS」


「削除監視が10時間周期」


指で画面を軽く叩く。


「これ、噛み合いすぎてる」


一拍。


「まるで――」


少しだけ言葉を選ぶ。


「“その隙間に情報を通すために作られた”みたいだ」


木村の背筋が、わずかに強張る。


「……つまり」


渡部は、静かに言った。


「削除される前提で、秘匿情報を流す場所を用意してる」


「しかも」


目を細める。


「“合法的に”な」


短い沈黙。


「……厄介だな」


その一言だけが、重く残った。

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